EX01.ルルのお料理作り溜め
今日は嬉しいことがありました。タビお兄ちゃんが一日料理をしていいと言ってくれたのです。
1週間洞窟に籠っていましたし、最後には死んじゃうという酷い目にも遭いましたが、それでも好きな食材でたくさん料理ができるのは嬉しいです。
何を作ろうか迷いながら商店街を歩きます。
今持っている食材は少し余ったままの森林ウルフのお肉とパンがいくつか。調理済みの料理もそこそこ(多分タビお兄ちゃんとわたしなら何日かは食べられるくらい)残っています。
タビお兄ちゃんから予算もそこそこもらっていて、多分1月分くらいのお料理なら作ることができそうです。
ひとまず主食になるパンとパスタを買いに行きます。
パン屋さんは通りに何軒かありますが、一番おいしいのは北西通り4番街にあるパン屋さんです。焼きたての食パンと丸パンを金貨1枚分くらい買います。量が多かったので3回に分けて焼いてくれることになりました。後で取りに来てほしいということで、夕方取りに来ることにします。
パスタは細長いものと太くて短いものを6:4くらいで、こちらは銀貨60枚分くらい。細長いものがタビお兄ちゃんの食べるものです。パスタの好みはタビお兄ちゃんと合いません。寂しいけれど毎回別茹でします。火も水も魔法で何とかなるので助かりました。
パスタ屋さんの隣にある塩屋さんでお塩も買います。お塩は料理の基本です。とにかくあって困るものでもないのでたくさん買っておいてほしいとタビお兄ちゃんにも言われているくらいです。というか塩のために金貨2枚追加でもらっています。塩は袋詰めされていて重いですが、アイテムストレージがあればどれだけ重くても困りません。タビお兄ちゃんの世界にはこんな便利なものはなかったと言っていました。どうやって暮らしていたんでしょう……。
主食の買い物が終わったので、次はお肉かお野菜か……。考えていた私の目に入ったのはお魚でした。そうです。このサイヒの街は海が近いのでした。お魚も他の街に比べて安いはずです(そしてお塩を買ってきてほしいというタビお兄ちゃんの言葉も、これが原因かもしれません)。
わたしはお魚屋さんを見て色々買っていきます。
教会のレシピ書で見た塩鮭は焼くだけで簡単においしくできる海魚の王様です。そのままつついても美味しいですし、ほぐしてスープに入れると塩味と出汁がしっかり効いて食べ応えがあります。
貝飲み魚は小さな貝をたくさん飲み込んでいて腹の中から貝を取り出してから調理します。生では食べられないお魚ですし貝や内臓を綺麗に処理しないといけないので大変ですが、単価が安いのと貝が魔石の素材になるからとタビお兄ちゃんにできるだけ買ってきてほしいと言われています。
それから皇帝マグロが一匹まるまる入荷していたので思わず買ってしまいました。長さが5mくらいある気がします。骨と鱗以外は全て食べられるのと、特に赤身が大変美味しいとのことで捌き方も教えてもらいました。どこかで捌く場所が確保できるといいのですが……。
それからエビやイカ――名もなき村やサイヒの宿屋でタビお兄ちゃんが美味しそうに食べていました――をいくらか買っておきます。そうしたら魚屋のおじさんに赤いぶくぶくしたものを勧められましたが、そちらは断りました。なんか絵本に出てきた悪魔みたいだと思ったからです。
お魚屋を後にしたわたしは、今日一番楽しみにしていた食材を探します。幸いそれほど歩くことなく見つけることができました。
それは昨日食べたはちみつ南瓜です。シチューに入っていたそれはとっても甘くておいしかったです。旬はまだまだこれかららしいですが、スープとかに入れても美味しいですし、煮物にしてもおいしいと教えてもらいました。
一緒にお野菜も買い込んでいきます。苦みニンジンやクラウンコーンは食べない部分が錬金術の素材として優秀と聞きました。タビお兄ちゃんが好きと言っていたのでほうれん草も多めに買います。シチューだけは絶対に作るつもりなので、玉ねぎやジャガイモも買いました。
一緒に果物も買っていきます。まず買うのは何と言っても月光林檎です。陽光に当てず月光だけで育てる栽培の難しい果物らしいのですが、最近見つかった新しい魔法のおかげでたくさん作れるようになったらしいです。ほのかな甘さとシャキシャキとした歯ごたえがあってそのまま食べても美味しいのですが、わたしのお気に入りの食べ方はやっぱりジャムにすることです。少な目の砂糖で作った甘さ控えめのジャムは朝食にピッタリだと思います。
それから食卓を彩る蜜鬼灯を買います。小さい赤風船のような見た目だけど、柑橘みたいな酸味の皮と中にある蜜の甘みがとてもいいバランスです。料理には向かないけど、お腹が空いた時のおやつにはぴったりです。
それから緊急時の栄養補給源に厚皮桃と南国梨を、グラタンを作る時の食感を出すためにナッツをいくらか買います。
食費もだいぶん少なくなってきたけど、次はお肉です。
まずは何と言っても安いウルフ肉! このあたりでは森林ウルフが多いです。雑食とはいえあまり肉は食べないみたいで、他のウルフ肉に比べて肉の臭みが少ないらしいです。涙の大陸では南の端の砂漠ウルフや北の山脈の山岳ウルフ以外はほとんど森林ウルフなので、細かな味の違いは旅人さんしか知りません。タビお兄ちゃんもその内行くんでしょうか?
