07
わたしの態度でなんとなく察したものがあるのか、姫鶴は呆れたような表情を見せた。
「だから、大丈夫ですよ。ヒロインが正しくないので、ヒロインと攻略対象がくっつくのが正解の世界じゃないんです。安心して恋愛してください。どうしても申し訳ないと思うのなら、適当にレア素材を都合してください」
そう言うと、「それは貴女が欲しいだけでしょ」と姫鶴につっこまれてしまった。その通りである。あの学園に通える時点でそれなりの金持ちなはずだ。レア素材くれないかな~とダメ元で言ってみたが、呆れたように笑われただけだった。
「でも……そう言ってもらえて、安心した。やっぱり、乙女ゲームをプレイしてたから……、ヒロインに肯定されると、青慈を好きでいいんだって思える」
「中身、違いますけどね」
ヒロインのヒの字もない、その辺の喪ルケミストである。
そもそも、ここはゲームの世界に似ているだけで、今わたしたちが生きているのだから、ここが今の現実だ。恋をするのに誰かの許可が必要、なんてことはないだろう。親が結婚を決めている、とか、そういう家なら別かもしれないが。
前世から、性格も思考回路もあまり変わっている実感はない。子供の頃に前世を思い出してから、ずっと『わたしである』という自覚がしっかりとある。なにか、第三者による介入や強制力のようなものを感じたことは、今のところ、ない。
「まあ、結婚するなら、永遠誓(とわぢかい)の指輪はお任せください」
「け、けけ、結婚って! まだ早いわよ!」
耳がキーンとするほどの声量で姫鶴が真っ赤になって叫ぶ。本日一番の大声だ。
これほどの大声でも、遮音鈴は音を外に漏らさない。本当に万道具ってすげえな。
「そ、それに、その、永遠誓の指輪はクライマックスのイベントで攻略対象がくれるからいいの!」
「ありゃ、そうなんですか」
ゲーム内でもプレイヤー側が作れる万道具だったので、てっきり逆プロポーズする展開のシナリオなんだとばかり思っていた。
「私は青慈から、青慈が作った永遠誓の指輪が欲しいもん……」
そう言う姫鶴の表情は、恋する乙女の表情そのものだ。完全に余計なお世話だったか。まあでも、女の子だったら、好きな人からプロポーズされることを夢見るものか。逆もそりゃあ、いないわけじゃないだろうけど、相手からされたい、という人の方が多いイメージ。完全に偏見だが。
「……ちなみになんですけど、攻略対象が作る永遠誓の指輪ってどんなもんなんです?」
好奇心から、思わず聞いてしまう。いや、別に彼らからの永遠誓の指輪が欲しいわけではない。ただ、わたしの周りには、万道具を作る人間がじいちゃんくらいしかいなかったのだ。透くんもある程度作れるようだが、永遠誓の指輪のような、一生ものを作る技術はない。
もちろん、他の万道具屋に行けば他人が作った万道具なんていくらでも見られるのだが、同業者が商売敵にあれこれ教えてくれるわけもない。
「キャラによって違うからあんまりざっくりとは言えないけど、共通しているのはキャラのイメージカラーの石がはまっていることかしら。青慈の永遠誓の指輪はすごく細かくてきれいなの」
スチルで見たんだけどね、と、青慈の永遠誓の指輪に関してとても熱く語ってくれる。……途中から青慈への惚気話になっている気がするが……。
でもまあ、完璧主義者の指輪は確かにデザイン凄そうだよな。あれ、今は性格変わってるんだっけ? まあその辺はどうでもいいや。今後わたしが関わることも少なそうだし、指輪のデザインだけ知れればいい。
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