エピローグ 月宮 夜
ルシフェルが消滅し、夜が記憶を失って、世界に平和がもたらされてから六年という月日が流れた――――
「おはよう陽菜!」
「夜、おはよう。今日は珍しく早起きだね」
「うん! なんか目が覚めちゃって!」
わたしは月宮 夜。今日から立派な高校生です!
幼い頃から病弱だったわたしは学校というものに憧れていて、ちょっと興奮してます!
昔のことは覚えてないけど、小学校と中学校は一度も行けなかった。お姉ちゃんが危ないからって行かせてくれなかったの。だから勉強はメイドの凪に教わってた。
陽菜は近所に住んでる同い年の子で、時々遊びに来てくれるわたしの唯一無二の親友です。
「学校楽しみだなぁー! 陽菜は同じクラスなんだよね?」
「うん、そうだよ」
「じゃあずっと一緒だね!」
わたしと陽菜が玄関前で喋っていると、家の玄関が開いた。わたしと陽菜はその音に反応して玄関の方を見る。そこにはスーツ姿のわたしの大好きなお姉ちゃんの姿があった。
「お姉ちゃんスゴい大人っぽい!」
「そうかな? 変な所とかない?」
「うん! 全然おかしくないよ!」
もうカッコ良すぎてヤバい! このまま結婚して! わたしをお嫁さんにして!
「相変わらずのシスコンっぷりに私はドン引きだよ……」
「夜、俺はどうだ? 似合ってるか?」
お姉ちゃんの後ろからスーツを着た皇太郎が出てきた。お姉ちゃんのことを嫁にしようと企んでるこの男は好きじゃない。……わたしの兄なんですけど。
こんな碌でもない男にわたしのお姉ちゃんを上げる訳にはいかない。お姉ちゃんはわたしと結婚するためだけにスーツを着てくれてるんだから。
わたしは適当に似合ってるとだけ伝えて、お姉ちゃんと陽菜の二人の手を引いて学校へと向かった。何を隠そうお姉ちゃんは今年からわたしの通う学校で働く先生なんです!
「まだ非常勤講師だから、担任の先生にはなれないんだけど、お姉ちゃん頑張って授業するからね」
「うん! お姉ちゃんの授業楽しみ!」
わたしはルンルンで陽菜とお姉ちゃんの手を握って、スキップをしながら学校へと向かう。子供っぽい? ふふんっ、それがわたしだから良いんです!
お姉ちゃんも大人ぶってるわたしよりも今のわたしの方が好きだって言ってくれたし!
それから、校門前でお姉ちゃんと別れて陽菜と一緒に教室へと向かう。
「小学生が制服着て高校に通うって変だね」
「小学生じゃないもん!」
確かに身長が周りよりもちょっと、本当にちょっとだけ小さいけど、小学生呼ばわりされるほど小さくないもん! わたし、陽菜と同じ高校生だし!
「私の脇腹ぐらいしかないその身長で小さくないとか無理があるでしょ」
「陽菜が大きいだけだし」
「はいはい、そうですか。よかったね」
「ムキィーッ!!」
なに! これが勝者の余裕っていうヤツなの!? すっごいムカつく! その高い身長も平均より大きい胸もムカつく!
「あっ、ここの教室っぽいよ」
陽菜が教室の扉を指すと、わたしはその扉を勢いよく開ける。
既に何人かの生徒が座っており、初めての高校ということもあってか謎の緊張感があった。黒板には座る座席を指定した紙があり、わたしはその席を探して座る。
陽菜はわたしの前で一人ボッチで困るようなこともなかった。でも……
「陽菜陽菜、ど、どうすれば良いの?」
「どうって……黙って手元の資料でも見てなよ」
「そうじゃなくて、わたし入学式とか何をすれば良いのかわかんないの。陽菜なら何となくわかるでしょ!」
入学式がどんな感じなのか、わたしにはわからない。だって人生初体験だもん。教えてくれる人なんて陽菜しか居ない訳だし!
……ん?
「ワシ、参上ッ!!」
勢いよく扉が開くと何やらヤバそうなヤツが現れ、わたしと陽菜は思わず固まった。
……うん! あんな恥ずかしい人、わたしは知らない! 家に何度か来てたような気もするけど、知らない! 無視しようッ!
