第51話 友達って良いよね

「シャミオが悪いんだよ!」


「俺たちは命令されただけ!」


「助けてくれええ!!」


 ……悪魔が出現していた。

 この盗賊団の連中にとっては、だけど。


 私に、いや、私たちにとってはこれは連中の自業自得の結果なので。


「よくも!ヨクモオオオオオオ!!!」


 ……アイアさん、オオアバレ。

 私がシャミオを倒した瞬間、洗脳が解けて、正気に戻っちゃった。

 連中にとって不幸なのは、洗脳中の自分の行動を、全部アイアさんが覚えていたこと。


 ……ホント、何もされなくて良かったよ。

 貞操を奪われなかっただけでなく、唇も無事だったからね。


 もし、何かされてたら、アイアさん、どうなっていたんだろう?

 精神的、物理的被害はほぼゼロで終わって良かったよ。


 でもまあ、呪いで自分を曲げる行動を取らされたことはしっかり覚えていたので。


 今のアイアさん


 涙目で


 目を吊り上がらせて


 顔を真っ赤にして


 全身鎧を着たまんまで


 まるで虎か豹かという速度で飛び回り、盗賊を捕まえては、手足を掴んで片手でブン回し。

 連中の身体をまるで鈍器のように使いながら、薙ぎ払いまくってる。

 愛用のビクティ二世は使わずに。

 自分の超身体能力だけでオオアバレ。


 捕まったら鈍器にされ、捕まらなくても、鞭か何かのように飛んでくる仲間の身体でブチのめされる。


 自業自得だけど、連中にとっての地獄。

 連中、泣き叫びながら、自分たちがボスと呼んだシャミオを呼び捨てにして、責任転嫁しつつ逃げ回ってる。


 クズだー。

 魔物に平伏して、子分になってただけでも相当なのに。

 そいつが負けたら、全ての責任をそいつに押し付けるなんて。


 くずうううう。


「なあ、アンタ! 助けてくれよ!」


 私の足元で、1人の盗賊が土下座した。


 ……私たちを襲撃した連中で、リーダーやってた奴。

 つまり、アイアさんが眼力の奇跡の犠牲になる原因を作った奴。


「えっと、何で? 意味分からないんだけど?」


 しれっと、答えてあげる。


「このままじゃ殺されちまう!」


「それだけのこと、したじゃん?」


 盗賊の都合のいい泣き言に、私は即答してあげた。

 女の子の自由意思を奪って、玩具にしようとするなんて。

 最低過ぎてゲボしそう。


 別に殺そうとして無いだろ?

 それと同等の行いだよ。


 ふざけんな。


 アイアさんの怒りはもっとも。

 それにあの怒り具合。

 アイアさんの乙女を感じて、私はちょっと可愛いとすら思っている。


「良かったね。あんな可愛い女の子にボコボコにしてもらえるんだよ? ここはお礼を言うべきじゃ無いかな?」


 にっこり笑って答えてあげる。


「そんな……」


 真っ青になって、そいつ。


 ……何が「そんな」だ。

 頭の血管が切れそうになった。


 自業自得でしょうが。


 私はアイアさんを見た。

 アイアさん、涙目で顔を真っ赤にしているのが本当に可愛い。

 されたことは可哀想でならないけど。


 恋に生きないで、戦士としての道を究めるって決めたアイアさんは、そんなことを言われても喜ばないかもしれないけどさ。


 アイアさんが盗賊の身体をヌンチャクか鞭のように使って暴れまわるのすら、微笑ましく感じてしまう。


 ……あんなに可愛いのに。

 どうして男の人がアイアさんを放っておくのだろうか?


 誰か、真っ当な男性がアイアさんを口説いてくれないかなぁ?

 そうすれば、もっと可愛い姿が見れそうな気がするのに。(まあ、アイアさんは喜ばないだろうけど。そんなことを言われても)


 ……当然、その際はアイアさんは一切変わらなくて良い、ってのが前提だけど。

 そうじゃなきゃ、アイアさんじゃ無いよね。

 男性の方が合わせるべきなんだよ。アイアさんに関しては。


「可愛い……」


 私が頬に手を当てて、縦横無尽に暴れ回っているアイアさんを見て、正直に一言。

 思わずそう言うと


「……イカれてる」


 目の前の盗賊男が、聞き捨てならないことを言って来た。

 ……は?


「えっと、今なんて?」


 そう言って視線を向けると、視線を逸らして押し黙る。


 そこは貫いたらどうなのよ?

 口に出したことくらい、責任を持ったら?


 その「男らしくない」態度に嫌悪感を持つ私。

 腹が立つ。


「アイアさんが今、ああなのは、女として耐えられないようなことをされそうになったから、ああなの」


 どうせ通じないに決まってるけど、腹が立つので言ってやる。


「私はそこが可愛いと思ったから可愛いって言ったの」


 男は、目を背けたまま。


「分かった?」


 分からないんでしょ。

 どうせ。


 盗賊男、ダンマリ。


「本当の『可愛い』はああいうのだと思うなぁ」


 通じないの分かってるけど、言わずには居られない。


「容姿だとか、衣装じゃ無いと思う」


 アイアさんは、恥じらいも知ってるし、譲れないものがある人だ。

 それに、ちゃんと他人の事を尊重できる人だし。


 だから、私は好き。


 ……おっと。


 がしっ。


「ひっ……」


 アイアさんの可愛さを語っている間に。

 あたりからは軒並み、動く盗賊が居なくなってた。


 全員、ボロ雑巾みたいに振り回され、ぶちのめされて倒れ伏してる。


 ……残ってるの、彼だけかー。


「……お前で最後だから」


 最後のひとりの肩に手を掛けて、アイアさんはそう言った。

 もう、涙は乾いてて。

 表情も戻ってる。


 暴れて、だいぶスッキリしたのかな?


