第2話 再会

 冒険者組合の中に入ると果実酒の豊満な匂いと冒険者達の汗の匂いが混じり、おかわりを要求する荒っぽい声や新たな依頼を探す人々の姿が目に入る。


「登録はこちらのカウンターです。…はぁい、リナ。元気かしら?」


「あら、マイナがここに来るなんて珍しいわね。今日は非番?」


「ううん、今日も仕事よー。今は案内と通訳で来てるのよ。こちらの方のね。」


 ハーフエルフの女性…マイナの紹介を受ける形でマーレーは一歩前に出る。


「どうも。マーレーと申します。冒険者登録を行たくて伺いました。」


「え、えっと…マイナ?もしかしてこの方…。」


 マイナに通訳されながら自己紹介を行うと、困惑した獣人の女性…リナが目を点にする。


「…ええ。秘境から出て来られた正真正銘の純血エルフの方よ。」


「ほ、ほぁぁ?!?!?!じゅじゅじゅ、純血エルフ様??????」


 驚愕したリナの声が組合に響く。その一声で辺りは静まり返る。そして周囲の視線がマーレーに集まり、冒険者達は固唾を飲み込んだ。


「ちょっ、リナ、声が大きいって!」


「ご、ごめんっ!!け、けど秘境からって…生きてるうちにそんな事あるのね…。」


 顔を寄せ合ってヒソヒソ話を始めた二人だが、リナの同僚らしき竜人男性が咳払いをした事で表情を改める。


「ええと…それでは、登録を行いますが先に冒険者として現時点でどの様な能力を持っているのか調べる為に適性検査を行います。こちらの部屋はどうぞ。」


 リナの誘導でカウンター奥の扉へ招かれ中に入る。中は少し小さめの個室となっており、掌より少し大きめの石版が二つ並び連動する様に印刷機の様な機械が設置してあった。


「こちらが適性検査を行う為に使用する魔導機です。二つの石版に片手ずつ置いていただくと現時点でのマーレーさんのステータスが印刷されます。こちらで印刷されたステータスは組合で厳重に保管させていただく他、依頼を達成した際には毎度更新させていただく形となっております。それではどうぞ。」


 リナの説明をマイナに翻訳してもらいつつ、マーレーは石版に手を翳す。しばらくすると起動音が鳴り、やがて一枚の紙が印刷機から出てきた。


マーレー(エルフ) 男 180歳


 Lv 3

職業

 魔術剣士 3 精霊信仰 1

 HP 42

 MP 30

 ATK 20

 DEF 16

 SPD 38

 MA 32

 MR 40


賦術

 物魔転換 2 月光蘇生 5

魔術

 ウインドカッター 1


加護

 森 風

言語

 エルフ語


「ふむふむ…流石秘境からの方ですね。冒険する前からLv3とは…更に前衛も後衛も対応可能、そして賦術の物魔転換があるとは…。」


「…良ければその物魔転換について教えていただければ。」


「構いませんよ。基本的に武器で攻撃するこの賦術は武器で攻撃する際は魔力を、魔術を使用する際は攻撃力の一部ステータスをそれぞれ対応するステータスに割合追加できます。これらの変換は受動的に行われるので、宣言発動する必要はありません。」


「つまり、魔力と攻撃力共に上昇させていく事で強くなりやすいと。」


「そう言う事ですね。後は…月光再生については…あまりよくわかりませんが、恐らく言い伝えにある月の光で体を癒す力でしょうか。」


「月光浴で回復するあれですか。我々純血のエルフが生まれ持った力ですね。」


 マーレーの説明に納得した様子のリナは他に気になる点がないか確認して小部屋を後にする。続く様にマーレーとマイナも小部屋を出てそのままカウンターに戻ると、リナは新たに別の書類を手渡した。


「こちらがまず冒険者雇用契約書で、こちらが身元保証契約書、更にこちらが死亡責任契約書で更にこちらが秘密保持誓約書となっております。エルフ語で印刷させていただきましたので一通り目を通して頂いてサインを頂けたら冒険者登録は完了です!」


 リナから手渡された書類を一通り見ていく。と言っても内容は依頼主を裏切らないや、依頼について依頼中の他言は厳禁、死亡して依頼失敗の際は責任は負わず自己責任であるなど当たり前の事が書かれていた。特筆して気になる点はなかった為サインと血印を押してリナに手渡す。


「…確認しました。ありがとうございます!これでマーレー様は晴れて冒険者となりました。ではこの後ですがご利用になられる宿とパーティの希望を確認させていただきます。如何なさいますか?」


 ずいっと乗り出したリナの言葉に困惑する。両方とも考えていなかった為マイナの方を見てどうするべきか聞く。


「んん…とりあえずパーティの方はエルフ語話せる方から居る所が優先事項かと思いますね。今後も私が付きっきりで行動する訳にはいきませんので…。宿はパーティ次第ではないでしょうか。純血となれば将来性はかなり高いですし…大規模パーティや高レベルパーティの傘下が声をかける可能性もありますから。」


「なるほど。ではそれでいきましょう。エルフ語話せる方が居るパーティって条件だけで構いません。宿は…見つかるまで愛馬と共に外でも構いませんし。」


 笑顔で条件を伝えたマーレーに対し野宿は…と止めようとしたリナとマイナ。だが伝え終えたマーレーの意識はそちらではなくたった今入ってきた三人の冒険者に向く。


「だいぶ討伐に慣れてきたね…。けど…」


「…確かにそうよねー…」


「…それなら…ってあら?あれは…」


「…貴方達は…」


 マーレーの視線の先。そこに居た冒険者は、数日前成り行きで共闘してコボルトリーダーを討伐した三人の冒険者が立っていた。

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