第90話 生活拠点を調えよう


私の眼前には晴れ渡る空が広がっていた。

エデンに来て以来、初めての青空である。


そしてメッセージが流れた。


『"雨の精霊の解放"に成功しました。成功報酬10SP取得。【精霊魔法】を取得しました。"虹の魔石"を入手しました』

『【呪歌ガルドル】Lv10があります。統合条件が整っています。【精霊魔法】と【呪歌ガルドル】が統合可能です』

『【精霊魔法】と【呪歌ガルドル】を統合しますか?』


(と、統合? スキルスロットを使わなくて済むのはありがたいけど、【呪歌ガルドル】の効果や使い勝手が変わるのかな? どうしよう)


ん~と悩んでいたら、メリッサちゃんがクイと私の服の裾を引いた。メリッサちゃんは瞳をきらきらさせて言う。


「おねーさま、【精霊魔法】はぜひぜひ わたくしに賜りたく! 立派にお役に立ってみせます!」


(…【呪歌ガルドル】も【精霊魔法】もメリッサちゃんが使うのだから、このまま統合させちゃおう。きっと、使いこなしてくれるよね)


私のメリッサちゃんへの信頼は厚いぜ。と、いうので、返事は「はい」、だ!


『【精霊魔法】と【呪歌ガルドル】を統合しました。統合スキル【精霊歌】を取得しました』


すると、メリッサちゃんが一瞬ぱあっと光った。


「おねーさま! わたくし、力がみなぎるようですわ!」


水晶のワンドを高く掲げてポージング。

念のため【精霊歌】の確認してもらったところ、呪歌ガルドルで覚えた魔法も無事残ってました。


「へー、【精霊歌】は広範囲魔法や複数指定できる魔法が多いね」

「こ、攻撃魔法がありますわ! ついにわたくしも敵に鉄槌を下す時が…!」


ほおおお、と打ち震えるメリッサちゃん…。どんだけ戦闘民族なの…。






さて、ホーム拠点に戻った私たちは、活動を開始する。

当初の目的通りに、生産活動だ。


ホームのすぐそばの河原は思った通り、カラフルな硝子の玉のような石で埋め尽くされていて、現実よりずっと煌めいている。

ようやく見えたお日様が反射して――。


「めっちゃ、眩しい…」

「小石にお日様が反射して、お目々を焼きますわ~」


キラッキラしすぎだぜ。

靴を脱いで川の涼やかな流れに素足を浸しながら、【採集】である。意外やこの川には採集できる鉱石がごろごろしていた。

ミミッキーは採集スキルはないが色々あちこち見て回るのが好きらしく、わりと単独行動するのだ。このホームエリア内での採集可能地点を見つけたのも彼だ。

ミミッキーが咥えて持って来た小石が【冶金】で使えるとわかり、さっそく集めることにした。

お水が怖いフランソワ君はキッチンルームの中で集めた鉱石で簡易冶金キットで【冶金】中。

粉末冶金、という方法が選択出来て、まずは乳鉢で鉱石を粉状にする作業をしている。

メリッサちゃんは1/12サイズに戻ってジローに乗って、私の周りでふよふよ飛んでいる。


「スパークリングダイヤだってー。藍銅鉱っていうのもあるよ~。見て、ジロー、メリッサちゃん…」


見つけた鉱石を拾い上げて二人を見やると、お人形サイズの彼女が川に流されていく。


「あ~れ~!」

「なに、流されてんの~!!」


思わず ざばざばと川の中を駆けてメリッサちゃんを掬い上げた。


「うう、つい、綺麗な石があったので身を乗り出してしまいました~」


ジローがあわあわしていて、メリッサちゃんがそれにごめんなさいと頭を下げている。


(いや、メリッサちゃんでも落ちることもあるんだな。私も気を付けていなくちゃな~)


そんな彼女を水から助けた時、彼女は転んでもただでは起きまいと、その水底に沈んでいた綺麗な石を体全体でガッシと掴んでいた。――私はそれに見覚えがあった。サイズはずっと小さいけれど。


「オパール…!」




オパールの価値は自分がよく知っている。

ゲームを始めた日にガチャで引いた鉱石。

なんせ、初心者の弓を攻撃力13まで引き上げたアイテムですから。


(エデンにはオパールの鉱床がある…?)


川の中の小石のスパークリングダイヤはエデンで複数の採掘地点が見つかっている。

冒険者と木こりをグループ分けして、開拓と採掘組とに分けるそうだ。

これでまず王都でエデンの収入につなげると武器屋のアルバートおじさんが教えてくれた。

本格的な採掘のための人出の募集はまだこれからだけどって。

ただ、【女神の天秤】ってクランが見つけた採掘地点が一番大きいのに、そこは彼らが権利を主張していて、今のところそこで採掘されたスパークリングダイヤは【女神の天秤】に渡している。つまり、エデンの収入につながっていない。

旅人フォリナー―プレーヤー―の見つけた鉱床、採掘地点をすべてエデンの領主が奪っていたら、プレーヤーの利権がなくなっちゃう。正直、開拓に参加する人が減っちゃうため、領主のディスケートは先遣隊が発見した採掘地点の権利は旅人フォリナーに渡すことにしたらしい。ここは痛しかゆしらしい。


(うーん、それは双方の言い分、理解できるなー。私は無料参加で懐が痛んでないからエデンが開拓するための費用、満額10億ゼニーをさっさと稼いで発展して欲しい派だけど、5千万払ったプレーヤーなら何かしらの利権を手に入れてから、他のプレーヤーが来てほしいよね~。…ともあれ、生産と開拓の合間にオパールの鉱床、採掘地点探してみようか…。私が見つけたら欲しい分だけ融通してもらって、将来的にはエデンで採掘してもらえばいいや)


私はオパールをインベントリに入れ、考える。

それから、誰もいないホームエリアを見回す。

ここに来てから見たプレーヤーは2人だけ。おそらく【女神の天秤】のメンバーだけ。彼らは定期的に来て、冒険者に声をかけて採掘や採集して戻っていく。インベントリがあるのでそれで持ち出ししているようだ。

なぜか、木こり小屋のあるセーフティーの一角に生産場所らしき四阿あずまやがあって、そこに立ち入ったらその人たちに注意された。

慌てて謝っちゃったけど、共有スペースじゃないの? 【女神の天秤】、ちょっと怖い。


(もうちょっと人が増えればな~。プレーヤーがエデンに興味を持つにはどうしたらいいんだろーか。今のままじゃ、寂しすぎ!)


そんなことを考えながらキッチンルームに戻ったら、メールが来ていた。運営メールだ。

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