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外は随分と人通りがなく、薄暗かった。住宅街なのか、様々な家の入口が並んでいる小道には、人影が全くない。右と左、どちらに向かえば大通りに出るのかは分からない。先ほど使った探索<サーチ>では、辺りを見回す『目』である飛翔体をすぐに高度な位置まで上げてしまったので、細かいところは見ていないのだ。
「っと……、索敵〈サーヅ〉!」
探索〈サーチ〉に似た魔法をわたしは展開させる。索敵〈サーヅ〉の飛行体は半透明で白い索敵〈サーチ〉のものとは反対で灰色に濁っている。形はちょっとトンボっぽい。
本来は刑務所に収監された犯罪者が脱獄した場合に使うマニアックな魔法なのだが、熟練者になれば索敵〈サーヅ〉用に魔法登録されていない人物でも、顔が分かれば探し当てることが出来る。
ちなみにわたしはもちろんできる。前世はオタク、というほど、どっぷりアニメにハマっていたわけではないが、多少なりとも漫画を読んでいればやっぱり魔法への憧れはそれなりにあるもので、魔法の勉強はたくさんしたし、適性のないもの以外は習得している。
「ウィルフさん……ウィルフさん……」
『目』が自由に動き回るように視界が変わる探索〈サーチ〉と違って、索敵〈サーヅ〉は目的の人物を見つけるまで視界が変化することはない。わたしはひたすらにウィルフさんの顔を思い浮かべる。
少しして、ぱちん、と何かがハマるような感覚が体を走る。
見つけた。
瞬きを一つすると、石畳の小道に、索敵〈サーヅ〉の飛翔体と同じ色をした線が伸びていた。これをたどれば彼の元へとたどり着ける。
わたしは迷わず走り出した。
コツコツとわたしだけの足音だった辺りが、だんだん人の声が聞こえるようになってくる。ウィルフさんへと続く線だけを意識して走れば、ぱっ、と大通りに合流した。
「す、すご」
行きかう人々はみな獣人ばかり。犬、猫、うさぎ、狐、たぬき……ほかにもパッと見では何の耳か分からないような人たちもたくさんいる。動物の耳を持たない人でも、肌に鱗があり、本当に、獣人しかいない。
シーバイズ国で生活していた時は、生活形式以外は前世と大して変わらなかったからか、魔法はともかく、街並みなんかはあまり『ファンタジー』という感じはしなかったが、この光景はまさに『ファンタジー』そのものだ。
観察してみたい、と一瞬ぐらっと来たが、足元の灰色を見てそんな場合じゃないことを思い出す。何のためにわたしはここにいるのだ。
流石にこの人混みの中を走るのは難しいので、露店が並ぶ大通りをわたしは歩く。さりげなく店の値札を見れば、まったく分からない文字だった。早めに語彙増加〈イースリメス〉を使っておいて良かった。言葉も違う可能性は高い。
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