第二回シャドウウルフ対策会議




 勇者がわたしと陽菜に手を出したと勘違いをしたと乃愛。その誤解は一日経った今も、解けていなかった。


「夜、陽菜ちゃん。お姉ちゃんがずっと一緒にいてあげるからね」


 わたしと陽菜を両腕でホールドする乃愛にわたしたちはただ苦笑いをすることしかできなかった。誤解を解こうとしても「苦しかったよね」とか言って凪と一緒に慰めてくる始末。勇者に相談しようにも、勇者と接触ができないのだ。

 それどころか「今の夜と陽菜ちゃんに男の人は苦しいだろうから」と言って皇太郎にすら接触を拒まれているのだ。

 こっちにはシャドウウルフの件で大切な話があるというのに……


「お姉ちゃん……」

「どうしたの?」

「メルトリリス連れてきて……わんちゃん触りたい……」


 わたしが嘘泣きをして乃愛にメルトリリスを連れて来るように言う。陽菜はわたしの真意に気づいたようで、わたしと同じように嘘泣きをしながらセシリアを連れて来るように言った。

 それを聞いた乃愛は「そうだね。わんちゃんをたくさんモフモフして忘れようね」と言ってあっさりと騙されて部屋を出ていった。


「陽菜、どうするよ。このままじゃ勇者殺害ルートまっしぐらだよ」

「作戦は無くもないけど、とりあえずセシリアが来てから話をしましょう」

「わかった」


 陽菜に作戦があるというのなら、それに乗ってあげよう。……あっ、セシリア来るんだったらシャドウウルフの件も報告しておこう。そろそろ対策の一つや二つ、考えてくれているだろう。

 それからすぐに乃愛がセシリアとメルトリリスを連れて部屋に戻ってきた。

 わたしと陽菜はそれぞれに抱きつく演技をして乃愛に「少し整理したいから二人にさせて」と上目遣いでお願いして部屋から追い出した。

 乃愛の場合、部屋の外から盗み聞きしている場合があるので部屋に遮音結界を展開して音が漏れないようにする。

 未来ちゃんは美人教師が「二人は今すごく傷ついてるから、一緒に居ようね」と言って動けなくなっている。実際はわたしたちのことよりも未来ちゃんが勇者ロリコンに犯されないように立ち回っているだけなのだが。

 そんなわけで未来ちゃんは《テレパシー》を使って会議に参加することになっている。勇者はアレ以降、《テレパシー》に反応がない。生存は確認できているのだが、テレパシーに反応がないことを考えると気絶させられているのだろう。


