第9話 下水道掃除

 必要なアイテムを買い揃えた後一同は行政区の北側へと向かい下水道の最下流になっている場所から梯子を降って中に入る。流石四区画分の排水が行われるだけあって幅は広く、脇にある通路も横並びで人が3人位は余裕で並べる広さがあった。


「臭いは多少きついが戦闘に支障は無さそうな広さだな。先導はラフィン。その後ろに俺で中衛にマーレーさん。後方はキリで行くぞ。」


 隊列を決めた所で先へ進む。互いの距離はすぐ戦闘に入りつつ後方からの襲撃にも備えれる様3m間隔を保ちながら進んでいく。中は薄暗いがラフィンとマーレーは夜目が効く上、レジスは腰にランタンを、キリは"ソールライト"を使い照らしている為問題はない。


「…一旦止まって。」


 30分程歩いた所で先導していたラフィンが全員を止める。そのまま徐に地図を取り出して左右を見て正面を向いたまま後方の3人に声をかけた。


「…ここが分岐路みたい。街の端から端まで1時間程度なのも考えると大体中央広場の真下かな。ここから右に向かうと居住区の下水道になるし警戒していこう。」


 ラフィンの言葉に頷き一同が分岐路に差し掛かった瞬間だった。羽ばたく音と地を駆ける音が聞こえてくる。


「っ!!…気をつけて!ジャイアントラットが…1体とキラーバットが恐らく…2体!」


「キリ!支援を!!」


「はいっ…かの者達に光の加護を!!"プロテクション"」


「レジス!魔術は温存します!!共に…!」


「分かった!ラフィンは弓でキラーバットの牽制頼む!」


「勿論!」


 即座に隊列を組み替えた所で視認出来る距離まで魔物が近づいてきた。彼我の距離は10m。先手必勝とばかりにラフィンは後方上空に飛び回るキラーバットに向けて矢を放つ。翼膜を貫かれたキラーバットはふらふらと地に落ちていき、もう一体は警戒を強めて距離を取った。その間にレジスとマーレーはジャイアントラットに近づき剣を振るう。


「せいっ!!」


「っ…!!」


 二人の振るった剣はジャイアントラットの横腹を切り裂く。一瞬の踏み込みに怯んだジャイアントラットは反撃とばかりに捕食する為に変態した爪を振り下ろすがレジスがしっかりと剣の腹で受け止めて弾き飛ばす。


 翼膜を貫かれたキラーバットは動く事が出来ないまま弱々しく威嚇するだけにとどまり、もう一体は勢いをつけてマーレーに飛びかかるがキリのプロテクションによる加護を貫く事が出来ずに再び距離を取る。


「マーレーさん、ここは俺に任せてキラーバットを仕留めてくれ!」


「わかりました。」


 距離を取ったキラーバットをラフィンが牽制し、ジャイアントラットにレジスが斬りかかってる間にマーレーは脇を抜けて翼膜を貫かれたキラーバットの方に剣を突き立てる。抵抗出来ぬまま剣を受けたキラーバットはそのまま濁った血を飛び散らせながら絶命。しかし、距離を詰めたマーレーに対しもう一体のキラーバットが飛びかかる。ラフィンの矢は外れていたらしい。


「くっ…!」


「マーレーさん…!今回復を…!」


「いえ、それよりもレジスの方を助けて下さい!」


「っ…。かの者に力の恩恵を!"マッシブパワー"」


 回復を行おうとしたキリを止めレジスの方を優先させる。腕力バフが付いたレジスは再び爪を振り下ろしてきたジャイアントラットを先程より強く弾いて体勢を崩させる。


「トドメだ!!練技!"ソードスラッシュ"」


 弾いた勢いをそのまま活かして逆袈裟に切り上げる。腹部から肩にかけて深く入った剣撃は致命打となり、ジャイアントラットはそのまま仰向けに倒れた。その間に肩に噛み付いてきたキラーバットを一突きにして葬っていたマーレーが近づいて一同は一息つく事にした。


「とりあえず四人での初戦?は快勝って感じだな。」


「ええ。とはいえ知能のない獣が魔物化した相手ですのであまり油断は出来ないですね。」


「確かに…。彼らを捕食している未知の魔物に知能があった場合苦戦しますから。あ、マーレーさん薬草をどうぞ。」


「あ、ありがとうございます。」


 マーレーの傷を癒しつつキリもMPを回復するポーションを飲む。キラーバットとジャイアントラットから剥ぎ取りしつつ、状態が整うまで時間を割いてから先に進んだ。


 ※※※


 その後2度程魔物との戦闘をこなしながら互いの連携を強化しつつ先へと進む事20分。マゼラから言われていた未確認の魔物が生息している場所に到着した一同は周囲を見回しながら警戒をする。


「この辺らしいけど…何か怪しいものが有ればすぐに対応しよう。」


「わかりました。…キリさん。ソールライトを消してレジスの近くに。」


「わかりました。」


 未確認の魔物は魔術や奇跡を嫌う傾向がある為一旦ソールライトを消し、ランタンのあるレジスの近くへ行かせる。中衛と後衛を入れ替えた形となった。その状態で周囲を警戒すること約10分。下水の流れる音とは違う何かが流動する音とぶよんとした鈍い音。そしてべちゃりと何かが落ちた音が響き始め一同は目を凝らして周囲を見渡す。


 一見何も無い。だが音は絶えず響く。周囲を見渡す。何もない。変わらず響く。見えない。


 ある種パニックホラーの様な恐怖感が募る中誰かが生唾を飲み込む音が響く。その瞬間ラフィンが叫ぶ。


「避けてッ!!!!!」


 その声に全員が即座にその場から飛び退く。刹那。何かがべちょりと落下した音が響く。





 その音に目を向けるとーー



 5m程にもなる巨大で透明なゲル状の魔物が存在していた。


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