22.機巧塔対デメルング 1層/7層

 機巧塔対デメルング。15層にてアイアンゴーレムの出現するそのダンジョンは、サイヒの街より南の街道を馬で半日ほど進んだところにある。

 名に「対」とつきながらも、そこに立ったいるのは1基の塔だ。わずかに赤みがかった白い金属らしき外壁には、継ぎ目も歪みも見られない。見上げればどこまでも続く塔の果ては見えず、その円周は寸分の狂いなく同じ寸法で続いている。


「これと同じもんがトウロウの南にもあるってんだから驚きだよな」

「機巧塔対アベンド……でしたっけ」

「そうだ、あっちは青いらしいがな」


 機巧塔「対」たる所以は涙の大陸西部にあるもう1基の塔――黄昏を表す薄蒼の塔――だ。黎明を表すデメルングと全く同じ材質と思われる建材や内部構造を持ち、ただその色のみがわずかに違う。

 いずれも25層前後を境に攻略されておらず、どこまで続くかわからないダンジョンとして有名らしい。


「タビお兄ちゃん、カヤとススキを馬小屋に入れてきました。食べ物も用意してあります」

「ありがとう、ルル。準備はできた? ツルギ」

「おうよ!」


 そんなわけで偉丈夫従者改めツルギとルル、タビの3人は塔の真下までやってきていた。早朝に出発して途中で昼食を済ませ、時刻は昼下がりと言ったところだ。

 設けられた馬小屋は手入れをすることで勝手に使ってもいいようになっている。冒険者が頻繁にやってくることから、ギルドが主体となって建てたらしい。塔の中で1泊はする予定なので、双子馬の餌が足りるようきちんと計算した量を置いている。

 準備は昨日一日かけて済ませてある。速足になってしまったが、簡単な連携の練習もした。どこまで通用するかはわからないが、死んだときは死んだときで3人で修行してから来るということで納得している。


「じゃ、行こうか」






 機巧塔対デメルングの内部は基本的に一本道だ。

 入ってすぐに右折し、突き当りに大きな部屋が1つ。左に曲がって突き当りに同じ大きさの部屋が1つ。反時計回りにさらに四隅の部屋を2つめぐって、最後は中央に部屋が1つ。

 階段を昇れば全く同じ構造になっていて、それぞれの大きな部屋にゴーレムが存在している。登れば登るほど強いゴーレムが出現し、特に中央の部屋は強化されているのか2階層上のゴーレムに近い戦闘能力を持っている。


「<アクアバレル>!」


 1階層1部屋目にやってきたタビは、ツルギが魔法を使うのをただ眺めている。既に複数冊の写本が完成しているので、昨日のうちに4種の基本魔法の魔導書を渡していたのだ。その試運転を兼ねて魔法を使ってもらっている。

 見れば、初戦の相手であるサンドゴーレムに水弾が突き刺さり、泥となって崩れていくところだった。サンドゴーレムは砂でできたゴーレムだが、砂でなくなった部分は支配できないのか体が崩れていく性質を持っている。部位欠損するとかなりの勢いでHPが削れていくため、サンドゴーレムは水魔法にとても弱いというのが常識だ。


「<アクアバレル>! <アクアバレル>!」


 ツルギが生成した水弾が次々にサンドゴーレムに着弾する。7発の着弾の後、サンドゴーレムは動かなくなった。ツルギが散らばった砂をストレージに回収する。サンドゴーレムは珪砂を主体とした砂で、上手く使えばガラスを作ることもできる。濡れている部分はあとで乾かすことにして、一旦回収しておくということだ。