 ガタガタ震えている最後のひとりの肩に手を置いたまま、アイアさんは言った。


「安心しなさい。殺すつもりではやんないから」


 穏やかに。

 口元に笑みすら浮かべて。


「……基本的に」


「基本的に……?」


 それが、最後の言葉になった。


 次の瞬間、掴んだ肩から引っこ抜かれるように真上に投げ上げられ。


 あああああああ!


 叫び声。

 そのまま空中で足首を掴まれて、まるで前の世界のアイドルのコンサートで、ファンのひとたちがやるオタ芸みたいに振り回されている。


 ……基本的に、殺す気は無い。

 それは、こういうことなんだね。


 アイアさん、とてもいい笑顔だった。

 悔しさ、晴れたのかな?


 良かった!




「前も言ったかもですけど、料理は出来た方がいいですよ。男女関係なしに」


「うーん……」


「お裁縫も出来た方が良いと思います。自由度が広がりますし」


 私はアイアさんの隣で、カポカポと馬を歩かせながら、アイアさんと話していた。

 どうもアイアさん、料理やお裁縫を覚えるのは「花嫁修業」みたいなイメージで抵抗があったみたいで。


 私は「そんなの関係無いですよ」っていう意味で、話をしていた。


 アイアさんはお神輿の椅子に足を組んで座りながら、思案顔。


「……でも、大半の男は出来ないわけじゃん? なんで、女だけが男女関係なしに、って」


「そんなのどうでも良くないです? 自立した人間だからこそ、自分の事は全部自分でできるし、外食が出来ない状況でもいっぱしの食べられるものを作れるべきだと思うんですよ」


 私は馬の手綱を操りながら、自説を述べた。

 馬の操り方は、行きでアイアさんがやってるのを見て学習。

 これからはもう私も、馬車を使ったお仕事が出来そうだ。


「……それもそうかな。自分の技能を増やすことに、男女は関係ないよね。特に、生活関係」


 しばらく考えて。


 そんな私の言葉に、アイアさんは同意してくれた。

 嬉しい。なんだか、本当に打ち解けた気分。


 色々、誤解はあったけど、こうなれて本当に良かった。


「クミさんが教えてくれる?」


 続けてそう言われたけど


「いや、私より、セイレスさんに……えっと、オータムさんのお屋敷のメイドさんなんですけど、ご存じですか?」


「いや私、オータムさんの家には行ったこと無いんだよね。……恐れ多くて」


「なんですかそれー」


 アハハ、と笑いが洩れる。

 それにつられて、アイアさんも笑う。


 ああ、なんて幸せなんだろう。



 うあああ……


 く、くるしい……


 ズルズル、ズルズル……



「セイレスさんからクミさんが習って、それをクミさんが私に教えるってのはどう?」


「……効率悪くないですかそれ?」


「いや、クミさん覚えがいいじゃん。馬の操り方だって、すぐ覚えたし」


「……そうなんですか?」


「そうだよ。お世辞じゃ無いからね?」



 ……た、たすけて



 ん~~もう。


「さっきからうるさい!」


 私は一喝した。


 私の馬車の荷台には、縄が括りつけられており。

 そこに、盗賊たちを繋いで連行している。

 全員顔をボコボコに腫らしており、まともな顔のやつはひとりもいない。


 馬を走らせないのをありがたいと思って欲しい。

 さすがに、馬で引き摺ったら死ぬだろうと思ったから、そうしたんだ。


 ……そのための指標として。


 うう……


 ちくしょう……


 アイアさんは今、お神輿に乗ってるんだよね。

 盗賊たちで比較的無事そうなのを6名選抜して、担がせてる。

 アジトにあった木材で急遽作成した椅子付きお神輿。

 お神輿に据え付けられた木の椅子に、アイアさんがかっこよく座っている。


 その綺麗な手には、6本の縄。


 それぞれが、お神輿を担いでいる男たちの首に繋がっていた。


「あれだけ屈辱的なことをしてくれたんだから、これぐらいはしてもらわないと」


 アイアさん、口元は笑ってるんだけど、目は笑ってない。

 連中の事、まだ許して無いんだなぁ……。


 ま、気持ちは分かるけどさ。


 ……あ、そうそう指標。


 これはどういう意味かというと、アイアさんの進む速度に合わせて馬を歩かせる限り、無茶な速度にはならないだろう。

 そういう指標だ。


 体感じゃ、人が耐えられる速さなんてわかんないもの。

 こうするしか無いよね。


「はい、キリキリ歩く!」


 私は後ろの連中にピシャリと言ってあげた。


 実質徒歩と変わらない速度だからさ。

 来るときは1日で来れたけど、帰りは結構かかりそうだよね。


 まあ、食べ物はあるから大丈夫だけど。


 ……私たちの分は。


 ふたり同時に振り返って、同時に言葉を発する。


「街につくまで、水だけは飲ませてあげる」


「でも、食べ物は分けてあげないから!」


 私たち2人のこの言葉は、脅しじゃない。

 人間、水だけでも数日持つよね。


 アジトにあった食料は、いざというときのために毒を盛られてる可能性を考慮し、持ってこなかった。

 反逆されてもうっとおしいので、連中用に取りにも行かせてない。


 体内の残存エネルギーだけで、街まで踏破。

 キツイだろうけど、身から出た錆だから。


 ガンバレ。


「……お、鬼……!」


 すると、連中のひとりが涙声でそんなことを言って来た。


 失礼な! 誰が鬼よ!?


~6章(了)~

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