ファンシーライトオンライン
宵川三澄
第1話 初ログイン ゲーム開始
「お父さん、セッティング出来た~?」
ひとつ上の姉の
ソファに座りTVを見るともなく見ていた私は顔を上げる。
「おお、あと少しだ。どれ、キャラデザインは出来たか?」
2階の姉の部屋でVRヘッドギアの設定していた父の声が聞こえた。
「あと少し…。ねね、見て見て
姉がテーブルでさっきから夢中になっていた作業はVRゲームのアバター作りだったか。
姉はその大きな目を興奮で見開き、私の方を向く。そして、手元のタブレットを立体モニターモードに変えて、私に見せた。タブレットの液晶上に縦20cmほどの光の円柱が揺らぎ、その中に姉、
姉はそれを360度の角度で見直し、うん、と満足そうだ。
姉のアバターはスモーキーピンクのフワフワなロングウェーブにエルフ耳の可憐な少女だ。
着ているものが初心者装備ではあるがゲームの世界観からかなり可愛いデザインで、白いシャツに薄茶のチョッキ、ブルマタイプのホットパンツがそのアバターにとても良く似合っていた。
「かわいい…」
思わず私もそうこぼした。
「でしょ、でしょー。ねえ、美鳥ちゃんも一緒に始めよ? お父さん 美鳥ちゃんのヘッドギアも設定済みなんだよ」
「ええ…。いいよ。これはお姉ちゃんが実力テストで学年1位取ったご褒美でしょ。私、10位にも入れなかったもん」
拗ねるように言うと末っ子ー、と呆れた声があがる。
「明日から3連休だからゆっくり遊べるよ。これ、ゲーム内時間経過が実際の時間3時間でゲームの中では1日になるタイプなんだ。その代わり、3時間に1回はログアウト必須だけど」
タブレットのモードを切り替え、姉の美空は今度はゲームのサイトを広げた。
私もそれをついつい見る。
イメージトレーラーは柔らかい色合いや中欧風の可愛らしい建物群で、女の子受けしそうなデザインだ。
「可愛いでしょー。『ファンシーライトオンライン』。今、クラスで流行っているんだよ。麻耶ちゃんがゲームすごく詳しくて、仲の良い子たちで始めようってなって」
「私はいい。VRやったことないもん。人見知りだし…」
鈍くさいところのある私は体を使うゲームは苦手だ。VRゲームの今の主流はプレイヤースキル、実際のその人間の能力が影響するものが多く、『ファンシーライトオンライン』もその類だ。
「ああー…。でも、生産でも楽しめるよ…、あ、もう時間! 約束しているんだ。お姉ちゃん行くね。美鳥ちゃんも気が向いたらおいでよ。お父さーん、キャラデザできた。取り込んでー」
あわただしく姉の美空はタブレットで作製したアバターをギア側で取り込んでもらい自室に駆けていった。父と姉がゲームの注意事項を確認している声が聞こえてくる。
その様子に私もうずうずとしてくる。
キッチンから洗い物を終えて出てくる母がその様子に苦笑いして声をかけた。
「ほーら、天邪鬼なんだから。とっととキャラデザインしちゃいなさい」
「うう…、はーいっ、お父さーん私もやるから、手伝ってー!」
****
結局、母と私で二人で角突き合わせてキャラデザインし、ログインしたのは姉がログインしてから1時間も経過したあとだった。私のキャラはアプリコット色の姉と同じくふわふわなロングウェーブにグレイの目。初心者装備の薄茶の
チョッキに合わせて頭にやはりブラウンのロップイヤーのウサギ耳。母の一押しで兎獣人になった。
そして、このデータを取り込み、やはり父にゲームの心得を諭され、ヘッドギアをつけベッドに横になる。
ドキドキと胸を高鳴らせ--ログイン。
少しだけ間があり、それから眼前に草原が広がる。
草いきれ、青空。風の通る音が耳に入る。
「すごい、本物みたい…」
再現された草原の匂いに驚きながら呟いた。すると、後ろから唐突に声をかけられた。
「『ファンシーライトオンライン』チュートリアルへようこそ。狩人(仮)の"フェザント"さん」
慌てて振り向くとそこには私、美鳥--フェザントと同じ、ロップイヤーの薄茶の兎がいた。チョッキ着て、後ろ足で立っている。
「ボクはチュートリアルマイスターのロビン。よろしく。貴女にこの『ファンシーライトオンライン』の戦い方を指南しますよ。おや、趣味が似ていますね、ボクたち。ボクは兎なのに駒鳥-ロビン-で、あなたは雉-フェザント-ですね。名前の由来を聞いても?」
(チュートリアルAIだ! すごい、可愛いウサギさん!)