「よし、ようやく話ができるね」

『まったく、人騒がせなものよな』


 未来ちゃんには事の顛末を全て伝えてあるので、概ねの状況は把握している。


「勇者のロリコン疑惑も問題だけど、まずはこっちから見て」


 わたしは魔石をセシリアと陽菜に見せる。二人して驚いた顔でわたしを見てきた。


「五体ってずいぶん適当じゃない?」

「だよね」


 陽菜の意見にわたしも頷いた。

 前回はたった一体でしか来なかったのに対して、今回は五体で責めてきた。当然だが、数が多ければ多いほど、人目に付きやすくなる。群れで行動するのはあまり良くない。


「では魔王はシャドウウルフの出没は人為的な召喚等ではなく、自然発生である……と言いたいのですか?」

「あり得なくはない話だけど、それは限りなくゼロに等しいと思う」


 セシリアが何故かと訊いてきたので、わたしはそれに順を追って話した。

 まず、シャドウウルフは元々単体で行動する習性があまり無い。現れるときはだいたい二、三体で現れる。

 加えて、シャドウウルフは魔石を核としてない。一般的な動物たちと同じように骨と肉を持っている。

 仮に魔石が何らかの形でこの世界に出現して偶発的に砕けたとしても、それを核にシャドウウルフが現れることはあり得ないのだ。


「それこそ、人為的に手が加えられない限りね」

「それって私たちの世界からこっちに来ている人が他にもいるってことだよね?」

「うん……」


 陽菜の言う通りだ。

 魔法が使えるのは向こうの世界から地球へとやって来た者たちに限定される。


『しかしそうなると爆発に捲き込まれた魔王軍の誰かってことになるんじゃが……』

「そうだね……」


 わたしたちの中に裏切り者が居ないということを前提に考えるなら、それが妥当だ。もちろん、裏切り者なんている訳がない。

 もし仮に身近に裏切り者が居たとしたら、何か行動を起こした時に誰かしらが気付くはずだ。未来ちゃん以外は近所に住んでるわけだし。


「つまり犯人は未来ちゃん……?」

『違うわいっ!』

「ダヨネー」


 例え魔法が一番上手く扱えて、一番怪しい行動をすることができたとしても未来ちゃんが犯人なわけないよねー……。


「犯人が誰なのかは置いておくにしても、何故この平穏な地球で魔物を展開するのですか?」


 セシリアが重要な問題点を聞いた。

 問題点はそこなのだ。少なくとも、犯人だってこの世界の武器がどれほど恐ろしいものなのかは知っている筈だ。戦争を目的としてもすぐに死ぬことぐらい十分承知な筈だ。


「一つだけ言えることがある。真の狙いが何かはわからないけど、間違えなくわたしを狙っているということ……」

「え?」


 わたしは三人にシャドウウルフが勇者に攻撃せず、わたしの方に攻撃を仕掛けてきたことを話した。


「夜を殺すことが目的ってこと?」

「わからない。それが本来の目的なのか、それともわたしを殺すことは何らかの布石なのか……」

『つまり、夜たんがヤバいということじゃな?』


 未来ちゃんの語彙力低すぎるだろ。それでも自称大魔法使い様なのか?


「とりあえず状況は把握しました。私も対策を練っておきます」

「ありがとう。じゃあそろそろロリコン疑惑対策会議に移ろうか」


 セシリアにお礼を告げて、本日の本題へと入る。シャドウウルフどうこうの前に勇者が死にそうなのだ。貴重な戦力は失うわけにいかない。早急に救助する必要がある。


「陽菜、さっき作戦があるって言ってたよね?」

「ま、まあ……あるにはあるんだけど……」

「?」


 陽菜の歯切れが不自然に悪くなった。

 どんな作戦だろうと勇者は助けるべきだから他の作戦が思い付かない以上、陽菜の作戦に従うしかないのだ。


「乃愛たちを殺すこと以外なら何でも良いから、言ってくれない?」


 もし乃愛を殺すとか言うなら、そのときはわかってるよなぁ? てめえの身体を捻って腸を腹から抉り出してやるからなぁ?


「よ、夜、その顔怖い……」


 それからわたしが陽菜に問いただして無理やり吐かせてみると、陽菜の作戦は人事的に問題がある驚愕の作戦だった。

 まず勇者には悪いが、とりあえずわたしに欲情してヤっちまったということにして、陽菜はただ怯えていただけだということを乃愛に伝えて陽菜の誤解を解く。

 その後、わたしが勇者のことを顔を紅く染めながら乃愛に軽く気になっていると伝える。

 するとわたしが勇者と結婚するように乃愛が根回しする。同時に勇者は無事生き残ることができるようになる。めでたしめでたし。

 以上が陽菜の作戦だった。


「いや、何もめでたくないんだけど?」

「あははっ……充分めでたいよ」


 どこがだよ!?

 これ完全にわたしがホモじゃん! 男なんて好きになれないぞ! 

 しかも寄りによって相手が勇者だぁ!? 女っぽい男ならギリギリアウトよりのセーフかもしれないが、これは完全にアウトだろ!


「夜は女の子だからセーフだよ」

「どこがセーフなのッ!?」


 もう少しマトモな案を考え直せッ!!



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