第91話 体質改善、魔改造


運営から来たメールは重要度「高」だったので早速開いた。


「んん、イメージトレーラー制作にあたり、アバターの露出許可の確認…。――ああ!」


そうだ、すっかり忘れていたけど、『ファンシーライトオンライン』でCMにも使う動画トレーラー作るんだったよね。前回のレイドイベント時、顔出し確認メール来ていたっけ。

それには、OKで返したと思ったけど? どうせ、モブシーンでしか出ないし。…せいぜい珍しいシーンだとしたら、アリアドネと一緒に"呪い"にかかったくらいか?


(あの【魔弾の射手】の呪いは今だ別の人がかかったという話は聞かないし…。うん、もし大きく出るとしたらあれくらいだね。全身まっくろくろすけで、個人特定出来ないわな。

あ、いや、逆にわかる人にはわかるか。まあ、いいや、それ位。だって、今私、僻地エデンで活動中だもん!)


確かお姉ちゃんの友達のマーヤさんはお仕事として出演するって言っていたっけ。もともとゲーム系タレントさんだもんね。

お姉ちゃんも実は一緒に撮影したって。バイト料もらったよ! とはしゃいでいたなー。

プレーヤー名や性別といった隠せない情報もちゃんと動画では消してくれるっていうし、私は普通に一般向けのフェイスパターンの加工しかしていないしチラッと顔や全身が出ても無問題よ。


「再確認だよね。んっと、承諾、と。送信~」


メールに返信し、ふとステータスの端に「!」マークが出ているのに気が付く。

気にはなったが、フランソワ君が【冶金】で何を作っているかの方に興味をそそられた。


"粉末冶金"というのは粉にした金属を型にはめて、複雑なパーツを作れる技術だそうだ。もちろんゲームなので簡略化されていて、簡易キットに付属されていた型に鉱物の粉を混ぜ合わせて入れて魔力を流すだけで完成だ。

【冶金】は他にも鉱物からさらに新しい鉱物アイテム制作も出来るスキルだった。


どうやら、【冶金】は【錬金】のロウルート用らしい。


ただ【錬金】自体、隠しジョブ"錬金術師"イベント発生しなくても行動によって派生、取得出来るから人気のないスキルみたい。

このゲーム、地味にカルマ値高いメンが多いから、隠しジョブ"錬金術師ルート"攻略中のプレーヤーが多いようだ。

隠し、と言っているけどドールマスターにしろ、錬金術師にしろ発生条件が複数あるし、存外簡単に発生する。

ドールマスターはオークション入手でもドールマスターイベントは出てくるそうだ。ただし、ドール種の好感度がマイナスから始まるので逃げられる率がめちゃくちゃ高いらしいけど。

金銭トレードで我が家にやってきたフランソワ君、そういう条件から見たらまだ信頼ゲット、とは言い難いよね。

フランソワ君にとってもメリッサちゃんがいてくれて良かったよ。

おかーさん、頑張るわ。


(さて、フランソワ君は何を作っているのかな?)


一応一点しかないアイテムだけ使用禁止にして、フランソワ君には自由に【冶金】を楽しんでもらおうと設定したのだ。キット付属の型は結構色々入っていて、指輪や杖、装飾用のチェーンなんかも作れるものだった。


(出来たものにメリッサちゃんの【精霊歌】を【付与エンチャント】したらいいんじゃないかな~。雨合羽はすごく使えたし)


そう考えホクホクしながら型抜きしているフランソワ君を見やると、なぜか苦い顔しながら果実水を飲んでいる…。

そして、いつの間にか【変化】で小学一年生サイズになっていたメリッサちゃんがそんなフランソワ君のおなかをぽんぽんして、腹具合を見て、うんと頷いている。お医者様か。


「いや、待て、きみたち、何をしてるんだ!?」


ハッとした顔でメリッサちゃんがそそくさと私に背中を向け、【調薬】に集中する。

フランソワ君はあわてて私を見て「ボクのぽんぽんは丈夫です!」と言い放つ。

大体察するけど、何やってんだい、メリッサちゃん。

不審だ、不審しかない。


そして気づく。今、メリッサちゃんに【料理】を付けていないことを…!


