皇太郎とゲームであそぶ!
あれから別荘への旅行も終わり、わたしたちは家へと帰ってきた。
ゴールデンウィークも残り半分だ。
「ただいま、鈴木」
「夜様、お帰りなさいませ」
家に帰ると鈴木がお出迎えしてきた。
とりあえず鈴木にはわたしの荷物を運ぶように命じて、わたしの部屋へと場所を移す。
そこで旅行中にあった出来事を説明した。
「なるほど、つまり勇者を殺せばよろしいのですね」
「ちがう」
どうしてわたしの身内はどいつもこいつもすぐにヒトを殺そうとするんだ……。って、前世が魔族だから当然か。
「鈴木のすることは凪の記憶を確認することだよ。わかった?」
「御意」
旅行中の凪の行動はいくつか疑問に思ったことがあった。
《隠蔽》や《潜伏》などの気配を完全に遮断する魔法を駆使してても気付くことができる洞察力。いくらなんでもおかしい。記憶が戻っている可能性も否定できない。
もし凪の記憶が戻っているなら話をする必要がある。だからヴァルター・鈴木に確認してもらう必要がある。
わたしでも良いのだが、わたしでは前世と姿が掛け離れ過ぎている。仮に凪の記憶が戻っていたとして、わたしが前世について訊いても「お嬢様、病院に参りましょう」とか言われてお仕舞いだ。
ここは前世とまったくと言って良いほど姿が変わっていないヴァルター・鈴木が一番良いのだ。
「じゃあ頼んだよ。……あっ、久しぶりにこの前のカレーパン食べたいってことも凪に伝えておいて」
「御意」
あそこのカレーパン、かなり美味しかったから気に入ってるんだよね。
「では私はこれで。結果が判明次第、お伝え致します」
ヴァルター・鈴木はわたしの部屋を出ていった。
荷物整理も全てヴァルター・鈴木が終わらせてしまったため、することが何もない。
「ひまだ……」
乃愛のところに……いや、乃愛は一人で荷物整理をするとか言ってたから今は忙しい筈だ。陽菜も同じく忙しいだろうし、勇者に会いに行こうとすれば凪が止める。
そうなると暇人と呼べるのは一人しか居ないか……。
「お兄ちゃんあそぼー」
「ああ、いいぞ。お兄ちゃんと遊ぼうか」
皇太郎とはたまにこうして遊んでいる。
兄妹のスキンシップ……という名のメンタルケアである。皇太郎とはたまに遊んであげないと、皇太郎はシスコンを拗らせてしまうのだ。
わたしだけが被害に遭うならまだしも乃愛まで巻き込むのだ。そんなことわたしが赦すわけがない。
「何して遊ぶの?」
わたしが皇太郎に訊くと、皇太郎は部屋にあったテレビの電源をつける。続けてテレビの横にある謎の機械の電源もつけた。
何をするんだろう? あの機械はいったいなに?
「ゲームして遊ぶか」
「げーむ?」
わたしが皇太郎に訊くと、皇太郎は「ゲーム、知らないの?」と訊いてきたから、そのまま黙って頷いた。
普段から学校での話相手は陽菜と未来ちゃんのみで、外界からの情報は完全に遮断。
家に帰ってきたらアイスティーを片手に、優雅に宿題を終わらせてから夕食を食べて、この世界にあるライトノベルという文化を嗜み、その後に入浴からのクロスワードパズルで就寝。わたしの生活にゲームという言葉は存在しない。
ライトノベルを嗜んでいるときに何度か目にしたことはあるが、『ゲーム』というのが何なのかはよくわからないのだ。
バトミントンの試合や美人教師が授業で使っている『ゲーム』とはおそらく意味が違うだろう。
複数の意味を持つ魔法の言葉、『ゲーム』それはいったいどういうものなのだろう?
「まあ……やってみればわかるさ」
「うん、わかった」
試しにやってみることにした。
わたしは皇太郎から両手で掴むことができる機械を受け取り、手に持った。
「夜の場合、パズル系ならやりやすいか。『ぷにぷに』にするか」
皇太郎が独り言を呟くと、手元にある機械を弄った。その機械を動かすとテレビの画面が動くようで、テレビの画面に大きな文字で『ぷにぷに』と表示されていた。
「ちょっとお兄ちゃんがやってみせるから、見ててくれ」
「うん!」
すると何やら始まったみたいで、画面の上の方からぷにぷにした赤いヤツと黄色いヤツがペアで落ちてきた。
皇太郎が機械を少し動かすと、ぷにぷにしたヤツが右に移動して落下した。一番下に着くと次のぷにぷにが降ってきて、それの順番を入れ換えたりして地面に落とす。
同じ色のぷにぷにが四つ合体すると消滅するようだ。
「じゃあ夜もちょっとやってみるか」
皇太郎に機械の持ち方を教えてもらい、操作方法を教えてもらった。
操作は簡単で、ぷにぷにの位置を動かして四つ揃えること。それが複数回連続で行われるとコンボというヤツになるらしい。
ぷにぷにが一番上までたどり着くと負けみたいだ。
「おっ、上手いじゃん。さすが夜だな!」
「えへへっー」
皇太郎に頭を撫でられる。
正直言ってそんなに悪い気分ではない。
「お兄ちゃんと対戦してみるか」
「うん!」
皇太郎が機械を少しばかり弄ると、勝負をする画面に切り替わった。わたしは右側にあるレーンだ。カウントダウンがゼロになると同時にぷにぷにが降り始めた。
「これはここ、これこっち」
速度は先ほど始めたばかりのわたしよりも手練れの皇太郎の方が速く、順調にコンボの準備をしていた。
「よし三コンボ!」
皇太郎のスコアが増える。
この勝負は制限時間が五分と決められていて、時間内に決着が着かない場合はスコアが高い方が勝利することになっているのだ。
「ここに赤置けばわたしだってああっ!?」
わたしがぷにぷにを置こうとした場所に上から謎のブロックが幾つか降ってきて、わたしのぷにぷにが置きたい場所に置けなくなってしまった。
なにこれ!? この透明なブロック邪魔!
「ズルい! こんなの聞いてない!」
「これがルールだからな。ほら、早く組まないと負けるぞ?」
「ぐぬぬっ……」
わたしが頑張ってぷにぷにを組もうとするのだが、あと少しというところで妨害されて上手く組めずにいた。
「~~~~~~~ッ!」
組もうとしているのに組めない苛立ちは積もりに積もって、わたしはゲームオーバーになってしまった。
「つまんない!」
こんなのどこが面白いと言うのだ。何もできないし、妨害ばかりだ。イライラするだけである。おまけに大人げない!
「な、ならテトゥリスにしてみるか?」
『テトゥリス』という新しいワードが出てきたので、一応話だけは聞いてやることにした。
『テトゥリス』は色んな形のブロックを配置して横一列になると消えるというシステムで、ぷにぷにとは違って妨害が入りにくいとのこと。一度に複数列、消すとスコアがより高くなるらしい。
「一回だけだからね」
皇太郎に頼まれて仕方なく、一度だけやってあげることにした。
やってみると、確かに妨害も下から生えてくるだけなので、どれだけ組んでも邪魔されないメリットがあった。それどころか皇太郎を追い込むような感じで次々と消して行ける勢いだった。
だが、ぷにぷに熟練者である皇太郎にはあと一歩届かず、スコアで負けてしまった。
「あぶなっ。ギリギリだったな……」
ぐっ、また負けた……でも次なら勝てるような気がする――――!
「……もういっかい!」
わたしと皇太郎のぷにぷに対戦は、凪がおやつの時間だと呼びに来るまで続いた。
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