「陽菜、トイレ」
陽菜はため息を吐きつつも、恥ずかしい人から距離を置くために席を立った。
「夜もそろそろ一人でトイレ行けるようになろうね」
そのとき、クラスメイトたちは二度見したという。
学校のトイレは始めて入ったけど、特別豪華というわけでもなく、家よりも狭いトイレだった。でも教室よりかは気分が落ち着く。きっと余計な緊張感が無いからだろう。
「ほら、トイレットペーパーはここにあるから」
「……なにこの材質」
家のトイレットペーパーよりもちょっと硬い。こんなので拭いて大丈夫なのだろうかと不安になってしまう。
「あのね、ここはみんなが使う場所だからこんな感じだよ。大勢の人が使うのに高級なトイレットペーパーを使う訳にもいかないでしょ」
「つまりは余った金を給料にしたい校長先生がトイレットペーパー代をケチってるってこと?」
「身も蓋もないこと言うな」
陽菜に軽く頭を叩かれる。
それからしばらく経って教室に戻ると、先生の姿が見えた。年齢は四十代後半ぐらいのやや太り気味の眼鏡をかけたオジサン。何となくマニアックな印象を受ける。休日は秋葉原とかに居そう……
その後は何をすれば良いのか全くわからないから、とりあえず陽菜を頼ることにしました。陽菜の近くから片時も離れずに陽菜と同じように行動した。
そんなこんなで入学式も終わり、わたしは陽菜と一緒にお姉ちゃんの元を訪れていた。
「お姉ちゃん帰ろっ!」
「こらっ、学校じゃ月宮先生って呼びなさいって言ってるでしょ」
「ごめんなさい……」
お姉ちゃんに怒られた……しゅん。
「あっ、えっと……い、家ならいくらでも呼んで良いから。だから、その……泣かないで欲しいかな……?」
怒られてる筈なのに、慌てるお姉ちゃんが可愛いとか思ってしまうわたしでした。
結局、お姉ちゃんはお仕事があるらしく、わたしと陽菜は先に帰ることになった。
「夜、なんでアンタそんなにシスコンなわけ?」
「フッ、愚問だね。わたしの魂がお姉ちゃんの形をしてるから、お姉ちゃんを愛しちゃうのは仕方ないんだよ!」
「えぇっー……」
あっ、こらっ、引くな! どこもおかしくないでしょ!
「それに、お姉ちゃんと居ると何となく心地が良いんだ。温かくて、懐かしい感じがするの」
「……そっか」
なんか陽菜の視線がおかしく感じた。陽菜の瞳は確かにわたしを見ているんだけど、その瞳に写っているのはわたしじゃないような……
「陽菜?」
「えっ? あっ、なに?」
「どうしたの? 熱でもある?」
「いや、何でもないよ。ごめんね、心配させちゃって。じゃあまた明日ね」
「うん、また明日」
陽菜は家前で別れると、わたしは玄関を開ける。するとわたしのことが余程心配だったのか、すぐに凪がお出迎えに来た。
「初めての高校は如何でしたか」
「陽菜に引っ付いてることに必死だったし、よくわからないかな」
でも最後のお姉ちゃんはめちゃくちゃ可愛かった! うん、それだけは揺るぎもしない事実!
「昼食のご準備は出来てますので、お着替えを済ませましたらリビングまでいらしてください」
「うん、わかった。ありがとう」
入学式は午前で終わりだから、今日はもうすることがない。午後もこれと言ってすることもなく、凪に勉強を教わることにした。ゲームは禁止されてるので、暇潰しとなるものも読書以外は特にないのだ。お洒落とかしてみるのも良いんだけど、お姉ちゃんたちが「メイクはまだ早い」って言うのでお化粧とかもできないし、わたしの好きな服は大抵持ってるのでさすがに着厭きた。どれも子供っぽい服だし、たまには大人っぽい服とかも着てみたい。
昼食を食べ終えて夕方近くまで凪に勉強を教わると、お姉ちゃんが帰ってきた。
「おかえりー! ……なんで勇お兄ちゃんいるの?」
「なんだよ。ダメか?」
「ダメ」
即答だよ。お姉ちゃんと二人っきりになってあんなことやこんなことでラブコメ起こして結婚を狙おうって言ってもそうはいかないんだからね!
「お姉ちゃん、今日は和食だよ!」
「ホントっ!?」
まさかの和食メニューにお姉ちゃんは喜んだ。我が家では和食なんて滅多に出ない。和食というのは日本の伝統! 好きじゃないと言わせるものか!
「お嬢様、ご夕食の準備ができましたよ」
「はーい!」
わたしは凪の声を聞いてリビングへと向かって行った。
そして、残された二人は――――
「それがアイツの選んだ道だ。俺たちがどうこう言う問題じゃない」
「そうだよね。でも一言ぐらい言って欲しかったな。魔王の座を失ったら記憶を失うなんて……」
「混乱させられるよな。ルシフェルのヤツが仕掛けた呪いを解呪しても戻らなかったんだし。まっ、俺たちにできることはアイツが立派な大人になれるよう導いてやることだ」
乃愛は黙って頷き、リビングから呼んでくる夜の元へと歩き出した。
「(夜、いつか、思い出せると良いね)」
――――――――――――――――――――
【あとがき】
これまでご愛読ありがとうございました。わずか1ヶ月ぐらいのお付き合いでしたが、
『転生魔王様の異世界せいかつ! ~義妹と恋仲になるために転生したのに、義妹が姉で俺が妹でした~』はこれで完結になります。
別に打ち切りとかそういう訳ではなく、普通にこれで終わりです。
乃愛に魔王の座を譲って、夜は記憶を失って普通の女の子として生きていく――そんなストーリーにしたかっただけです。
また、他にも色々書いているので読んでくださると嬉しいです。
それではまた、何処かでお会いしましょう。
転生魔王様の異世界せいかつ! ~義妹と恋仲になるために転生したのに、義妹が姉で俺が妹でした~ 名月ふゆき @fukiyukinosita
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