第9話 ライトの森でハンティング


「とりあえず、自己紹介ねー。私は犬人のホノカ。職業は治癒師ね」


そう言って声をかけてくれたのは初心者装備の中の一人、犬耳のお姉さんだ。

今、囮役の初心者装備5人でパーティーを組んで、冒険者ギルドからゾロゾロとライトの森へ向かっている。

ギルドで仕事を請けた体裁で、初心者パーティーで森で採取--という筋書きだ。

町長さんの言うには、ライトの森の人斬りは、どうやら規則性があるそうだ。


『数日に1度、夕方、影の長く伸びる時間と決まっておる』


(多分、ログイン時間が決まっているんだろうな…)


自分をPKした野郎だと思うと殺意が2倍。ヤル気が出ます、ふつふつと。

私の血の気もお姉ちゃんを笑えないようです。

ちなみに【リオンちゃん体術】を取った。これは自分より体型の大きい相手に10%アップの攻撃力が出る。攻撃力は武器依存のこのゲーム、体術系は例外で、体力が影響するって武器屋のおじさんに教えてもらった。ただ、手袋や腕、すねの防具によっても変動あるそうだ。

私、体力値高いから意外に体術の伸びがいいかもしれない。このままだと、弓使いじゃなくモンクになってしまいそうだが。


「えっと、私は魔法使いです。サーシャと言います…」


おずおずと口を開いたのは私と同じ歳くらいの女の子。サラサラストレートもいいなあ。

彼女は羊人だ。なんと、角がある。

猫人のクロも魔法使いとのこと。

もう一人は男の人で、赤い髪が長くたてがみのよう、と思っていたら馬人だった。

彼は「よろしくお願いします、オレは剣士です。アオハと言います」と丁寧に挨拶してくれた。なんか、社会人っぽいお兄さんだ。


「でも、このライトの森のPKって、イベントがらみだったのならNPCの犯罪者かもしれないよね~」


お姉さんが呟く。


「あ、それはないみたいですよ、目撃者がいて、狼耳があったそうなので…」


サーシャが言う。

あら、と私も少し驚く。


「あれ? もしやNPCは獣耳がないの?」

「え? そうですよ? 世界観みていませんか?」


私とお姉さん、そしてクロが顔を見合わせた。

どうやら私も含め、あまり設定は読んでいなかったようだ。


「確か、世界に魔力が溢れてきて、魔物が跋扈し始めたため、神が自身の眷属に頼んで旅人フォリナーを召喚したんだっけ。その眷属は神に仕える獣で、旅人フォリナーはその眷属の力を宿しているから獣の姿の獣人なんだよな」


お兄さんが片手で眼鏡をあげる仕草をする。

あれ、ゲームのアバターでは眼鏡ありませんよ。リアルでは眼鏡っ子かな?

しかし、そうか。プレイヤーのモフモフ要素はそういう設定ありきだったのね。


「じゃあ、やっぱりプレーヤーなのね」


思わず、指を鳴らす私。


「フェ、フェザントちゃんは随分気合が入っているのね~」

「思うところがありまして」


ウフフフと笑う。

バッキバキにしてやんよ…。

しかし、『天国門前』経験者は私一人か。この気持ち、わかって欲しい。

そんな私を見て ああ、とクロが頷いている。うう、マーヤさんから聞いているな これは。


話しながら歩いている内にライトの森についた。

夕日が辺りを赤く染め始めた時間だ。

初心者向けの森なので、森、と言ってもさほど深い森でもない。

モンスターや獣は、それほど凶暴なものは多くない。

『天国門前』で戦ったゴブリンが一番HPの高い敵のはず。『天国門前』はオーガもいたけど、あれは次の町のプルミエのザコ扱いだったと思った。


(『天国門前』ってバス停の名称のようだよね…)


ちな、終点ではない。

住人が死亡したらまず行くところ、と聞いたのは最近。リオンちゃんからね。このゲーム、住人は死亡ではなく『天国』に行くのだ。『天国門前』で戻るかどうか選択し、戻ってこれるそうな。ご高齢の方はそのまま『天国』に行くことが多いそう。さすがに『天国』から戻ってくることはできない。--が。


「たまにご先祖様からお便りくるんだよ」


--とリオンちゃん談。

死んだら光になって消えて『天国門前』に行くので、お葬式も数日経過後、『天国』から到着のお便りが届いたら行うそうだ。なんと、『天国』は住民増えるばかりか。このゲーム内の最大都市だったりして。

アンテッドや亡霊系は住人の死んだ姿ではなく、あくまでモンスターなのだな。

住人が不死身なゲームの方が私は気楽だからいいや。こういうライトなところが好き。


「それじゃあ、打ち合わせどおりに」


なんとなく、コミュ力高いホノカお姉さんがリーダーに。

私たちは囮なのでバラけて森の散策だ。

そう、実はすでにこの森の木立の上に、高レベルなNPCたちが待ち伏せているのだ。

彼らはファンシーの町を守る衛兵さん。

前もって決めていた通り、私たちは個々に森の奥に進む。

私の持ち場は森の中央、開けた草原になっている。クロも一緒で、ここでお互い自然に採取を始めてまた距離を取る。

--PKが近づきやすいように。


「あ、念のため」


そう言って私はクロの背後に【罠】を発動。


「私、後ろから急に刺されたから。隠密が得意な輩かもしれないでしょ。これなら背後から襲われたら、相手を拘束できるから」

「…ありがとう」


クロが意外そうに言う。


「すごい人見知りと聞いていたんだけど、フェザントは結構話しかけてくれるね」

「…ゲーム効果だから」


リアルで同じ歳くらいの男の子にこれだけ気安く接するのは無理。

ただ、クロは男の子と判断はつくが、美少女のマーヤさんそっくりの顔をしている。

そのおかげで少しは緊張が緩和されているかもしれない。

しかし、クロはフレンド登録の時もそうだけど、人の懐に入るの上手いな。言っていることさりげなくタラシだし。なのに、嫌な感じが全然ないのは なんて得な性格なの。羨ましい。


さて、私も少し離れて自分の背後にも【罠】を発動。

この罠を中心に採取に勤しむか。

リオンちゃんのおうちの庭でもチラと試したけどせっかくの【採集】、まだちゃんと使っていないもんね。どれどれ。


じっと目を凝らすと まあ! 雑草ばかりと思っていた中でポウと明るく見える草があり、視界にウィンドウが立ち上がる。


【ミント:香りがいい。食べられる】


あ、すごく、わかりやすい。

楽しくなって つい採取夢中になっていたけど、ふと、視界の隅に動くものを見つけた。


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