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ほとんど犬と変わらない彼は、いじめられることもあったのだろうか。いや、もしかしたら、迫害レベルの可能性もある。わたしはあまり気にならない……というかむしろ、あのふわっふわな毛を触らせてほしいと思うのだが。
とはいえ、ずっと他者に虐げられて生きてきたのであれば、ポッと出の人間に会うのも抵抗があるだろう。
「彼女と結婚しないと君が死ぬかもしれないんだよ! 遠い未来に飛ばされた彼女も覚悟を決めたんだから、ウィルフも我慢して!」
引きずられながらもなんとか抵抗する姿勢を見せるイナリさん。
「人間との結婚を『我慢』と来ましたか……」
「まあウィルフのことを考えたら無理もないよ。ボクらとつるむようになって以来、友人どころか知人すら増えてないでしょ。今から関係築くの、それなりにストレスだとは思うけど」
ぼそぼそと小声で話し合う二人。予想以上にウィルフさんと仲良くなるのはハードルが高そうだ。
「ちなみにそれはどのくらいの期間なの……?」
試しにフィジャへ聞いてみると、「三年くらいかなあ」という答えが返ってきた。三年か。それは確かに、新しい人間関係を作るのは躊躇しそうだ。
「マレーゼさんは、彼を見てなんとも思わないんですか?」
「え、特には。ふわふわした毛並みだなあとしか。ファンタジーっぽくてかっこいいですよね、二足歩行の動物って」
「そう、ですか……。千年前の人間は皆、こんなにも寛容なものなんでしょうか」
それは個人によると思うけど……。とはいえ、今更確認のしようもない。「人ぞれぞれじゃないですか」と返しておく。
しかし、そういう反応をするということは、この時代の人間はそうでもないのか……? とちょっと思ったけど、そういえば人間はほとんど貴族とかと結婚しちゃうんだっけ。だったら聞いても分からないか。
そんなことを考えてると、赤の瞳と目があった。ウィルフさんの赤。
揺れる視線に、やばい、と思った。
それは一瞬のことで、ガッとイナリさんが振りほどかれる。先ほどまでとは違う、切羽詰まった抵抗。
「ちょっ……」
イナリさんが抗議の声をあげる暇もない。あ、と思わず声をあげてしまうと、ウィルフさんの肩が大げさなまでにはねる。
そして、ウィルフさんは素早い動きで逃げ出した。目にもとまらぬ速さ、というのはこういうことをいうのだろう。
わたしは扉を開けた。
「すみません、のぞき見なんかして。わたし、追いかけます!」
放置していても先に進まない。
絶対に連れて戻ってくる。
三人にそう言い残し、わたしはウィルフさんの後を追った。
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