「よ、よろしくお願いします。雉のメスはこういう茶色の地味な色なので…。あと鳥も兎も1羽、2羽と数えるでしょう? 数え方つながりです…」
私はブラウン色のロップイヤーの垂れたウサギ耳を示して答える。本名の鳥も意識したがこれは言わなくてもいいだろう。
「あはは、面白い感性ですね。さて、ここでは正式登録、スキル構成の助言と戦闘指南が受けられます。構成が決まっているなら指南はスキップして構成と正式登録だけして始まりの町まで行けますがどうしますか?」
「助言とチュートリアルお願いします。全くの初心者なので!」
思わず勢い込んで話す。今放牧されても、ゲーム慣れしていない私には辛い。
チュートリアルAIロビンさんはニッコリ微笑む。
実際の兎の表情ではわかりづらいはずなのだが、そこは仮想現実。都合よく出来ている。
「ありがとう。では説明しますね。フェザントさんの選んだジョブは"狩人"。メイン武器は弓になります。
では、スキルを見ていきましょう。ステータスと口にして下さい」
「ステータス」
すると、私、美鳥改め、フェザントの前に14インチほどの大きさのパネルが広がる。
「次からはステータスと思うだけで開けますよ。さて、簡単に説明します。ジョブによるスキルは【弓】【調教】【採集】【罠】です。この他1つ、スキルを初期ポイントで自由に追加出来ます。ステータスについても説明をしますね」
私はコクリと頷き広げた画面を見つめる。
【初期ステータス】
名前:フェザント/兎人
ジョブ:狩人(仮) Lv1
HP:15/MP:10
・体力:10
・魔力:10
・知性:10
・すばやさ:15
・器用さ:10
・精神:10
・満腹度:100
初期ポイント:20
初期G:300
装備:初心者の弓(攻撃力:3)/木の弓矢(攻撃力:1×30本)
初心者の服(防御力:3)
ジョブスキル:【弓】【調教】【採集】【罠】
追加スキル【 】
・インベントリ:初心者セット
「兎人特性で、すばやさが初期値+5です。狩人のステータスは体力と器用さがあがりやすいジョブです。後からもポイントでスキルは増やせますが常時有効にできるスキルは5つまでです」
「体力?」
「実際のマタギはその当時、山々を獲物を追って移動したと言いますから」
(あ、マタギなんだ…。それで初期スキルに罠があるのね。調教は猟犬? じゃあ、武器は本当は猟銃では…)
言いよどんだが口にしないことにした。ゲームなのである。開発者のロマンに口出しすべきではない。
「攻撃力は武器依存になります。防御力は防具。HPは体力、MPは魔力、魔法の効果は知性と精神で影響あります。ただし、隠し要素もあるのでそれら含めてゲームだとお考えください。それぞれ装備やアクセサリーで変動可能です」
(うんうん、わかりやすいかも)
「通貨の単位はゼニー。初期値は300ゼニー。初心者セットはポーションが10個、携帯用の食事カロリーフレンドが10個です。HPと満腹度がありますからこれらが0になると行動不能になります。MPは0でも状態に影響ありません。ただし、魔法は使用できなくなります。また、精神は混乱などの状態異常にも影響あるステータスになります。弓矢は1セット単位で購入できます。矢の種類ごとの使用本数があるのでご注意ください。では問題なければこのまま狩人で登録しますが宜しいですか?」
「はい」
すると私の耳に機械的な女性の声で登録完了の声が聞こえた。
ロビンの柔らかな声質と反対で、ゲームらしい声だ。
すると、直前まであったジョブの(仮)が取れて、ジョブが狩人だけになった。
「えへん。では追加スキルの取得を」
そうして、ロビンの指南で【風魔法】を取得。取得ポイント3Pを消費し、残り17Pはそれぞれ精神に9P、器用さに8P振った。
名前:フェザント/兎人
ジョブ:狩人 Lv1
HP:15/MP:10
・体力:10
・魔力:10
・知性:10
・すばやさ:15
・器用さ:18(+8)
・精神:19(+9)
・満腹度:100
初期ポイント:0
初期G:300
装備:初心者の弓(攻撃力:3)/木の弓矢(攻撃力:1×30本)
初心者の服(防御力:3)
ジョブスキル:【弓】【調教】【採集】【罠】
追加スキル【風魔法】
・インベントリ:初心者セット
「精神に9P。ほうほう。少々珍しいですね」
「そうですか? 状態異常が怖いですよ。初心者セットに解毒薬とか入っていないし。ポーションでは回復しないんですよね?」
「ふむふむ。その用心深さは嫌いではありません。貴女は兎の魂をお持ちだ」
褒められたのか、けなされたのかわからないロビンの言葉にハハハと曖昧な笑みをこぼす。
私は日本人気質なのだ。
「それでは、戦闘指南に移りましょう」
「はい!」
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