第92話 アルバートおじさんと商談
「ログ…ハウス?」
「はい!」
珍しくフランソワ君が自信ありげに頷く。そして、がさがさと紙面を出した。
「【工作・手芸全般】がLv6になったんです。そうしたら、ログハウス制作が選べるようになっていたんです。それを選ぶと設計図が出てきました」
うわお。
「え? Lv6で建てるには大物じゃない? じゃあ10になったらお城でも建てられるの?」
思わず口にする。【大工】とか【建築】ってスキルなかったっけ? それらの立場は?
設計図は紙面の上で立体スクリーンになっていて、ログハウスの組み立てから すべて映像で手順を確認出来るようになっていた。
(え? 魔法で一発建設でなく、基礎工事から水回りから自分でやんの? あ、キッチンルームを別棟で接続すればいいのか。
……この映像、見覚えあるわ。実際のDIYホームセンターでログハウスキットの売り場で流れていたもん。そーか、大人の事情でLv6で建てさせるようにしたのね……)
【裁縫】のレシピも学校用学習AIの流用っぽいし。確かに、ゲームで一連の流れを体験しておけば垣根が低くなる。実際に購入ためらっていたDIY好きには効果あるよね。
そう気が付いたのは、動画の最後に「基礎工事、水回り、電気工事は現実では専門家にご依頼ください」と出て、見覚えあるCMが流れたから。
ちょくちょく現実に引き戻すね、このゲーム。
「必要なものは金具、木材と基礎工事用のコンクリートだね」
「木材! ついに、おねーさまも開拓へ参加ですわね!」
おっと、そうだ。私も開拓参加しなくちゃ。モンスター倒してばかりじゃなく。そんで木材分けてもらおー。
金具は【冶金】で作れるものばかり。これは良し。
コンクリは…どこで調達だろう?
木こり小屋に本日のお昼を差し入れ。
"華御膳"ではなく、ガテン系には肉!ということで"牡丹サンド"です。これは普通にステータスアップ料理。体力アップの効果あり。武器屋のおばさんレシピである。"パワパワキノコのスープ"と一緒に召し上がれ~。
「うまい! やっぱ、肉だな!」
「美味しいです、ハイ」
アルバートおじさんと神官のトッドさんの賛美に酔いしれる。
おほほ、今の私なら"ダシノモト"に頼らずともここまでの味が出せるのよ。
「まだ他の木こりさんや冒険者さんは戻っていないんですね。あとで温めなおして召し上がってください」
「ありがとうな、フェザント。ところで相談ってなんだ?」
「えぇっと、実は家を建てようと思っていまして。基礎に使うコンクリートを手に入れたいんです…が、おじさん、入手可能です?」
アルバートおじさんがスープ皿にスプーンを置く。
「コンクリートねえ…。そいつは聞いたことないなあ…。基礎工事は専門業者に頼むのが習いだな。だが、たしかセメントは入手可能だぞ」
(えーと、コンクリはセメントと砂利などを水で混ぜたものか。セメントは接着剤の役割なのね。うーん、じゃあプレーヤーは基礎工事で工夫出来るってことかな? 基礎で使う素材で家の出来が変わるの? 空でも飛ぶってか?)
ちょっと、意味わかんないなと首をひねる。
「ちなみにセメントだけ入手だとおいくらに?」
「これ位だな。だが、ちょっとフェザントに頼みたいモンがあってな。あの"華御膳"に使われていた器や、このスープ用の深皿の器だけ、販売する気はないか?」
――意外な申し出だった。
詳しい話を聞くと、先日ファンシーに戻り、弟のビリーさんちで"華御膳"を出しビリーさん夫婦と一緒に昼食にしたそうだ。
そう、あの意識高い系の年齢差ご夫婦である。
その時、あの二人が華御膳の器に食いついた。
なんとか、これを入手出来ないかと。
"華御膳"自体、セットのものなので中身を食べてしまったら器ごと消える。
出来れば この素材でカトラリー一式を作ってほしいとのこと。
(ビリーさんご夫婦にはお世話になっているからな~)
「いいですよ。えっと、スプーンやフォークは持ち手だけ木の素材で、先はこんな風になるけどいいでしょうか?」
インベントリから見本を出す。フランソワ君が私たち用に作ってくれたカトラリーだ。
「…こいつはスパークリングダイヤじゃないか?」
「キラキラして綺麗でしょうー?」
ホームエリアの採集地点で集めた素材しかなかったので、一番 数の多かったスパークリングダイヤでスプーンやフォーク、ナイフの刃先を"粉末冶金"で作成したのだ。スパークリングダイヤは角度によって色味の変わる玉虫色の貴石で、持ち手の蒔絵部分と合わせてなかなか高級感があるのよ。
ダイヤなので頑丈だし。
ちなみにメリッサちゃんが【精霊歌】の"解毒"を【
「"解毒"作用付き…。これは…」
おっと、武器屋のおじさんの目が光る。商人の目だ。
「――フェザント、これを富裕層向けに いくつか数を揃えたい。出来るか? それと、皿からカトラリーすべてスパークリングダイヤで作ることは? こっちは一揃えでいい。どうだ?」
私はフランソワ君を見る。
「出来ます」
フランソワ君が大きく頷く。
「そうか。……よっし。…もうひとつ。このカトラリーの作成方法を売ることは出来るか? どんなスキルを使って、どういう工程で作ったか、をだ」
「え?」
「エデンの輸出品は伐採した木とスパークリングダイヤだが、ただ木材や鉱物資源をそのまま売っても先が見えてる。加工品で盛り上げたい。この漆工芸の加工品をエデンの特産として売り出したい。そのためには数が必要だが、フェザントだけで作ってもたかが知れている。
お前さんは
だがそれには作り方――レシピが必要だ。それを買い取りたい。勿論、嫌なら断ってくれ。お前さんにとって大事な飯のタネになる品だ。……どうだ?」
「え、えーと、この【
「心配ない。"解毒"自体は初期ジョブの治癒師が たいがい持っている。【
(そうだ、この人たちの店は始まりの町ファンシーの、スキル取得するイベント発生場所だったもんね。私もおじさん家やビリーの店でバイトして生産系スキル取得したんだもん。……いい考えかも。でも、【冶金】は不人気スキル…)
――いや、逆か。
【錬金】の発生させやすいベータや1陣と違ってカルマ値低い新規組が来たら、彼らにとって取得SPが低い【冶金】は使い勝手のいい初期スキルになるのでは?
CMを流すということは『ファンシーライトオンライン』に新規が入ってくるということ。
『ファンシーライトオンライン』の開始当初の取得金の少なさ、今の生産系スキル取得が重要というプレーヤー意識から見て、【冶金】取得可能の依頼は人気を博すのでは。
――おじさんの狙いは…当たる!
私は、きりりと顔つきを変えておじさんに向き直る。
「商談に応じましょう!」
「ありがてえ! では報酬だが…」
言いかけたアルバートおじさんを手で制す。
「金銭でなくてもかまいません。私の希望を聞いてもらえれば結構です。スパークリングダイヤの…シャンデリアを作っていただきたい!」
私のその言葉に、おじさんがポカンとした顔で言う。
「え? シャンデリア?」
そう、シャンデリア。シャララン。
ファンシーライトオンライン 宵川三澄 @yoikawa
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