第3話 さっそく、PKされたった


耳に厳かな音楽が聞こえる。

それに私は意識を取り戻した。

そうだ、自分はPKにあったのだ、と自覚した。

森に入った時、前方に猫人の人がいて、狩をしているのが見えた。

自分も同様にモンスターを探そうと思ったとたん、胸にサクっとなにかが突き刺さりそのまま意識を失ったのだ。

痛覚カットはしているが、触覚0ではないため、多分武器が胸に刺さったんだろうな、と他人事のように思う。


(と、いうか、本当にあれはPK? 聞いていたのと違うんだけど…)


PK、"プレーヤーキル"。

このゲームはフィールド上であれば、プレーヤーがプレーヤーを殺すことが出来るのだ。

通常死亡時のディスペナルティで、ランダムに所持しているアイテム1つ、または所持金の半額が奪われると聞いた。PKされた場合、それらがPKした側のインベントリに入るのだ。

聞いた時はなぜそんな仕様になっているか納得できなかった。

明らかに、プレーヤー同士の争いを生む仕様だから。


だが、説明してくれたチュートリアルAIのロビン教官は悲しそうに言った。


「戦争も文明や医学の進歩をもたらしたように、神も我々の成長に争いも必要と感じたのでしょう。きっと、そこからそれらを回避する策を我等自身で学ぶように」


そんなロビン教官の言葉を思い出しながら、私は周囲を見回した。


眼前の光景に私は不安になる。

PK、死亡後は復活場所はその前にログイン、保存した場所--のはず。

だが、今 眼前に広がっているのは始まりの町の噴水ではない。

そして先から聞こえる この音楽。


(めっちゃ、賛美歌なんですけど…!)


眼前には広々とした湖、そして低い山脈が湖の向こうに広がり、湖の手前にはやはり厳かな--白い大理石の門。

そこが、ギイと開いた。

扉の向こうは光の乱舞する不思議な反射の風景。

そこから、ゆらゆら、白い雲のような物体が近づいてくる。


「おお、崇高なる精神、無垢なる者よ。同輩に打ち砕かれたる哀れなみどりごよ。ここはヘブンズゲート。我はフレンドゴースト。そなたに祝福を与えるもの。さあ、この門に近寄る魔物を打ち倒せよ。そなたに足りぬものを見つけるのだ」


雲はフレンドゴーストと名乗ると、私、フェザントを促す。


(えええ、何言っているのかよくわからない…。崇高な精神って、あ、精神のポイント…? PKされるのが条件…? あ、オパール消えてる! ガーン…。やっぱPKされたんだ~! で、来るのが天国の門前ってイヤすぎる…!)


フレンドゴーストの指し示す先を見ると、小さいフレンドゴーストがプカプカ浮かんでおり、その先にいかにもゴブリンと言ったモンスターがいて、小さいフレンドゴーストをギャギャギャと良いながら棍棒で殴り、キラキラとしたエフェクトに変えて消失させている。


(う~ん、プチフレンドゴーストを救え! って所かな。もしかして、チュートリアルの延長かな? まあ、いいや。いくぞ、教官の教えどおりにやるよ!)


初心者の弓を引き絞り、山なりに討つ。風魔法で命中させることを2回繰り返した。ゴブリンはスライムより体力が高いらしく、一撃では沈まなかった。


(う~ん、風魔法の微風は2P消費だから、この合わせ技はMPが10Pしかない今、辛い!)


しかし、ゴブリンを倒した後嬉しいインフォが入る。


『ボーナスポイントを1、好きなステータスに割り振れます』

「やった!」


しかし、インフォには続きがあった。


『または弓の攻撃力に割り振れます。選択してください:ステータス/攻撃力』


「え? なんで?」


攻撃力ということは、弓の強化か? と私は首をひねる。


「初心者の弓なんて強化できるの…。うう~ん、いいか、即効性を大事に! 攻撃力へ!」


『弓の攻撃力が1上がりました。』


「うん、よ~し…って、ああ~、またモンスター出てきている~! プチを苛めんなー!」


(風魔法を温存する。チュートリアルで学んだあれで連射…!)


