23.機巧塔対デメルング 15層(2)
機巧塔対デメルング15層。
3人は半日ほどかけて8層から14層を踏破し、そして今は15層のボス部屋前の通路で最後にと連携の確認をしているところだった。角から少し顔を出せば、巨大な鉄塊が鎮座している光景を見ることができるだろう。今回の標的、アイアンゴーレムだ。
3人は既に12層以降でブロンズゴーレムを幾度か討伐している。ロックゴーレムのように簡単に破壊できるわけではないが、
「じゃあ、アイアンゴーレムも同じように倒す……でいいんだね?」
「……はい」
「ああ。それでいい……。というかそれ以外に手がねぇんだな」
アイアンゴーレムは文字通り鉄の塊だ。鉄のハンマーを持って殴りつけても、大きな痛手を与えることはできない。斬鉄の出来る腕前があれば別だが、あいにくタビもツルギも――もちろん剣を振るってわずかな期間でしかないルルも――そのような技術は保持していないので、刃物の類はまるで役に立たない。
故に彼らが選んだ戦術は、ロックゴーレムやブロンズゴーレムを倒した戦術の焼き直しである。ツルギが盾でバランスを崩し、ルルが土魔法で転倒させ、タビがハンマーを振り下ろす。耐久値の高いアイアンゴーレム相手には苦労するが、叩き続けていればいずれ勝てる……という類の戦術だ。
3人は戦闘の前に暖かいスープで腹ごしらえをして準備を整えると、それぞれの武器を手にアイアンゴーレム相手に駆け出した。
重い金属音が鳴り響く。タビの振るったハンマーがアイアンゴーレムを打ち据えた音だ。
ハンマーを振るった反動でたたらを踏むタビを嘲笑うかのようにアイアンゴーレムは歩いていく。目的は最も多く
大人でも吹き飛ばされる致命の拳が振り下ろされ、それをかばうようにツルギが立ちはだかる。巧みに操られる盾が、アイアンゴーレムの拳を受け流す。わずかな隙にルルは駆け出し、アイアンゴーレムから距離を取る。
ツルギはそれを確認して盾を大きく振るい、ルルの魔法と合わせて再度転倒させることに成功する。
戦闘を始めてから1時間ほどの時間が経っていた。既にツルギの盾が打ち合う回数は3桁を数え、自慢のカイトシールドのあちこちに凹みが目立つようになってきた。幾度も叩きつけられるタビのハンマーも凹凸の激しいゴーレムを打ち据えたために、塔に持ち込んだ時の綺麗な頭でなくなりつつある。
長い戦闘でアイアンゴーレムのHPは1/3ほどになっており、このペースで進めばあと30分ほどで倒し切れると思われた。
「そういう時こそ危ないんだよな……」
「ああ、俺もそう思うぜ。これだけタフならなんか隠し持ってるだろ」
「……はい……、そう、思います……」
タビの植物魔法<
今もパキパキ、ぶちぶちとゴーレムは拘束を解いて動き出そうとしている。
「<スタンプ>!」
完全に動き出す前にタビが今ひとたびハンマーを振るう。拘束を解かんと持ち上げられたゴーレムの腕が金属に押しつぶされる大きな音が響く。
タビはハンマーを持ち上げると速やかに引き返してツルギの後ろへと隠れ、ゴーレムの拘束が解けるタイミングを待つ。少しとはいえ休憩できたタイミングで無理をすることはない。下手に深追いをしてうっかり
アイアンゴーレムは土と植物の拘束を引きちぎり立ち上がると、怒ったかのように両腕を高く掲げた。
「……怒ったかな」
「……怒りましたね」
「……怒ったんだろうな。……散れッ!!」
そしてアイアンゴーレムは突進してきた。今までのように腕を薙ぎ払う攻撃ではなく、その重量を生かした
タビとルルはツルギの言葉に従って左右に散会した。ツルギの盾がゴーレムの突進を受け止め……はせず、わずかに軌道を逸らして後方に弾き飛ばす。アイアンゴーレムは派手な音を響かせて部屋の壁にのめり込む。
「この攻撃は何度も耐えられねえ! さっさと決めるぞ! <ストーンバレル>!」
「「<ストーンバレル>!」」
3人で作り出した岩がアイアンゴーレムに叩きつけられる。ものともせずに壁から脱出したアイアンゴーレムは、ぐるりと振り返るとタビを狙って突進する。
「テメエの攻撃は通さねえよ!」
アイアンゴーレムがタビに激突する直前に、ツルギの盾が軌道を逸らす。タビの一歩となりを通過して壁にめり込んだゴーレムに、タビは容赦なく追撃を入れる。即座に離脱し、再び3人の土魔法がゴーレムに炸裂する。
「これは……」
「ハッハァ! ダメージが通りやすくなってるなァ!」
ゴーレムが突進攻撃を始める前、3割ほど残っていたHPが、今は2割を切るほどになっている。あと5回も突進を躱しながら攻撃を叩きこめば、HPが尽きるはずだ。
ぐるりと振り返るゴーレムを前に、3人の冒険者達はにやりと笑い――
数分後、無事アイアンゴーレムを討伐することに成功した。
「タビ、ルル、助かった。礼を言う」
「どういたしまして。それで……、どうしてアイアンゴーレムなのか聞いても?」
タビたち3人はアイアンゴーレムを討伐し、疲れを癒すために休憩を取っていた。
淹れたお茶は鎮静効果のあるレモンバーム――サイヒの街の自宅農園で育てているものを、ルルが少量摘んで持ってきていた――だ。柔らかい丸パンに茹で貝飲み魚の白身とレタスを挟み、マヨネーズを挟んだサンドイッチ片手に、タビはツルギにそう問うた。
「ああ、それなんだがな。タビ、アイアンゴーレムの鉄を俺にくれないか。折角鍛冶場をもらえるんだ。この鉄を元手にして稼ぎたい」
「ああ、そういうことか。それならいいよ」
タビにとっては鍛冶か売却以外に使い道もないので即座に承諾する。
「……言っておいてなんだが本当にいいのか? これだけの鉄だからそれなりに値がするぞ?」
「あー、ツルギが手伝ってくれるからね。それくらいの価値はあるさ」
「まぁあの屋敷を持ってるくらいだから金にはあまり困ってなさそうとは思うが……まぁいいか。助かった、ありがとう」
改めて礼を言うツルギに、タビは1つ思いついたことを言ってみようと、そういえばだけどと話を続ける。
「1つお願いがあるんだけど構わないかな」
「なんだ?」
「俺とルルに鍛冶を教えてくれないか? 何かあったときのために最低限打てるようになっておきたくてな」
「ああ、俺もそれほど上手いわけではないが、それでよければ構わないぞ。せっかく青銅もあるし、そっちで何か作ってみるのも良いかもな」
「そう言ってもらえると助かるよ。改めてよろしく、ツルギ」
「ああ、こちらこそよろしく。タビ、ルル」
サンドイッチを食べ終えた3人は、敵を倒し終えて何も残っていない塔を降り、カヤとススキの世話をしてサイヒの街へと戻った。塔を出た時間が遅かったため日没時刻を過ぎてしまったが、門兵は快く門を開けてくれた。
その日は全員疲れ切っていたので軽めの夕食と風呂を済ませ、明日は1日休みとして、明後日に鍛冶を始めることにした。
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