ルシフェルの逮捕 その後のお話



 ルシフェルが警察に捕まった翌日。

 わたしは警察の方に言われて病院で精密検査することになった。お金は全て何処からか支払われるとのこと。

 まあわたしに取ってはそれぐらい端金なんだけど、折角ならと凪が『領収書』なるものを持って行くと警察の方に言っていた。

 そんなわけで今わたしは町にあるそこそこ大きな病院で診察の順番を待っている。


「注射やだぁ! お家帰るぅ!」

「他の人だっているんだから騒がないの!」


 注射を拒絶している小学一年生ぐらいの小さな女の子を言い聞かせようとする母親が視界に入ってくる。

 うんうん。その気持ちわたしもよくわかるよ。今でこそ馴れたものの、あの娘ぐらいの年齢だったときは体内に針をぶっ指すなんてことは考えられなかったからな。

 乃愛に抱っこされて頭を撫でられることで初めて我慢するということを覚えたものだ。魔王のときはダメージすら受けなかったから、痛みに対する耐性とか全くなかったし、初めて針を刺されたときは死ぬかと思った。


「夜も昔はあんな風だったのにね」

「今でも終わった後は泣いてますけどね」


 乃愛と凪が乃愛に抱っこされているわたしを撫でながら言ってくる。乃愛は今日平日だから学校じゃないのかと訊いて見たら「妹が襲われたっていうのに、学校行ってる暇なんてない!」なんて言ってた。ルシフェルには裁判で死刑を求刑するそうです。


「異常がないと助かるんだけど、異常があったらあのクズ野郎を死刑以上に重い刑を与えてやれるからね。頑張って証拠集められるようにしてね?」

「う、うん……」


 さすが魔王軍側の人間。

 言ってることが完全に悪者染みている。我が元・義妹ながら悪漢だ。

 それから診察を終えたわたしは診察室で凪たちと一緒に結果を聞いた。


「特に異常はありません。しかし……この数値は見たことがありませんね。アルビノの患者は初めてですが、こんなこともあり得るんですね……」


 アルビノというのが何なのかはわからないが、この白い髪のことを言っているのだろうか。しかし、見たことのない数値というのはおかしい。

 わたしは中身を除けば至って普通の女子小学生……





 ――――いや、魔法使ってるから全然普通じゃなかったねッ!!



「あの……なにか問題があるんですか?」


 魔法という概念が現実に存在することを知らない乃愛が、恐る恐る医者に聞いた。

 医者は首を振って問題はないことを伝えた上で、話を進めた。


「少しばかり数値が大きいなと思っただけです。普通の方は一から多くても十ぐらいなんですけど、彼女は三千を超えてます。まあ、この数値が何なのか判明してませんし、対処するにしても検査方法もありませんからね。今生きているなら問題ないでしょう」

「そうですか……」


 あー……うん。それ完全に魔力値だね。

 でも三千しかないとは、かなり少ない。魔王のときは十万とか余裕で超えていたんだがな。この世界は魔法が発達してないから、基礎の数値と成長率が低いのか?


「では診察は以上になります。また何か問題があればこちらへ来てください。それではお疲れ様でした」


 わたしたちが診察室から出ていくと、その医者が「次はあの娘の予防接種かぁ……」とため息混じりに呟いていた。その注射を受ける予定の女の子は現在進行形で泣き喚いており、その母親がお菓子で餌付けしようと頑張っていた。

 凪がお会計を終えるとわたしたちは家へと帰って昼食を食べた。昼食後は警察の人が事情聴取というのをするらしく、家へと訪問してくるんだとか。それまで特にすることがないわたしはリビングにある大きなテレビを付けて適当に流れているニュースを見る。


『小学生四年生の女子児童を悪魔のコスプレをしながら、刃物を持って襲ったとされる奇怪な事件。警察は住所不定・無職の自称悪魔を名乗るうル増得留シフェル容疑者の身柄を確保し、逮捕に至りました。詳しい経緯は現在調査中とのことです。続いてのニュースですが……』


 警察の人たちが勝手にルシフェルの名前を日本名義風に改変しててプルプルと震えながら声に出さない程度に笑った。乃愛はわたしが怖いことを思い出したと勘違いしてチャンネルを切り替えて頭を撫でてくれたが、凪はざまあ見ろという顔をしていた。


「夜を襲った悪い人は逮捕されたから、もう大丈夫だよ。安心してね」

「うん……」


 乃愛の癒しを受けていると、インターフォンが鳴り警察の方がリビングに入ってきた。

 リビングに入ってきた警察の方々は「こりゃスゲーな」と豪華な我が家に感銘を受けていた。


「どうぞこちらへお座りください」

「ど、どうも……」


 ぎこちない動作で椅子に座る二人の警察官。男女のペアだが、女性警官は仕事第一って感じで恋愛には疎そうだ。一方の男性警官は女性警官の方をチラチラと見ていてわかりやすい。

 わたしは作り上げたルシフェル犯罪ストーリーを警察官に諸々お話してあげた。話だけ聞くと警察官の人たちはあっさりと帰って行った。

 その後は部屋に戻って理科や社会の教科書を取り出して今日学校で習う予定だった範囲を予習した。


「夜、あそびに来たよ!」


 部屋の扉が勢い良く開いたから気になってそっちを見てみると、陽菜と勇者の姿があった。

 勇者……よく凪たちの許可が降りたね。


「まあ、とりあえず座ってよ」


 教科書を片付けて二人を座らせると、凪がアイスティーを持ってやって来た。


「陽菜さんもアイスティーでよろしかったですか?」

「はい。ありがとうございます」

「勇さんはこちらの腕によりを掛けて作った超絶激辛麻婆豆腐でよろしいですよね?」

「アッ、ハイ……」


 凪は見るだけで舌が火傷しそうなぐらい強烈な見た目の麻婆豆腐が入っているカップを勇者の前に置いた。

 あっ、うん。凪怒ってるね。勇者がわたしの部屋に入ってきてることにスゴく怒ってるね。


「では私はこちらで待機してますので」


 凪がわたしの斜め後ろに座って待機する。

 いったい何を待機しているのやら……


「とりあえずルシフェル逮捕のことだけは報告しておくよ。セシリアのお陰で魔力もかなり抜き取ったから数年は問題ないと思う。それまでに対策法を練っといて。以上! 陽菜あそぼっか!」

「そうだね」


 面倒なことは全て勇者に丸投げして、わたしは陽菜と共に遊ぶことにした。だけど、わたしの部屋には遊ぶものがトランプぐらいしかない。遊ぶものに悩んでいると、皇太郎が部屋にやって来たので『ぷにぷに』で遊ぶことにした。四人ゲームもできたから、仕方なく勇者も誘ってやった。


「勇者風情が、お嬢様の恩情に感謝しなさい。貴様ごとき物理的にも社会的にも一瞬で爆散できるんですから」

「この家怖ぇよ……」


 凪が勇者に何か吹き込んでいたが、凪の声は聞こえなかった。勇者の怯えている声は丸聞こえだった。

 一応ここは現代版魔王城だし、怖いのは仕方ない。トラップがないだけ優しいと思え。


「勇者、早くキャラクター選んで!」

「ご、ごめん!」

「お嬢様を負かせたらコロス」

「ヒィッ!」


 わたしの隣でぷにぷにをしていた勇者は終始鳥肌がスゴかった。具合でも悪いのだろうか?

 ちなみに勇者は皇太郎とぷにぷにやってた熟練者だと聞いていたのに、めっちゃ雑魚だった。初心者の陽菜の方がマトモだった。



「死ぬかと思った……」





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