第3話 結成

 思わぬ早さで再開を果たした四人は一度カウンターを離れて酒場になっているスペースへと移動する。


「先日ぶりですね。それにしても何故森のエルフさんがエルリアの街に?」


「ええ、先日の討伐を経て無事冒険者として外界に出る事を許されました。ですので最も近いこの街を拠点に冒険者活動をしていこうかと。」


「成る程!でしたら既にパーティメンバーも?」


 通訳を担っている聖堂服の女性の問いかけにマーレーは首を横に振った。


「先程登録を終えたばかりなのでこれから探す予定ですよ。」


「そっかー。最初は大変だよねぇ。私も苦労したし…。見つかるまで宿でこき使われたなぁ…。」


 憂鬱そうな表情で天井を見上げる女の子曰く、新米冒険者はパーティを組んで依頼をこなせる様になるまで生活費をお世話になっている宿で働いて稼がなきゃいけないらしい。


「初めてラフィンと会った時は冒険者だと思わなかったからなぁ。」


「だって仕事中とは言え仲間を探してる話をしていたら飛び付いちゃうでしょ!」


「ラフィンの場合は文字通り飛んできたからびっくりしたけどね〜。」


 二人にからかわれた女の子…ラフィンはむっとしながら腕を組んでそっぽを向く。


「…そう言えばあれだけの死闘を共にした仲だと言うのにお互い名前も知りませんでしたね。改めて私はキリと申します。種族は人間と天使の血が混ざってます。このパーティーの回復と支援を担当してます。」


「俺はレジス。純粋な人間だ。前衛やってる。」


「私はラフィン!竜人と獣人のハーフだよ!偵察諜報遊撃は私の特技!」


「ありがとうございます。私はマーレー。種族は…ご存知の通りエルフです。魔術と体術を主に組み合わせて戦いますね。」


 自己紹介を終えた所でレジスが何かを思い付いた様子で身を乗り出す。


「そうだ。マーレーさん。よかったらうちのパーティに来ないかな?丁度一人欲しいと思ってた所だし魔術師としても剣士としても俺らには必要なんだ。勿論メリットはこちらだけではない。宿の提供と秘境と外の世界の違いを俺達は教える事が出来る。悪くないと思うのだが。」


「ええ、構いませんよ。」


「まぁただ純血エルフだと他にも色々条件良いとこ聞いてるかも知れんがなんせ俺らは…って良いのかい。」


「ええ、死線を超えた仲ですから。何の問題もありませんよ。それにキリさんが居るのでコミュニケーションも問題ありません。私の条件は"エルフ語を話せる方"でしたし。」


「そいつはありがたい!では早速カウンターで申請出しましょう!」


 再びカウンターの方へ向かうと、書類整理を終えたリナが立っていた。


「あら、マーレーさん…と、そちらは"酒樽の飛沫”所属の冒険者さんですね?如何なさいましたか?」


「はい、実はマーレーさんのパーティー加入申請を行いたくて。」


「かしこまりました!それではこちらの書類にご記入下さい。」


 溌剌としながら手渡してきた書類にして手渡す。冒険者登録に比べて簡易的な内容で済んだのが少し気掛かりだった。


「この先ずっと同じパーティーであると言うことはほぼ叶わない願いだ。冒険をすれば生殺与奪の権利は常に揺れ動く。勝利の女神に見放されればその者は死に、或いは二度と冒険に出れなくなる事が多い。故に生涯で何度も書く事も考えられる加入申請証は簡易である方が冒険者にとって楽なのだよ。」


 リナの後方から髭を蓄えた男が現れた。彼はレジス達を軽く見た後鼻を鳴らしマーレーにだけ話しかける。


「そも気高く崇高な森のエルフであるマーレー様が駆け出しの冒険者と一緒ではその身に何かあるかも知れません。更に言えば約500年振りの秘境の方との邂逅。本来なら冒険者などと言う小汚い仕事などせず国賓としてもてなすべきだと思いますがね。」


「ズヴェルさん!!幾ら貴方が秘境の方々を崇拝するハーフエルフとは言えそれは…!!」


 あまりの暴論にリナが立ち上がり反論する。だが、彼女は恐らくズヴェルと呼ばれた男の部下なのだろう。何も言わず目で退けた彼は再びマーレーの方を向く。


「如何でしょうか。もし冒険者として尽力されるのであれば我が組合でも屈指の冒険者達を付けます。今からでもそちらに…。」


「いえ、お断りします。我が里長は世界を知る様にと最後に申されました。私が見るべき世界は悠々自適な生活でも他人の力に任せきりの世界でもなく、自らの力で切り拓く世界だと私は感じました。故に私が求めるメンバーは私を守る護衛ではなく私と共に戦う戦友です。死線を共にし、コミュニケーションにも困らない彼ら以外に適任はおりません。」


 ズヴェルの提言をきっばりと断り、マーレーは三人を連れて組合を後にする。その背中をズヴェルは恨む様な目で睨んでいた。

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