12
……それにしても、視線が痛いな。
ちゃんと変態〈トラレンス〉使えてるよな? と思い、頭をなでるとちゃんと耳の感触がある。しっぽだって、生えてる。スカートがひざよりやや下なのですっぽり隠れてしまっているが。
なんだろう、やっぱりちゃんと猫獣人に見えないのかな。わたしに分からないだけで、獣人間では何かを察知する器官みたいなものがあるのだろうか。イエリオさんは大丈夫って言ってくれたし、それどころか好感触だったわけだけど、大勢の前に出ると不安がぬぐえない。
「おっと……ここか」
あまりに耳としっぽを気にしすぎて通り過ぎるところだった。
索敵〈サーヅ〉が結んだウィルフさんへの線は、この建物の入り口で途切れている。ということは、この建物の中に彼がいるということだ。
周辺の建物と比べて随分と大きい。古びているが、あまり汚さや老朽している雰囲気は感じられない。綺麗に使われてる証拠だろう。
扉のすぐ横にある窓から中を覗いて見ると、武器を持った獣人や制服と思わしき衣服に身を包んだ獣人なんかがいる。
それから、受付っぽいところと、掲示板らしきものと……うーん、よく見えないな。窓にへばりついて見れば、もっとよく中の様子を観察出来るだろうが、それじゃあただの不審者だ。
ウィルフさんがいるのは分かっているので、中に入りたいが、部外者の出入りが可能な建物なのかは分からない。
こうなったらウィルフさんが出てくるのを待つしかないのか? と思っていると、背後から声をかけられる。
「何か御用ですか?」
「不審者じゃないんです!!」
わたしは反射的に答えていた。めちゃくちゃ怪しいじゃん……。
恐る恐る振り替えると、人の良さそうな笑みを浮かべた獣人が立っていた。青年、というには少し若い猫獣人だ。
建物の中にいる、獣人の何人かが来ていた制服みたいな服を着用している彼が纏う空気は柔らかい。セーフか? 不審者判定、されてないっぽい?
彼の手には箒が。外の掃除中に、わざわざわたしに声をかけてくれたのだろうか。
「あの、ちがくて、えっと、この建物はなんですか?」
焦ってかなり挙動不審になってしまったが、それでも怪しまれる様子はない。彼がお人好しなのか、それともこの街では、この程度は怪しむに足らないほど不審者がいるのか。後者だったら普通に嫌だな。
「……冒険者ギルド。なあんだ、依頼者じゃないのかよ」
猫獣人さんの雰囲気がガラリと変わる。先程までにこやかだったのに、随分とトゲトゲしいものに変わる。気だるそうに、髪の毛先をいじりはじめた。
なるほど、営業スマイルだったのか。
「依頼、じゃないんですけど、あの、人を探してて……中に入っても大丈夫ですか?」
「別にいいんじゃない、勝手に入れば? あーあ、話しかけて損した」
それだけ言い残すと、猫獣人さんは掃除に戻ってしまった。
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