13

 許可も貰ったことだし、とわたしはそっと扉を開けた。何か文句を言われたら猫獣人さんのせいにしてしまおう。


 中はがやがやと賑やかで、なかなかの広さだった。けれども、行きかう獣人たちのほとんどが体格のいい男性ばかりだから、なんだか圧迫感がある。入ってすぐは広いホール。右側の壁にはたくさんの紙が貼られていた。さっき見えた掲示板はほんの一部だったらしい。さっき、猫獣人さんが冒険者ギルドだと言っていたし、おそらくは依頼書が張り付けられているのだろう。


 左側の空間には、木製のテーブルとイスがいくつか。食堂のカウンターのようなものも見えるので、多分そこは飲食スペースだと思う。

 出入口をまっすぐ歩けばずらりと受付が並んでいた。一つずつ区切られた受付に、一人の職員さんが担当しているようだ。


 その壁から壁へ、奥の一面を使ってできた受付たちの一つに、ウィルフさんの後ろ姿を見つけた。周りの獣人は人ベースで、ウィルフさんの様に二足歩行の動物、という風貌の人は他におらず、目立っていた。見つけやすくていいな。いや、本人的には良くないのか。


「ねえ、君、どうしたの?」


「だから不審者じゃないですよ!?」


 ウィルフさんに声をかける前にわたしが声をかけられてしまって、反射的に言ってしまった。入っていいって言われたもん! すごく投げやりだったけど言われたもん!

 声をかけてきたのは……ちょっと何の獣人か分からないな。ほとんど人間と変わらない。服の下に鱗があるのかな。あ、いや、でも耳が人間に比べたらちょっと大きい。というか、人間とほとんど同じ位置にある……なるほど、猿か? 猿だな?

 あっさりとしていて、特徴のない顔立ちの少年。人畜無害そうな感じだ。


「依頼者? どんな依頼かな、俺が受けようか」


 ……前言撤回しよう。なんだかぐいぐいとくる少年はちょっと怖い。物理的な距離も近いし。

 わたしが一歩下がると、彼もまた一歩近づいてくる。なんだ、この圧。


「い、依頼じゃないです。その、人を探して」


「へえ? 一緒に探そうか?」


「結構です! もう見つけたので。それでは!」


 半ば強引に話を打ち切る。まだ話したそうな雰囲気を出されたし、何より声をかけられたが、聞こえないふりをして無視を決めこむ。

 また誰かに声をかけられないように、少し速足でウィルフさんの元へ向かった。


「ウィルフさん!」


 もう逃げられないように、彼の腕を後ろからひっつかむ。


 ――すると、冒険者ギルドが一瞬にして、静まり返り、そしてすぐに先ほどまでとは比べ物にならないざわめきが、この場を支配した。


 え、何?

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