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「これと……これがあればなんとかなるかな」
わたしは辺りを見回して、薬草を二種類ほどぷちっと採取する。片方は生のままだと毒があるものと似ている草だから、鑑定鏡があって助かった。
「それでどうにかなるの?」
わたしの手のひらに収まった薬草を見て、姫鶴が問う。
「この二つがあれば、『雪(そそ)ぎ香』が作れます」
雪ぎ香は、お香系の万道具の効果を打ち消すことができるものだ。今の状況にぴったりなもの。
――一応。
わたしが微妙な顔をしているのに気が付いたのか、それとも姫鶴も思い当たることがあったのか、彼女も顔を曇らせる。
「雪ぎ香って……授業で習ったけど、もっと材料必要じゃなかったかしら」
後者の方だったか。
実際、本来ならばもっと他にも材料があるし、こんな道具もないような場所で作れるようなものではない。
ただ、それは売り物や、ちゃんと使う時の場合。
「より効果を高めるならば、それぞれ効果を消したい香に特化した素材を追加で入れるべきですし、いろいろ工程があるのも事実ですけど、最低限の効果は発揮できます」
――そう、最低限。
「いい機会だから、最低限の雪ぎ香を知っていたほうがいいかもしれませんね。これを知ると、一生雪ぎ香の製作に手を抜けなくなりますから」
わたしは言いながら、二種類の薬草をちぎって軽く揉み、わたしのハンカチで包んで混ぜ合わせる。
「……何がまずいの?」
手際よく準備を進めるわたしを不思議そうに見る姫鶴。
「すぐに分かりますよ」
わたしはハンカチを開き、それごと地面に置く。
「ハンカチいいの?」
「構いません、どうせ、もう、使い物にならないので」
あー、嫌だな。姫鶴は知らないようで、きょとんとしているだけだが、わたしはこの後の地獄を知っているのでつい、顔をしかめてしまう。
わたしは姫鶴からヒダノ草を分けてもらい、軍手を借りて、しゅ、と何度か勢いよくヒダノ草をこする。――火が付いた。
「きゃ!?」
火が付いた薬草を混ぜたものが、バチ、バチッ! と激しく火花を上げて燃える。
「確かにこれじゃ危ないし、使い物にならな――ごほっ! げほ、げほっ!」
バチバチと爆ぜる薬草を見ていた姫鶴が、盛大に咳き込んだ。
「なにこれ――くっさい!」
「手で鼻や口を隠したら駄目ですよ。雪ぎ香ですから、匂いを嗅がないと効果が出ません」
ちゃんと乾燥させて、粉にしないとこの薬草はとんでもない悪臭を放つのだ。個々の臭いがそれぞれ悲惨なのに、それが混ざることによって、できあがる混合臭。
控えめな表現をしても、地獄だ。
涙目で臭いを嗅いでいる姫鶴は、「絶対、雪ぎ香の製作は真面目にやるわ!」と声を荒げていたのは、言うまでもない。
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