06

「そもそもですね、わたしは恋愛パートは一人もクリアしていないんですよ」


 全く興味がない、と言っても、まだ不安そうな顔をしている姫鶴に伝えると、「えっ、一人も!?」と大きな声が返ってきた。どうやら声のボリューム調整が下手くそなタイプの人間らしい。遮蔽鈴があってよかった。ふすまと扉だけだったら、絶対に店に筒抜けだったと思う。


「一人も。経営パートが始まるまではプレイしましたけど」


「それ、ほとんど共通シナリオ部分だけじゃない……」


 信じられないものを見るような姫鶴の視線が突き刺さる。まあ、乙女ゲームとして売られているゲームを購入しておきながらミニゲームの方しかしない、というのは、乙女ゲームプレイヤーとしては信じられない話なんだろう。

 わたしは乙女ゲームはやらず、RPGとか、そういうやりこみ要素の強いジャンルしかしてこなかったゲーマーだったので、恋愛はおまけみたいなもの、という印象が強くて、どうにも恋愛パートは肌に合わなかったのだ。


「折角買ったんだし、と恋愛パートをやろうとも思ったんですけど……あんまり進まなくて。赤希ルート三回ほどチャレンジ失敗してます」


 進みが遅く、さらには途中で読むのをやめて時間が経つとどんな話だったか忘れてしまう。そうしてまた最初からやり直して、でも進みは遅くて一旦やめてしまって……というのを三度ほど繰り返し、結局恋愛パートのプレイを諦めてしまった、という過去を持つ。


「あ、ちなみに、赤希なのは探索パートナーが彼だったからです。気になるからとか、そういうアレじゃないですからね」


 経営パートで、素材採取をするとき、探索パートナーなるものが選べる。一緒に素材採取する度、ちょっとずつ信頼度というパラメータが上がって、ミニシナリオを読めるようになるのだ。ちなみに、経営パートで上げられる信頼度パラメータと恋愛パートで上げられる好感度パラメータは別物である。信頼度パラメータは上げても本編にはなんの作用もない。信頼度が上がるとレア度の高い素材が見つけやすくなるとか、素材の採取量が増えるとか、そういうミニゲーム専用のパラメータだ。

 そして、この探索パートナー、デフォルトだと赤希なのである。メイン攻略だから。


 わたしの探索パートナーが彼であるのは、単に変えるのが面倒だったからである。誰と行っても変わらないしね。

 これで、キャラごとにレア素材発見率が変わったり、キャラによって変わるキャラ固定素材があったりすれば話はまた別だったのだが。


 そんなわけで、別に赤希が好きだからプレイしようとしたわけではない。どちらかと言えば、湖黒が好きだ。キャラのイメージカラーが黒なので、とても目に優しい。赤がイメージカラーの赤希は、結構キツイ赤を身にまとっているので、ずっと見ていると目がチカチカしてくる。

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