それから牛、豚、馬のお肉も少しずつ購入します。ウルフ肉に比べて少し高いけど、おいしさは抜群です。少し固めなお肉が多いので、シチューや煮物にしようと思ってます。
最後に新鮮な卵を見繕って購入します。卵は美味しいし食べると元気になるので買えてうれしいです。タビお兄ちゃんもたくさん買っていくと喜んでくれます。
一応お肉屋さんで多めにラードももらっておきます。買ったお肉の量が多かったので、これはおまけしてもらえました。
最後に調味料を色々買いそろえておきます。タビお兄ちゃんは「お醤油だけは切らさないでほしい」と言っていたのでお醤油と……、あとお味噌も買います。お砂糖や小麦粉なんかは必需品です。他にも必要そうな調味料をあれこれ買い揃えて、お買い物は終わりです。いっぱい買えました!
わたしは教会か宿かどちらの台所を借りてお料理しようか迷いながら、ひとまず教会の方へと向かいます。教会の方がたくさんの人がいるので台所が大きいからです。
ちょっと疲れた顔で歩いていたわたしですが、途中で声をかけられました。
「ルルちゃん! パン焼けてるよ!」
わたしは慌てて呼ばれたパン屋さんに寄ります。色々買ってすっかり忘れてしまっていました。
焼きたてのパンをたっぷりストレージに入れて(たくさん買ったので少しおまけしてくれました)、わたしは今度こそ教会に向かいます。
教会の台所は無事お借りすることができました。
まず作るのはシチューです。本命のはちみつ南瓜の他に、ジャガイモ、玉ねぎ、苦みニンジンの甘い中心部分とクラウンコーンを入れた鍋を火にかけ、隣のフライパンでウルフ肉と馬肉をまとめて炒めます。火が通ったらお肉を鍋に移し、弱火で煮込んでいきます。しばらく煮込んだら宿屋特製レシピに沿って調味料を入れていくだけなので、蓋をして弱火で煮込んでおきます。
それからグラタンです。お肉はウルフ肉、玉ねぎとクラウンコーンを合わせてホワイトソースを作りながら、パスタを茹でていきます。タビお兄ちゃんは細長いパスタが好きですが、グラタンばかりは短くて太いパスタを使った方が喜びます。準備ができたらお皿に移してチーズをかけてオーブンに。焼きあがるまでは他のことができそうです。
わたしはすこし考えてから、卵とパスタを別々の鍋で茹でることにしました。火にかけたら、丸パンに切れ目を入れていきます。パスタが先に茹であがったので、さっと水を切ってフライパンで手早く調理していきます。タビお兄ちゃんが好きそうなペペロンチーノ、イカと葉野菜を使ったパスタ、ウルフ肉とトマトのペーストを混ぜ込んだスパゲティ……。同じものを後で違うパスタで作らないといけないので、余ったソースは取り分けておきます。
再度パスタを茹で始めたら、完成したゆで卵を潰す作業です。しっかりと潰したら塩胡椒で味を調えて先ほど切れ目を入れた丸パンにはさんでいきます。卵サンドはわたしとタビお兄ちゃんが写経をするときのおやつになります。
途中で焼けたグラタンのお皿に蓋をしてストレージに収めていくことも忘れません。オーブンが空いたので、紅鮭を焼き始めることにしました。食パンも切り分けておきます(ちなみにタビお兄ちゃんは6枚切り、わたしは8枚切りが好きなので、厚さを変えて切っています)。
食パンが切り終わったら、貝飲み魚も捌いておきます。頭を落として腹を捌きます。ブクブクに張り裂けそうなお腹からはたくさんの貝が出てくるので、まとめて袋に入れてストレージに入れます。内臓と鱗を綺麗に取り除いたら、うーん……、どうしよう。考えている間に鮭が焼けたので取り出して、塩で臭みを抜いた貝飲み魚を半分くらい焼き始めます。残り半分はスープにすることにして、骨を除いて鍋に入れます。
そろそろシチューの様子を見て見ます。はちみつ南瓜の中身が少しずつ鍋の中に溶け込んで、鍋の中はうすい琥珀色になっていました。いい感じになってきたので調味料を入れていきます。牛乳の白さとはちみつ南瓜の琥珀色が喧嘩しないぐらいに入れると美味しくできるらしいです。
出来上がった料理を蓋つきのお皿に入れてまとめてストレージに入れつつ、焼けた貝飲み魚を取り出して、腹に茹でたほうれん草を入れて、もうひと焼きします。
お鍋の方もいくつかの調味料とほぐした焼鮭、薄く切ったジャガイモを入れてひと煮たちさせたら、とりあえずこんなところでしょうか。料理をストレージに入れて、使ったものを片付けていきます。
わたしの今日のお料理は日が沈んだあたりでようやく終わりました。神父さんたちにお礼と気持ちばかりの心づけ、それから料理を少しお裾分けして、わたしは宿に帰ります。
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