「とりあえず大丈夫そうだね」

「ああ。しっかしこんな貴重なモン、本当にもらっちまってよかったのか?」

「そんなに怯えなくても大丈夫だよ、ツルギ。【複写】のレベリングに同じ本は何冊も作ってるんだ。1冊ずつ持って行ったところで痛くも痒くもないさ」

「そう言ってもらえると助かるがよ。俺はあの屋敷で鍛冶してるんだろ? 他の奴に渡した方が――」

「他に頼めそうな従者がいないんだよねぇ……。まぁしばらくは人が少なくても大丈夫だろうからそこまで焦ってないけど」

「……できれば前衛の出来る人が欲しいです、タビお兄ちゃん」

「ごめんね、ルル。できるだけ早く見つけよう……」

「すまねえな、わがまま言っちまって」

「……い、いえ。ごめんなさい、ツルギさん。そういうわけでは」

「わかってるよ。……つかこのままだと日が暮れちまう。とっとと進もうぜ」

「そうだね。行こう、ルル」

「はい」






 水が弱点のサンドゴーレム、火が弱点のマッドゴーレムが襲い掛かってくる6層までは、覚えたてのツルギの魔法だけでも十分に対処可能だ。時折ボス部屋で複数体のゴーレムが現れる以外は常に単体なので、練習がてらツルギに魔法攻撃を任せている。

 タビ一行は夕方、7層のボス部屋まで来ていた。各解の広さは同じでどれも広くないとはいえ、魔法がなければここまで1日で来ることは難しかっただろう。


「本当にここまで来れるとは思わなかったぞ」

「……はい……、疲れました……」

「魔法が使えれば低階層はね……。それとごめんね、ルル。無理させて」

「いえ……、大丈夫です」


 まもなく日も暮れる頃合いだ。今日はボス部屋を踏破して終わりにするべきだろう、とタビは判断する。機巧塔対でのリポップ時間は48時間、一度倒してしまえば帰る時まで姿を見ることはない。


「何にせよ後1戦だ。手早く終わらせて休憩にしよう」

「はい」

「おう!」


 3人の視線の先にいるのはロックゴーレム。全身が岩でできた巨人だ。

 そしてここまでは魔法を使えれば簡単に進めていた塔の難易度がグンと上がっていく。


 ゴーレム種には弱点が異常なほど少ないのだ。


 生半可な武器では太刀打ちできず、基本魔法では火力が足りない。重い体を動かすだけの高い馬力のおかげで拘束するのも難しい。7層のロックゴーレムは、ある意味で冒険者にとって壁そのものなのだ。

 だが、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。目標は15層ボス、7層ボス程度は無傷で倒せなければ到底太刀打ちできないのだから。


「行くぜ、<シールドバッシュ>!」


 ツルギが歩き出そうとしたロックゴーレムへと突っ込んでいく。振り下ろされる直前の拳に無理矢理カイトシールドを合わせ、体の外側に弾く。


「<ストーンバレル>!」


 タイミングを合わせたルルの土魔法がロックゴーレムの足元に炸裂する。気づかれないように反対側へと移動したルルは、拳大の石を軸足めがけていくつも投射していたのだ。

 体が大きく開き、ぐらりと体勢を崩すロックゴーレム。


「よし、<スタンプ>!」


 タビはロックゴーレムが倒れたのを見て、ストレージから取り出したハンマーを振り下ろす。バキバキと大きな音がして、ロックゴーレムの右腕が壊れていく。

 タビとツルギはハンマーが当たったことを確認し、一旦距離を取る。右腕を失ったとはいえ、巨体なのは変わらない。苛立ち混じりに振り回される巨腕に当たれば、一発で教会送りリスポーンもあり得るのだ。

 ロックゴーレムは自身の動きを制限していた鉄盾がなくなったことを把握すると、左腕を使って器用に起き上がる。威嚇なのかその腕を大きく振り上げ、敵対心ヘイトの高いタビに駆けだそうとして、――再びカイトシールドの体当たりを受けた。


 そこから先は一方的な戦いだった。

 ツルギとルルがロックゴーレムの体勢を崩し、タビがハンマーを落としてバラバラにしていく。合計5セットも殴る頃にはロックゴーレムのHPも尽き、タビたちは物言わぬ岩となったそれをストレージに回収したのだった。

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