第7話 チェーンクエスト?


「お姉ちゃん、すごい、やりきったね…!」


リオンちゃんが感嘆の声をあげる。

私はけっこうHPとMP、そして満腹度がヤバイです。


あれから湧き出るツノネズミを罠にかかるたび仕留め、MP切れ起きそうになればリオンちゃんがMP回復してくれ、夕方まで武器屋の裏庭でネズミ相手に くんずほぐれつしてました。

だって、弓矢があと2本でもったいなかったんだもん!

途中、石つぶて投げて応戦したせいか、【投擲】も生えていました。

そして、夕方近くにリオンちゃんがツノネズミの巣を見つけて、煙でいぶって、巣から追い出してくれた。

それらも、全部討ち取りました。


『ツノネズミの巣殲滅作戦終了です。成功報酬SPと称号"天才リオンのお墨付き"が得られました』

『狩人レベルが上がりました』


(天才!? リオンちゃん、天才だったの!?)


どおりで強いはず。でも、途中で回復に専念で、私の猛特訓に様相変わっていたけれども。

いや、師匠と呼ばせて貰おう。だって、おかげで私の職業Lvが2つもあがったのだ。

【罠】も上がったみたいで、途中で拘束だけでなく、ネズミのHP減少してた。

生えていた体術系のスキルをとろうか思案中…。【リオンちゃん体術】ってなんだ…。

成功報酬ポイントが5SP、レベルポイントが4SP、合計9SPあるのだ。


しかも、武器屋のおじさんと、奥さんがリオンちゃんがゲットしたツノネズミの皮を喜んでくれたので、夕飯をご馳走してくれた。


(お姉ちゃんは1日って言っていたけど、現実の3時間はゲーム内では12時間だったな。ゲーム内でもお腹もちゃんと空くんだよね。満腹度0は行動不能になるっていうから怖いな。1日、2日食べなくても平気そうだけど、能力低下とかあるのかな)


そんなことを考えながら、武器屋のおばさんの夕食を頂く。


(鶉のコンフィって、フランス料理か! 美味しい~。働いたあとの食事は格別だね)


モキュモキュしていたら、おじさんが今日のアルバイト代を渡してくれた。わ~い。

おお、500ゼニー!

なんか感動。初めてのアルバイト代だ。現実ではバイトしたことないので、すっごく嬉しい。

石鏃の矢が買えます。ニッコニコ。


「ツノネズミの皮は防具屋で高値で買い取ってくれる。明日、行ってみるといいぜ。…それと…。その、1日リオンに付き合ってくれてありがとうな。今まで頼んだ冒険者はさすがにツノネズミの殲滅まで付き合ってくれなかったんだ。まあ、報酬もショボイしな。…そんなあんたに頼みがある」

「あなた、それは」

「ああ、こっちの事情だ。だが、味方は多い方がいい」


(ん? もしや、チェーンクエストの予感?)


武器屋のおじさんが私に向き直る。


「実はお嬢ちゃんに声をかけたのはたまたまじゃない。その初心者装備を見て、だ」


シリアスな空気にゴキュと喉がなる。


「今、ファンシーの町は困っている。この近くの素材採取できるライトの森に、人斬り(PK)が出るからだ。おかげで住人は森に入るのを躊躇っている。素材採取をクエストで頼む場合も大抵引き受けてくれるのは初心者の冒険者だ。だが、その冒険者が人斬りに襲われて、町に必要素材が集まらない。

冒険者も新人を脱したらこの町から出て行くから、さらに引き受け手が足りなくなっている。

ライトの森の素材は日用品に使われるから、これが足りなくなると、死活問題なんだ。

それで、とうとう俺たち町の住人で団結して--その人斬りを捕まえることにしたんだが…。

囮役が、必要でな」


「--やります」


即答だぜよ。

武器屋のおじさんが え、とビックリ。


「私もその人斬り(PK)には思うところありまして」


ギラリと私の目が光る。


「囮役、やらせていただきます」


リ ベ ン ジ!





****





--と、いうところで、いったんログアウト~。


「わ~、2時間経ったら向こうは8時間後…。朝か。う~ん、お昼にしよっと」


特に料理が上手ではないが、お母さんが料理好きなので休みの昼も手を加えたものを食べるのが習慣になっている。これはお姉ちゃんもおんなじ。

ガーリックと胡椒を効かせたトマトのパスタにしよ。ベーコンと余り野菜のアスパラ入れて、適当にソースを作っちゃう。

出来上がった頃に、お姉ちゃんもキッチンに降りてきた。


「美味しそー」

「これだけだけどね。あ、オレンジ切ってあるよ。ヨーグルトかける?」

「かける。おいしー。胡椒利いてるね」


私は胡椒好き。一味やチリソースとかの辛いものは苦手なんだけど。


「どう? ゲームすすんでる?」

「うーんと、今クエスト始まっているよ。ふふふ、なんとPKを捕まえるクエストなのよ、お姉ちゃん」


復習鬼となった私の顔には黒い笑顔が浮かんでいる。


「え、ファンシーの町のクエストにそんなのあったの?」

「うん。武器屋さんとこでアルバイトしたら誘われた」

「面白そうだね。てか、美鳥がぜんぜん人見知りしていないのがすごい。ペケポンやマーヤにも緊張していたのに」

「え~、私だってもう高校生だもん。ちゃんと大人とお話できるよぅ。まあ。ゲームだから解放的になっているのは認めるけど。ペケポンさんたちは同じ学校の上級生だから余計緊張する…。てか、あの状況でひるまない人いる!?」


だっはっは、とお姉ちゃんが豪快に笑う。

最近女子力あげようと努力しているが、もともとお姉ちゃんは色々雑な人だ。


「確かに。お姉ちゃんもあのファンクラブには入学当初は引いたよ。実際はファンクラブの人達も悪い人達じゃないよ? 色々ルールがあるから、マナー守れない人はいなくなるし」


そういえば、と思い出す。


「マーヤさんも初心者装備だったね。もっと先に進んでいるんだと思ってた」


ああ、とお姉ちゃんが返す。


「本来の装備は別だよ。ん~、美鳥には話しておいた方がいいか」


そう言ってお姉ちゃんは身を乗り出す。


「もともと麻耶…、マーヤは攻略組なんだよね。でも、このゲーム2陣が入ってきた頃から空気が悪くなって…。美鳥もあったでしょ。初心者PK。他にも理由あるんだけど、攻略組の人達もなかなか先に進めないストレスもあって、ギスギスしちゃってんだって。マーヤはこのゲーム、仕事と別で楽しんでいたから一緒に進めていたパーティーと意見が割れてソロになったの。それで、私たち初心者とパーティー組んでもっかいやり直すことにしたんだって。まあ、やり直しと言っても私たちがマーヤに頼るところ大きいけどねー」

「へえ」


ゲームの中も色んな人がいるんだなあ。当然か。人間がやっているんだもんね~。

それから、今お姉ちゃんたちがどんなクエストをこなしているか話を聞いて、盛り上がり、片付けをして、本日の宿題タイムを経てからまた、ログインした。


ふひひ。PKめ、待っていなさい。復讐するは我にあり~。



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