38

 結論から言えば、何とかなった。


 雪ぎ香の臭いを半分泣きながら嗅いだわたしたちは、無事に皆と合流することができたのだ。

 彼らも彼らでわたしたちを探してくれていたようだったが、思っていた場所にいなくて、全然見つからなかったらしい。クマクの種を必死にわたしが集めていたから、玄天川の方でもクマクが生えている場所のどこかにいるか、もしくはそのまま転んで川に流されたのでは、となって、わたしたちがいた場所とは真逆を探していたようだ。


 わたしたちがいたのは、玄天川の方でも、上流の方。下流の方が出口に繋がっているからか、そっちの方へ進んでいってしまったらしい。

 澄清池の方に落ちる心配はなかったけれど、上流は上流で、結構面倒なところに繋がっている。ここも、こっそり勝手に入れる場所の一つではあるのだが、同時に、遭難者を出したことの区画でもあるので、澄清池に落ちるのと同じくらいか、それ以上にヤバかったようだ。


 青慈に抱きしめられ、赤希や詩黄から心配させるな、と怒られている姫鶴を見ると、本当に彼女がヒロインになっているな……と思わされる。

 結局、いつわたしたちが紛い香を使われたのかは謎のままだが、とりあえず無事に帰ってくることができたので、一安心だ。


「良かったわ、無事で」


 わたしが彼の客だったこともあってか、湖黒はわたしの安否を確認しにきた。ごめんね、君も姫鶴の方へ行きたいだろうに。


「――こんなところで迷子になってしまうなんて、次からは全員で移動したほうがいいかもしれませんね」


 そう言ったのは紫司馬だ。彼は別に姫鶴の方に興味がないのか、それとも赤希が姫鶴に入れ込んでいるから一歩引いているのか、彼もまた、わたしの傍にいた。

 少し嫌味っぽいけれど、声音と表情は、わたしたちの心配を本気でしてくれている顔だ。ミステリアスな人、というか、設定的に彼を全面的に信用していいのか考え物だが、それでも、ここは『黎明のアルケミスト』に似ているだけで同じな世界ではない。既に原作と違う道筋をたどっているのだから、原作で怪しいキャラだった、という理由だけでは疑えない。

 姫鶴はどうにも警戒しているみたいだけど。


 皆、わたしたちのことを気にかけてくれていたのに、紛い香を使われたかも、なんてとてもじゃないけれど言えなかった。

 下手にギスギスしだすのも嫌だしな、と思って姫鶴たちを見ていると――。


「――万結さん!」


 叫ぶように名前を呼ばれて、わたしは思わず声のする方を振り返った。

 そこには、何故か透くんが、立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る