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結論から言えば、何とかなった。
雪ぎ香の臭いを半分泣きながら嗅いだわたしたちは、無事に皆と合流することができたのだ。
彼らも彼らでわたしたちを探してくれていたようだったが、思っていた場所にいなくて、全然見つからなかったらしい。クマクの種を必死にわたしが集めていたから、玄天川の方でもクマクが生えている場所のどこかにいるか、もしくはそのまま転んで川に流されたのでは、となって、わたしたちがいた場所とは真逆を探していたようだ。
わたしたちがいたのは、玄天川の方でも、上流の方。下流の方が出口に繋がっているからか、そっちの方へ進んでいってしまったらしい。
澄清池の方に落ちる心配はなかったけれど、上流は上流で、結構面倒なところに繋がっている。ここも、こっそり勝手に入れる場所の一つではあるのだが、同時に、遭難者を出したことの区画でもあるので、澄清池に落ちるのと同じくらいか、それ以上にヤバかったようだ。
青慈に抱きしめられ、赤希や詩黄から心配させるな、と怒られている姫鶴を見ると、本当に彼女がヒロインになっているな……と思わされる。
結局、いつわたしたちが紛い香を使われたのかは謎のままだが、とりあえず無事に帰ってくることができたので、一安心だ。
「良かったわ、無事で」
わたしが彼の客だったこともあってか、湖黒はわたしの安否を確認しにきた。ごめんね、君も姫鶴の方へ行きたいだろうに。
「――こんなところで迷子になってしまうなんて、次からは全員で移動したほうがいいかもしれませんね」
そう言ったのは紫司馬だ。彼は別に姫鶴の方に興味がないのか、それとも赤希が姫鶴に入れ込んでいるから一歩引いているのか、彼もまた、わたしの傍にいた。
少し嫌味っぽいけれど、声音と表情は、わたしたちの心配を本気でしてくれている顔だ。ミステリアスな人、というか、設定的に彼を全面的に信用していいのか考え物だが、それでも、ここは『黎明のアルケミスト』に似ているだけで同じな世界ではない。既に原作と違う道筋をたどっているのだから、原作で怪しいキャラだった、という理由だけでは疑えない。
姫鶴はどうにも警戒しているみたいだけど。
皆、わたしたちのことを気にかけてくれていたのに、紛い香を使われたかも、なんてとてもじゃないけれど言えなかった。
下手にギスギスしだすのも嫌だしな、と思って姫鶴たちを見ていると――。
「――万結さん!」
叫ぶように名前を呼ばれて、わたしは思わず声のする方を振り返った。
そこには、何故か透くんが、立っていた。
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