私は今度は3体に増えたゴブリンに向けて再度山なりで続けて3本、弓を放つ。風魔法は1回の詠唱で3本の方向を決め、それらはゴブリンの膝をそれぞれ射抜く。

勿論、この程度ではゴブリンは死なない。だが、行動は遅くなる。


(このまま、今度はまっすぐゴブリンの急所に連射、連射!)


ゴブリンが駆け寄ろうとするが、これらはすばやさの高い私の弓の敵ではなかった。




『10連戟 完了。ヘルプクエスト:天国門前を死守せよをクリアしました』


10回目のモンスター襲撃を退けたあと、インフォメーションが聞こえた。


(ふ~、ようやく終わった…)


最後はMP0になったため、足を使ってのかく乱と連射だ。

弓矢の数も数本しか残っていない。


(1戦ごとにモンスターの種類や数が変わるから焦ったけど、1回の勝利でポイントが1Pづつ入るおかげで、途中からすごく楽になったよね。攻撃力に全部振ったし)


初心者の弓は耐久度がないと聞いていたが、現在攻撃力13だ。


(これで壊れない弓だとチートじゃないかしら…。急に修正とかされたら、頼りきりになっていた場合困る。でも、お守り2つも買ったから、別の弓を買うお金なんてないし)


もともと慎重な性格の私は軽く困り眉になってしまう。

その周囲を、ふわふわ上下に浮き立つプチフレンドゴーストがピンクや青に色を変えると、賛美歌ではなく、いかにもゲーム的な勝利の音楽が響く。


(…いっか! プチも助けられたしね!ゲームは楽しく、だね)


眉根も緩まり、プチフレンドゴーストを微笑ましく見ていると、後ろから再び声が聞こえた。

最初に門から出てきた大きなフレンドゴーストだ。


「おお、復活を遂げたる者。ヘブンズゲートを守るため立ち上がり、再び下界へ行くために必要なものを得たか?」

「はい、これを…」


強化した初心者の弓を見せる。


「宜しい」


重々しくフレンドゴーストが頷くと、私の手の中の弓が眩く光り、白銀の瀟洒な弓に形状を変えた。


「"フレンドゴーストの弓(攻撃力13/耐久度30)"…。あれ、耐久度がある!」


そして、インベントリに初心者の弓が戻っている。攻撃力3の初期状態だ。

つまり、私は2つ目の弓を手に入れたのだ。


「いや、それでも13って強いよね…」

「その身の力にせず、すべて弓に捧げたため。失った宝物が変化したる姿よ。行くが良い、みどりご。ここには2度と訪れないよう」


(なるほど! オパールは武器強化アイテムだっのか…! それでポイントを攻撃力に振れたんだ)


納得しつつ、フレンドゴーストが示す先に歩き出す。

それは湖の中。チャパンと湖岸に足を踏み入れると波間に始まりの町の噴水が映った。すると、復活場所に『始まりの町 ファンシー』が選択出来るようになった。ここから戻れるらしい。


(ありがとうございます、第2の教官。さすがに、2度目はない、ですね!)


そう思い振り向くと、湖岸の、さっきまで自分のいた草原に数人の初心者装備のプレイヤーが並んでいた。

そして、フレンドゴーストは門の後ろに回り、背後に最初私が見た光の乱舞を背負って門扉を開き、私にも言った同じセリフを彼らに告げる。


(……。なんだ、このコント仕様の演出……)


もしかしたら、このゲームは思っていたよりずーーっと軽いノリでは。


「ま、いっか! ゲームだもんね。さて、再出発~」


--うん、私、このゲームを満喫しているわ。


「でも、PKはキルーー!」


最後にそう叫ぶのも忘れなかった。いや、マジキル。この恨み忘れんぞ!






名前:フェザント/兎人


ジョブ:狩人 Lv1


HP:15/MP:0

・体力:10

・魔力:10

・知性:10

・すばやさ:15

・器用さ:18

・精神:19

・満腹度:100


初期ポイント:0

初期G:100

装備:フレンドゴーストの弓(攻撃力13/耐久度30)/木の弓矢(攻撃力:1×2本)

   初心者の服(防御力:3)

   アクセサリー:防御のお守り(防御力+3)


ジョブスキル:【弓】【調教】【採集】【罠】

追加スキル【風魔法】


称号:"教官のお墨付き"


・インベントリ:初心者セット/初心者の弓/集中力のお守り/スライムの核




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