やっぱ、またかー!


――と思ったが、ふとさっき見た「!」マークがひっかかり、ステータスを開く。

「!」マークはメリッサちゃんの名前の上で瞬いていた。

そこをクリックすると、イベント発生のメッセージが出た。


『【調薬】によるステータス料理の成功、完食率により、条件到達。改造イベント発生中』


そして、フランソワ君の名前がピコンピコン光っている。それと、フランソワ君の満腹度が90で、ここも点滅している。普段、満腹度が点滅することなんてないのに。


「…改造?」


私の頭にバッタの顔の改造人間が浮かんだ。


(いや、いや、待て待て。それはないだろう)


浮かんだイメージを頭を振って打ち消すと、また、メリッサちゃんが手に何かを持ってフランソワ君に近づいている。

しまった、【調薬】で作っていたものは…!

私が慌てて二人に走り寄るが時すでに遅く、フランソワ君はメリッサちゃんの作った、匂いだけは美味しそうなマジマジキノコスープを涙目で平らげていた。満腹度がビカッと点灯し、マックス100になっている。

……すると、フランソワ君の体が紫色に光る。


「おねーさま、今です! フランソワの体質改善が可能ですわ!」


私はこの言葉に我に返った。なんと、メリッサちゃんてば自力でイベントフラグたてておった!

しかも、体質改善って、フランソワ君の魔力値向上が可能なイベントか…!

何たる奇跡、メリッサちゃん、あなたホントに天使だよ!


眼前に『改造スロットマシーン』、と機械的な音声が流れスロットマシーンが現れた。


『ステータス料理であげられる項目の成長率変更が可能です。ボタンをタッチし3つのスロットすべてを同じイラストにすれば成功です』


やった、これ系得意だ!

――と勢い込んだが、スロットはフルーツイラストになっていて――どれが魔力なのかわからな~い! フルーツの数も多い!


「おねーさま、落ち着いて! きっと…この葡萄のイラストが魔力ですわ!」

「ぼ、僕は柿だと思います…!」


二人の後押しに私も気持ちを落ち着け、スロットを凝視…したら、何が魔力を意味するイラストか判断ついた。

そして、転がる豆の中でひとつだけ印のついた豆を掬える自分に感謝し、ぽんぽんぽん、と落ち着いてスロットボタンを押した。

並んだイラストは、――あの毒々しいマジマジキノコだった。


『ドール種フランソワの体質改善に成功しました。魔力値成長率が上昇しました』


そのメッセージにちびっ子ドール二人が手をつないでジャンプして喜ぶ。


「さっすが、おねーさま!! フランソワも好き嫌いなく頑張りましたわ!」

「さすがです、マスター!! ボク、ボク、魔力量高くなりたかったんです! 魔力は絶対柿の絵だと思ってました。キノコだってよくわかりましたね!」

「いや…、さすがにわかるし。てか、フランソワ君、メリッサちゃんに食わされていたもの何なのか知らないわけではなかろう…」


ハッ、そうですね! と今 気が付いたみたいな顔するフランソワ君。


(もしや、天然? 知性高いはずだけど。――まあ、いいか。私も喜ぼうっと)


そして、彼が【冶金】で作っていたものに目を落とす。

ホイールと――蝶番? それに沢山の釘だ。


「えっと、これは何に使うの?」

「ホイールはカッターです。こっちのは砥石です。【工作・手芸全般】でこういうものを作ったのでそれにセットすると…」


足踏みミシンの台みたいなものにカッターをセットすると鉱石をカットできる仕様だ。そして幅広のホイールの形したものは砥石で鉱石を磨いて宝石のように輝かせる。これはすごい…!


「で、この蝶番や釘は?」


私の問いに、フランソワ君は頬を赤らめて言った。


「ログハウスを建てるのに使います」

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