第7話 初依頼

 翌朝。日が登り窓辺に差し込んだ朝日で目が覚めたマーレーは軽く背伸びをした後皮鎧に着替えて階下に降りる。まだ朝早い時間という事もあり、人気のないエントランスにはディノとは違う人がカウンターに立っていた。聞くところによると彼も冒険者で、バイトとしてディノの代わりに店番をしているらしい。


 軽く挨拶を交わした後マーレーは宿の外に出て体を動かす。里にいた時からの習慣だったこの時間も周りの風景が変わると新鮮に感じた。


 暫く体を動かしていると聖堂服に着替えたキリが宿から出てきた。


「おはようございます。マーレーさん。」


「おはようございます、キリさん。大丈夫ですか?」


「あはは…恥ずかしい所をお見せしました…。大丈夫ですよ。」


 苦笑しながら謝罪するキリと挨拶を交えつつどうしたのかと尋ねる。どうやら朝の巡礼に行くらしい。

 キリ曰くこの世界は幾つかの神が存在し、信仰によって奇跡と呼ばれる聖属性の魔術が扱える様になるらしい。但し、それらは神を信仰しているだけでは会得出来ず、神の声を聞いた者だけが修道者としてその力を授かると言われた。


「大体は四大神信仰ですけどね。豊穣と嬉々の神ホラリス、暴虐と怒髪の神ラグリス、運命と悲哀の神ドーラ、救済と娯楽の神ガイオン。それぞれの神の信仰がこの世界では大凡の

 割合です。…と言っても人族はラグリス様以外の三神を主に崇めており、ラグリス様の信仰は魔族が主に行なっている為信仰している者は人族領域では異端者扱い受けますけどね。」


「へぇ。ちなみにキリはどの神様を信仰しているんですか?」


「私はホラリス様です。元々私の村は農業を営んでいたのですが、凶作が続いたのでホラリス様にお願いしていた所声が聞こえたのです。」


 実際農村ではホラリス神を崇める人々が多く、奇跡の中にも雨を降らすものがあったりする為信仰者は多い。その中でも神に選ばれたごく一部の人間は村の中でとても重宝される。ラグリス神を除き他の神もそれぞれその街に合う信仰者を増やしている様で、例えば歓楽街ならガイオン神、賭博を生業にしている者達はドーラ神を信仰している事が多い。その街にはその街の慣習がある様に、信仰も慣習がある様だ。


「ラグリス神は暴虐の面を押し出して暴れる魔族達がピッタリな様です。ですので言葉をシャーマンクラスを持つ魔族などはよくラグリス神の聖典を持ってる事が多いです。」


 ちなみにラグリス神の教えは"怒りとは革命の為の第一歩であり、新たな繁栄の礎となる"といった割とまともな事から始まるのだが、その次の文で"その為のどんな暴虐も許される。革命とはたった一つの理不尽から起こるもの"と続いている為人族の間では崇める事をタブーとしている。


「それでは、後ほど合流しましょう。」


 暫く話した後キリは巡礼へと向かう。その背中を見送ったマーレーは一汗かいた事もあり、朝の行水を行う為に宿へと戻った。


 ※※※


 マーレーが行水を行ってから数時間。一同はエントランスに集まり朝食を取っていた。軽めの朝食で腹をある程度満たした所で今日の予定を立てる。


「今のところ商人からの依頼はないねぇ。組合で探しておいで。」


 早速ディノに依頼の有無を確認したレジスだったが当てが外れる。仕方がないので組合に向かい身の丈に合った依頼を探す事にした。


 ※※※


 組合に到着すると朝から冒険者達が依頼の張り出してある看板を眺めつつ真剣な眼差しで会話している。依頼内容が身の丈に合うものかを確認しながら受諾するのも立派な冒険者としての資質だとラフィンは言う。

 マーレー達もその輪に入り込む様に看板に近づき自分達に見合う依頼を探し始めた。


「…俺達だとこの辺が妥当か?」


 レジスが提案した依頼は2つ。


「んと、なになに…?『大森林での薬草採取』か『地下下水道に住み込んだ魔物の討伐』かぁ…。どうする?」


 キリとマーレーも依頼書を覗き込む。一見すると簡単そうに見えるのは薬草採取だが、そちらの方が報酬が良い事に違和感を感じたキリが、マーレーに依頼書に書かれた薬草の場所を知っているか確認する。


「…ふむ。月光草となると少し深めの所に入らなければ手に入りませんね。この薬草は日の光を浴びると鮮度が落ちます。中域〜深部位でなければ手に入りませんよ。」


「ちなみに中域以降の魔物はどんなのが出る?」


「そうですね…。トレントやライカンスロープ、グリズリー、バイコーン、後はタウタイガーと言った頭に角を生やした獰猛な虎が居ますね。深部となると…ドリアードの導きが無ければすぐに迷います。迷い込んだ冒険者をグリフォンやシャドウ、キマイラを始めとした協力な魔物だけでなくフォレストレックスの様な我々の里がまとまって攻撃してよ撃退しきれない魔物までいます。」


「成る程。…私達では厳しいものになると思いますね。私は下水道の方がよろしいかと。」


「私もキリさんに同意ですね。私個人であれば森の加護とドリアードの導きを受けて幾つかは手に入るでしょうが…それでも出会ってしまうと逃げ切れる保証はありません。更にあの森は認められなければ例え共に行動していたとしてもいつの間にか離れ離れになってしまう事もあるらしいので。下水道の討伐を受けましょう。」


「んー。私的には金額も高いから薬草がいいかなぁって思ったけど…大森林出身のマーレーさんが言うならそっちかな?」


「そうだな。おし。それじゃ下水道に住み込んだ魔物の討伐依頼を受けるか!」


 受ける依頼を決めた一同は薬草採取の依頼書を看板に戻し、下水道に住む魔物の討伐依頼書を持ってカウンターへ向かう。


「おはようございます。この依頼を受けさせて下さい。」


「はい、かしこまりました。…"酒樽の飛沫"所属のレジス、ラフィン、キリ、マーレーのパーティーですね。依頼主は行政区にある生活管理局です。当組合の名前を出していただければ円滑に話が進みます。それでは頑張って下さい。」


 組合からも問題ないと判断され、無事受諾する事ができた。一同は一度互いの顔を見合って頷き、行政区の生活管理局へと向かった。

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