第10話 PK捕縛と謎生物

(なに!?)


私は視界の端に信じられないくらいのスピードで動く影を見つけた。

それは残像を残し、木立の影にいつの間にか溶けていた。


だが。


私、フェザントの目は誤魔化されない。

私は小鉢に大豆をたまさか入れて、その内のひとつに印を書き、小鉢から勢いよくぶちまけた転がる大豆の中から、印の入った一粒を箸で掬い取れる、動体視力の持ち主なのだ。

お姉ちゃんは「すごいけど、動体視力、関係なくない?」と突っ込んでいたが、それは気にしてはいけない。


私は影の中に残るわずかな色味に目を凝らす。

あの動く影は他の木立の自然な影とわずかに色合いが違った。

そして、その色味の違いは違和感に変じて、私の視線はその違和感を追いかけた。

なにかスキルが発動しているかもしれないが、それは考えている時間がない。

違和感の動く先を視線で追いかける私。

私が唐突に挙動不審になったことに、木立に隠れた衛兵さんたちも動揺している。

でも、違和感の動きがすばやくて、目を離して説明する暇がないのよ。あと、大声出すと衛兵さんたちが隠れていることバレてしまうし。


悩んでいる間も違和感の元たる影は移動する。

木の根元、群生する野草の中、空に溶け込む…、空ぁ!? 飛んでいるのか!?

なんだ、この光学迷彩のブツは!?


さすがに不審がったクロからパーティーチャットが入った。



クロ:なにしているの。

フェザント:ごめん、さっきから周囲がなにかうろついてる。すごく速いから、目を離すのが怖い。

小さいんだけど、周囲に紛れるカモフラージュしていて実像がつかめない。モンスター? かも。



思考でチャット出来るのは便利だな、フルダイブVR。さすが、先進技術。

囮捜査中に目立つ行動したくないのに、もう! でも、ここでモンスターに襲われて死にたくもないのよ~。



(あああ、どうしよう)


心底困った時、その違和感は私の眼前、足元にポス、と落ちてきた。


(攻撃される!)


私は思わず、その違和感に向かって手を伸ばす。

つい、ガシと掴んだら片手でつかめる丁度いい大きさだった。


(丸い? ハンドボールかよ~)


掴んだ感触は硬くて持ちづらいが、幸いその違和感の影はまだ光学迷彩のカモフラージュを解かず、その正体は見えない。

トキトキと心臓の鼓動が手のひらに伝わっているので、どうやら生き物らしい…。

だが敵意持って噛み付いてくる気配もなし。

私はホっと息をつく。


「謎生物か~。迷彩解いたら生首だったらむしろ笑うわ」


嘘。ほんとうに生首なら泣く。あとで誰か鑑定持ちに見てもらおう。

インベントリに入れようか迷い、それを掴んだまま強がりを呟き後ろを向いたら、刃物持った知らない人が立っていた。


「ぎゃーーーーーーーーーーー!!!」


ホラーーーー!!!


悲鳴と伴に、私はその刃物男に掴んでいたハンドボール、もとい謎生物で顔面に一発入れていた。

男は そのまま、マンガみたいに後ろに何度か宙返りし、錐揉み状態で吹っ飛んでいった。


「--え?」


『イレギュラークエスト:ファンシーの町の人斬りを捕まえろをクリアしました』

『成功報酬SPと称号"ファンシーの町の友人"が得られました』

『称号"ジャイアントキリング"が得られました』



「--え? ええぇ…?」


呆然とする私の耳にインフォメーションが木霊する…。






「罠のフラグ回収が出来ていない件…」

「なにブツブツ言っているの」

「お気になさらず、クロさんや」

「フェザント 存外、面白い人なんだ」


どこがですか?


実際、背後に忍び寄っていたのは不審な刃物男ではなく、剣を携えたPK野郎でした。

表現違ったら、すごい怖い。

いや、実際殺されたことあるから怖い相手なのだが、このゲーム、痛覚と伴にその辺りの恐怖も和らぐようだ。リアルで起こりえる状況に変換した方が怖く感じるね。


その相手も、私の一発で沈み、衛兵さんにお縄にかけられました。

吹っ飛んだ後、曲がってはいけない方向に曲がった足や腕、ビックリするくらい腫れた顔を見て、最初死んだかと思った。

でも、私の一発ではHPを削り切ることはなく、幸いそのおかげで捕まえることが出来たのだ。

死亡していたら、プレイヤーだと逃げられちゃうからね。

ちなみにNPCの被疑者死亡は、天国門前で捕まって、地獄に連れて行かれちゃうそうです。


しかし、恨み連なるPKだったとしても、一発の暴力で事件解決とは、推理小説だったら読者からフルボッコでしょう。

けれど、ファンシーの住人には超、好感触でした。

今は町役場に戻り、報酬を受け取るため初心者メンバーで町長室でお茶を頂いている。

香りのいいアールグレイそっくりのお茶だ。

一口飲むと、フワと香りが広がる。


「ホント、このゲーム味覚と香りの再現、すごいわぁ~」

「ほんとですね…」


ホノカおねえさんとサーシャが息をつく。


「にしても、ほぼ何もしていない俺たちがここにいていいのか?」


また、アオハお兄さんが存在しない眼鏡をあげる。


「それを言ったらおしまい。俺もそうですよ。薬草採取は依頼達成したからいいんじゃないですか?」


クロがマイペースを発揮し、クッキーを口にする。


「まあ、最大の功労者は私じゃなく、この子だし」


私は自分の分のクッキーを手で小さく割り、膝の上にいるハンドボール大の謎生物--"珍獣 ステルスアルマジロ"の口に入れた。

この子が、あの右ストレートの効果を上げてくれたのだ。

さすが、リアルでも銃弾を弾く外装をお持ちだ。

どうやら、武器判定され、この子の火力が、PKを一発で吹っ飛ばしたのだ。


PK吹っ飛ばしたあと、手元には すでにいなくなっていて、逃がしたんだと思ったら。

…なぜか、いつの間に私のインベントリに入っていた。【調教】が仕事したらしい…。てか、モノか!


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