20
店員さんから四人分の簡易包装されたチョーカーの入った紙袋を受け取り、わたしは待合用のソファに腰かけた。
がさり、と紙袋の中を覗くと、箱が四つ。この中に、夫婦であることを証明するチョーカーが入っているのだと思うと、急に緊張してきた。
魔法付与、やってしまおうか、とナチュラルに手を伸ばし、慌ててひっこめた。
シーバイズとは違って絶対に目立ってしまう。シーバイズでも、町中でやっていたら、あれもこれもと頼まれるので、ある意味控えた方がいいのだが、フィンネルでは悪目立ち……というか、あからさまに異物扱いされるだろう。千年後のここではロストテクノロジーらしいし。
いや、でも、ウィルフさんを連れ戻す時に、人前で使ってしまったな……。面倒くさくなって使ってしまったが、今後、簡単に使うのはやめた方が得策だろう。次から気を付けよう、と心に深く刻み込む。
それにしても、待っている間に魔法付与をしてしまおうと思っていたので、すっかり手持無沙汰になってしまった。前世だったらスマホをいじったし、シーバイズなら魔法の練習でもしたんだけど。
仕方がないので、わたしは窓の外を眺める。
全体的におとぎ話に出てくるような建築模様と、行きかう獣人たちが「ここは異世界である」と主張してくるけれど、それさえなければただ外国へ旅行にきた気分になる。
ぼけ、と外を眺めていると、ばちり、と通行人と目があった。どこかで見たことがあるような――うわ、やば、ウィルフさんを探しに行ったとき、冒険者ギルドで絡まれた猿獣人だ。
わたしはスッと立ち上がり、いかにも「気が付いていませんが?」という風を装って、そそくさとイエリオさんたちのところへ戻った。いや、もう絡まれたくねえし。
「決まりました?」
後ろから話しかけると、ウィルフさん以外の三人がびくりと大げさに肩を揺らした。ウィルフさんはその見た目通り、聴力も獣に近いのか、わたしの接近に気が付いていたようだ。三人がアクセサリー選びに夢中になる中、ウィルフさんだけは積極的ではなかった、というわけではないと思う。多分、多分ね。
「も、もー、驚かせないでよ」
若干挙動不審めに言うのはフィジャだ。うーん、思ったより驚かせてしまったらしい。びっくりさせるつもりはなかったんだけど、悪いことしたかな……。
「やっぱり首輪以外となるとデザインの種類が……」
イエリオさんの言葉に、ショーケースを覗いてみる。……ネックレス、二種類しかない! 銀のチェーンのみのものと、パールっぽいものが連なったネックレス。後者は前世で母が葬式に出席する際に使っていたものを彷彿とさせる。
ネックレスも人気っていうの、嘘だったんだろうな……。まあ、わたしがドン引いてれば嘘をついて誤魔化す他なかったんだろう。
「もうこっちでいいんじゃない」
ト、とショーケースを叩くイナリさんの指の先には、銀チェーンのネックレス。うーん、まあ確かにその二択なら、わたしはそっちのが好きかな。
しかし、それに反対の声をあげたのはフィジャだ。
「え~、折角送るならちゃんとした奴がいい!」
フィジャの不満そうな声に、彼らのやりとりを見ていた店員が声をかける。
「よろしければ、オーダーメイドも承っておりますよ。数日お時間をいただくことになりますが……」
「それ、それにしよ!」
フィジャがぱっと表情を明るくして、店員の提案に食いついた。オーダーメイドとか、絶対高いやつなのでは……?
しかし、残りの三人も、特に反対する様子もなく、あれこれ店員に要望を出して、あっさりとオーダーメイドの注文を済ませてしまった。
「いいんですか?」
わたしが思わず聞いてしまうと、「気にしなくて大丈夫です」とイエリオさんに笑われてしまった。うーん、男のプライドとか、そういうのもあるんだろうか。贈り物の値段とか、見栄を張りたくなってしまうのか?
ともあれ、わたしのネックレスは後日受け取りとなり、このまま帰路に着くのかと思ったが――店に出たとたん、「では、次に行きましょう」とイエリオさんが言った。
「次、ですか……?」
装飾品を送りあうだけじゃないの? と不思議に思ったのだが、イエリオさんの次の言葉にそんな疑問は吹っ飛んだ。
「新しい家、探しに行きましょうか。あそこはウィルフの単身用の貸し部屋ですから。五人で住むには狭いでしょう?」
ああ、なるほど、確かにそうだ。
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