第2話 チュートリアル


「えーい」


チュートリアルではウサギのロビン教官の教えに従って、弓の取り扱いを学んだ。

草原に現れたスライム相手の模擬戦だ。


「そう。ある程度離れて山なりに討ってから風魔法です」

「えい! 微風!」


上空に飛んだ弓矢が風に乗り、動く的のスライムに当たる。

当たったとたんスライムは金のエフェクトに変わり消えた。

そして、インベントリには”スライムの核”というアイテムが入っている。どうやらこれが討伐報酬の手に入れ方らしい。

経験値の具体的な数値はステータスでは記載箇所はない。

ステータスの見方にもだいぶ慣れた。


「上手い、上手い。貴女は風魔法の調節がお上手です」


ロビン教官は褒めて伸ばすタイプらしい。

実際は私は知性が初期値10のため、風魔法の強度が低く、これが逆に矢の方向転換に丁度良いだけみたいだ。

後ほど知るが、器用値と精神値も実は弓の着弾率に影響あるため、私の弓の命中率はかなり高かったのだ。

ただ、精神値については公にされていないので、チュートリアルAIのロビン教官は私の能力だと褒めるしかないのだ。


「えへへ」

「いいですね。せっかくなので、走りながらやジャンプしながらも試しましょうか」


女性の声でまたインフォメーションが響く。


『兎人用の難易度の高い技のチュートリアルです。チュートリアル限界時間、60分使用可能です。このままチュートリアルを受けますか?』


「受けます! 教官、お願いします!」

「なかなかいい心がけです。さあ、始めましょう」





****





「すばらしい。60分走り通しで音を上げないとは!」

「えへへ、兎の魂です」


VRですばやさの高い兎人を選んだ私は現実では出来ない速さで動けることが楽しく、かつ、空腹状態にならないチュートリアルのため、疲れ知らず。おかげで調子に乗れてグイグイ進めた。

ただ、もともとバランス感覚が良かったため、教官の指示するパターンをすべて命中させることができ、同じウサギであるロビン教官の覚えが目出度くなったのだ。

運動面では割と鈍くさいと自己評価が低い私だが、なかなかどうしてやるではないかと自信が満ち満ちる。

罠の張り方も教わり、私、フェザントは立派な狩人だ。


「さあ、もう貴女に教えることはありません。冒険を楽しんでください」


ピコンという音と、また女性のアナウンスが入る。


『称号:"教官のお墨付き"を得ました』


「はい! ありがとうございました!」


始める前の気乗りしない私はどこへやら。

私、美鳥-フェザント-はすっかり新人冒険者のロールに染まっていた。


「うんうん、いい返事です。では、最後に卒業の証にガチャをどうぞ」

「はい!」


眼前に現れたスロットマシーンを目一杯の力で回したあと、カラーンカラーンと商店街の当たりくじで鳴るような鐘の音がした。

すると、私の目の前に一抱えもする鉱物が現れた。


「教官、これは?」

「おお、これはレアです。武器の作製アイテムですよ! 強化も可能です。売ることも出来ますね。さあ、それを持って始まりの町へ」


ロビン教官に挨拶した後、気がついたら街中だった。

トレーラーでも見た中欧風の愛らしい町並み。"始まりの町 ファンシー"だった。





シャワシャワと涼しげな音を立てる噴水の前でぼぅっと私は突っ立っていた。

辺りからは喧騒と、広場では大道芸の音楽が聞こえる。


(ハっ、さっきの鉱物は…! ステータス)


ステータスにはインベントリがあり、そこに初心者セットのポーションらと同様にオパールと記載ある鉱物が入っていた。


「すご。オパールって宝石だよね。ん~、幸先いいぞ。それよりお姉ちゃんたちはもうとっくにフィールドに出ているのかな…」


"始まりの町"の噴水から続々と人が現れては消えて行く。

このゲーム自体はもう第3陣も参入済みなので、辺りは慣れた人間ばかりだ。

ただ、私と同じく初心者もチラホラおり、彼らも建物を見上げ感嘆の声をあげている。

いずれ、この光景にも見慣れるだろうが私も今は同じく おおお、とつい声を出してしまう。

すると、噴水近くの露店の売り子から声をかけられた。


「おーい、ウサギさん、初心者さんかい?」


熊耳のお姉さんだ。胸元が大変ボリューミーで、思わず注目してしまう。

お姉さんのファッションはNPCと似ていて民族衣装のような華やかなミドル丈のスカートだ。


「うわあ、可愛いスカートですねぇ」


私も思わず口をつく。


「ああ、これ? 売り子する時はこの格好なんだ。手作りだよ。私のポリシーだね。せっかくこんな可愛い風景だから合わせた格好したいもんねぇ。とと、すまないね急に声かけして。ここ、私の店なんだ。ウサギさん初心者なら今からフィールドに出るんだろ? 防御力アップのお守りはどう? アクセサリーの店なんだよ ここ」

「へー…」


売り子、改め店主の熊耳お姉さんの言葉に私も興味を持つ。

本来人見知りなのだけど、お姉さんの人好きする笑顔に私もつられて商品を吟味してしまった。

価格がそれほど高くなく、初心者の初期ゼニーでも購入可能だ。


「じゃあ、これください」


防御力アップのお守りを買うと、私はそうだ、とおもむろにインベントリからオパールを出した。


「あの、こういうものの鑑定ってどこでしてもらえますか?」


それに熊耳お姉さんはギョっとする。


「だ、ダメダメ、すぐ仕舞って!」

「え? あ、は、はい」


言われてオパールをインベントリに戻した。


「あ~、ビックリした。もしかしてゲーム自体初心者?」

「そうです、非常識でしたか? すみません…」


しおしおと声が小さくなる。お姉さんは いやいや、と手を振る。


「PK禁止のゲームならそれほど注意することでもないと思うけど、このゲームPKありだからさ。そういう高価なアイテム狙いのPKってよくあるのよ。アイテムは取り出さずトレードタップで交渉相手に見せることできるから、高価なアイテム所持していることはPK禁止の街中でも他人に知られないよう注意した方がいいわよ。ところで、PKはわかる?」

「は、はい。それはチュートリアルで聞きました。デスペナルティの注意のときに聞いたから」

「そう、なら今後は注意してね。なんか、最近初心者狩りする連中いるらしいし…。あ、ちなみに鑑定は冒険者ギルドで無料でできるわよ。冒険者プレイするならギルド登録は必須ね」


親切な熊耳お姉さんにお礼を言って、私はそれからもうひとつ御礼含めてアクセサリーを買いそこを後にした。

それから、冒険者ギルドに先に登録をするか迷うが、好奇心からフィールドに出ることを選ぶ。場所は『初心者の森 ライト』。


そして、その直後、まさかまさかのPKを体験することとなった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る