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 「おい、見ろよあれ」「よく話しかけられるよな」「あんな可愛い知り合いが?」「いやあれ絶対違うだろ、釣り合ってねえし」「だよなー」「てかあれ助けた方がよくね?」「俺なら触れない」「何か盗られて追いかけて来たんじゃね?」「一番ありえる」「でも名前呼んでなかったか?」「マジ?」……。


 ざわめきが余りにも大きくて、すべてを拾いきることができない。しかし、ざっと聞いただけでも、悪意のある言葉ばかりなのがわかる。

 でも、わたしには関係ない言葉ばかり。回りがどう思おうが、わたし自身は彼に嫌悪感を抱いては、ない。


 とはいえ、これだけ注目を浴びながら平然と話しかけられるほど神経が図太いわけでもない。

 帰ろう、という意味を込めて、わたしはウィルフさんの手を軽く引っ張った。

 しかし、反応はない。

 仕方ないので、口を開く。


「イナリさんたち、心配してましたよ」


 ざわり、と周りの声がまた大きくなった気がした。うーん、だからあんまり声をあげたくなかったんだけど……でも、これから嫁として彼らの隣に立つなら、悪意ある言葉と奇異の目はついてまわるのだろう。

 今はまだ慣れなくても、これからは気にならないようにならなくては。


「戻りましょう」


 ぐ、と強く腕を引っ張るが、ばしり、と手を弾かれてしまった。

 帰らない。わたしの言うことは聞かない。

 そんな意思の表れだった。


「……はあ」


 わたしはウィルフさんの説得を諦めた。いや、無理でしょこれ。そもそも、友人関係だったイナリさんが一度失敗したのだ。わたしがどうこう出来るはずもない。

 ――でも。


「身体強化〈ストフォール〉」


 連れ戻すことを諦めた訳じゃない。


「なっ……!?」


 わたしはひょいとウィルフさんを担ぎ上げた。パワーリフティングよろしく、両腕をあげて。

 ウィルフさんの身長がいくつかは知らないが、わたしより1.5倍はある。俵担ぎですら、手足を引きずる可能性があったので、結果としてこうなった。


「はーい、戻りますよー」


 わたしはそのままつかつかと歩いて出口へ向かう。説得に成功して大人しく連れて戻すのが一番だったが、仕方ない。


「おい、下ろせ!」


「大人しく戻るなら下ろしますよ」


 身体強化〈ストフォール〉という、筋力を向上させる魔法を使っても、暴れるウィルフさんを持ち上げ続けるというのは大変なので、大人しくしてくれるならわたしもその方がいい。あと単純に、腕を上げっぱなしにするのは疲れる。

 さっきまでとは違う様子のざわめきが広がる。そりゃあ、女の子が自分より遥かに大きい男を持ち上げてたらそうなるよね。


「ね、ねえ!」


 声をかけられて、振り替えると、先ほどもわたしに話しかけてきた猿獣人の少年がいた。


「そいつとは、どんな関係なの?」


「どんなって……ふう、ふべっ!」


 夫婦になるんです、と言おうとしたら、べちんと顔に何かが当たった。これは……ウィルフさんのしっぽ!

言うな、ということなのか、強めにべちべち顔を叩かれる。

 いや、でも、これ……最高だな!?

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