15
ウィルフさんのしっぽはとてもふかふかしていて、肌触りがいい。冬の朝、いつまでも共にいたくなる、体温が移って温かく居心地のいい毛布にそっくりだ。
「勿論、わたしがよ、べっ! ……つ、ぶっ! ……おくっ、んへ!」
「お前わざとだな!?」
「肌触りがよくてつい……へへっ」
わたしとの関係を言おうとするたびしっぽが顔に当たって、顔面が幸せになる。後で触らしてくれないかな……。
ま、ふざけるのも大概にして、イナリさんたちの家に戻らないと。
「……貴方に関係ないので、秘密です」
ウィルフさんが話して欲しくなさそうなので、適当に返事をすると、猿獣人さんは酷く驚いたような顔をした。
その反応はなんだ……? と思ったが、そう言えば人間に近いほどモテるんだっけ、ということを思い出していた。
ならば、猿獣人はさぞかし人気なのだろう。だから、こんな風に適当な扱いをされたことがないのかもしれない。
「っ、俺よりも、そんな出来損ないを優先するの?」
ぎ、と猿獣人に睨まれる。面倒ごとになりそうだ。
出来損ない、という言葉にウィルフさんが反応したのが、腕越しに伝わってくる。
「出来損ない? 他人より知人を優先するのは当然でしょう」
わざと、他人、という部分を強調してわたしは言った。お前と仲良くする気はない、という意味を込めてだったのだが。
まあ、わたしは博愛主義でも善人でもないので、差別をするなとか、みんな仲良く、とか、そんな綺麗ごとを言うつもりはない。悪口も、差別も、しょうがないものだと思っている。
でも、面と向かって言われて気分がいいか、と言われたら絶対に否、なのだ。
猿獣人は、そんな風な扱いを受けたことがない、と言わんばかりに驚き、悔しそうに眉を吊り上げていた。
これ以上、なにか言われる前に、とわたしは急いで出入り口の扉へと向かい、外へ出る。ちょっとお行儀悪いけど、足で蹴り、開けさせてもらった。
外に出ても視線はささる。むしろ、ことの成り行きを全く知らない分、何度も見直してくる人ばかりだ。
持ち上げているのがウィルフさんじゃなくても、女の子が自分より大きな男を抱き上げて歩いていたら普通に注目の的である。
そんな視線に耐えられなくなったのか、ウィルフさんが声をあげた。
「おろしてくれ」
「逃げないでちゃんと家に戻るなら下ろしますよ。わたしだって注目されたくないですし」
「……分かった。分かったから」
ウィルフさんの言葉を信じ、わたしは彼を下した。地面に足をつけた彼は、じっとわたしを見つめてくる。やっぱり身長高いなあ、などと見上げながら、「家についたらちゃんとイナリさんに謝るんですよ」とわたしは言った。
「……ああ」
まだ、どこか不満げではあったが、ウィルフさんは確かにうなずいた。
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