封印されし魔剣 魔王・ザ・エクスカリバー(汚)
勇者たちと一緒に入浴した後。
わたしは、元々自分が所持していた魔剣が勇者のエクスカリバーに遠く及ばない存在であることを思い知らされてちょっと凹んでいた。
あとよくわからないけど、勇者のエクスカリバーを見るのがスゴく恥ずかしかった。逆に陽菜は皇太郎のエクスカリバーを見て顔を真っ赤にしていた。
身内以外のエクスカリバーを見るのはやはり恥ずかしいのだろう。……身内のエクスカリバーと他人のエクスカリバーについて、違いはよくわからないけど。
「夜の考えはよくわかったから、これ以上卑猥な言葉を連発しないで……」
「エクスカリバーしか言ってないんだけど」
「それ本当に大事な聖剣だから! 私の相棒だからッ!」
相棒? ……ああ、前世で使用していた
「だからなんでそう卑猥な方に持っていこうとするの!」
「え? 違うの?」
「ちがうよッ!?」
ウインナーで暗黒騎士のヴァルター・鈴木たちと渡り合ってるのかと思って、戦慄しちゃったじゃん。
それならそうと早く言ってよ……。
「そういえば夜ってそういうこと、したことあるの?」
陽菜がわたしの耳元で、とても小さな声で訊いてきた。訊いてる話が話なので、陽菜も若干恥ずかしそうだった。
「ないよ」
だってやり方知らないし。別に魔剣も所持してないから魔剣からくるムラムラもないし、そもそもしよう思うことがなかった。
「陽菜はあるの?」
「わ、私ッ!?」
わたしに訊かれて動揺した陽菜は視線を何処かに飛ばしながら「ウン、ナイヨ」と片言で答えていた。
あー、うん……なんとなくわかったからなにも言わなくていいよ。
わたしは陽菜の肩に手をポンッと乗せて慰めてあげる。
「いや、違うから。今世ではやってないから!」
「いいよ、うん。わかってる。人間だもん、仕方ないよね」
「ゼッタイわかってないでしょッ!!!」
陽菜を生暖かい目で見ていると、自室の前に着いたのでわたしは足を止めた。
「じゃあわたしたちここだから、また明日」
「あっ! ちょっと逃げるなッ!」
「おやすみ~」
わたしは皇太郎と部屋に入ると、さっさと扉を閉めた。扉の外からは「本当にやってないのに……」とか泣き言が聞こえてきた。
皇太郎と勇者は先程から別の話で盛り上がっていたため、わたしたちの会話の九割は聞こえてない筈だ。でも何故か皇太郎から妙に生暖かい視線を感じる。
あれは「妹も大人になったんだな……」みたいなことを考えている顔だ。聞こえていた一割の会話から、わたしたちが何について話していたのかを察したということだろう。
シスコン気持ち悪っ……。
「…………」
「眠そうだな。今日はもう寝るか」
「うん……」
目を軽く擦っていると皇太郎がわたしの頭を撫でながら言ってきた。たまにマトモな面を見せる兄はいったい何なのだろうか? いつもと違いすぎて「誰こいつ……?」みたいになるんだけど。
皇太郎はわたしを抱き抱えるとベッドまで運んだ。消灯するとわたしは昼間の疲れからか、すぐに眠りについた。
「……写真撮っておくか」
◆
――――翌朝。
ぐっすりと眠ったわたしは凪と乃愛の部屋へと向かい、そこで着替えを済ませた。さすがに
それは陽菜も同じ考えだったようで、陽菜も凪と乃愛の部屋に来ていた。
「ひ、陽菜……昨日は眠れた?」
「まあ、うん……」
わたしが陽菜に訊くと陽菜は微妙な表情をしながら答えた。大方、勇者が寝る間際にちょっかいでも出していたのだろう。寝たいのに眠れないという状態が続いていたと思われる。
その証拠に陽菜からは不機嫌オーラが感じられる。あまり刺激をしないように気をつけて行動しよう……。
「お嬢様、朝食の準備ができましたのでリビングでお待ちしてます」
「わかった! 今行くっ!」
わたしは陽菜の機嫌に気をつけながらリビングに向かった。リビングに着くと既に朝食をムシャムシャと貪っているメルトリリスとセシリアの姿があった。
わたしはセシリアの元へと足を運び、ちょんちょんと軽くつつくと、セシリアはこっちを向いた。
「アレ、どうすればいい?」
わたしは、陽菜からは見えないように指をさしてセシリアに解決法を訊ねた。セシリアはまた面倒な状態になったなと言わんばかりの瞳でこっちを見てきた。
そしてそのまま「がんばれ」と、わたしに軽く告げてドッグフードを貪り始めた。
いや、何が「がんばれ」だよ!? あんなの無理だろ! わたしよりも長い時間を一緒に過ごしてきたんだろ!? ならやってくれるよな!?
陽菜が不機嫌になることは前にも何度かあったが、どれも二日か三日置いておけば元に戻った。だが、今回は放置というわけにもいかない。
あと四日はここで一緒に暮らさなければならないのだ。折角の旅行で放置というのは味気無い。何とかして機嫌を戻して欲しいのだ。
「お主らおはようなの……じゃッ!?」
不機嫌オーラを放つ陽菜を見て未来ちゃんがギョッとしていた。一緒に居た美人教師も察したようで、陽菜の頭を撫でながら事情を聞き始めた。
さすがは小学生の心を操るプロ……! 今までコイツ何のためにいるんだと思っていたが、まさかこんなところで活躍しようとは!
さて、陽菜は美人教師に任せて朝食でも食べるか。今日の朝食は……?
「ごはん……?」
これはまた珍しい。
朝といえばパンしか出てこない我が家の筈なのに、ごはんが出てくるなんて……
「お客様のご希望で、朝食といえばごはんと目玉焼きが良いとのことでしたので。お嬢様は別の物に致しますか?」
お客様……? 朝食を指定してくるぐらい図々しいヤツといえば勇者か? それとも未来ちゃんか? まあ、どちらでもいいか。
「いや、いいよ。折角だし、このままで」
「わかりました」
それから朝食を食べ終えて少しばかり時間が経つと、わたしたちは今日予定をしていた下町観光へと赴くため凪の運転する車へと乗り込んだ。
一応山奥にある別荘なので、下町を出歩くためには車での移動が必要になる。
だから車に乗ってるんだけど……
「なんで?」
何故か勇者の膝上に座らされてる。右横には皇太郎の姿があって少しばかり羨ましそうにこっちを見ていた。一方で乃愛と陽菜は向かい側に座っているため、抱っこから上手く逃げた。
何が嬉しくて勇者に抱っこされねばならないんだ。こっちとら偉大なる禁獄の魔王様だぞ。最近まったく使ってないから『禁獄』なんて言葉は忘れかけてたけど。
「陽菜の代わりに夜ちゃんから妹成分を吸収してるんだよ。夜ちゃんも俺にとっては妹同然だし」
…………なんかムカつく。
「グハッ!?」
勇者の腹に肘で一撃を入れてやる。
このシスコン野郎め。気持ち悪いぞ。
「夜、到着するまでトランプでもしない?」
「うん、やる!」
わたしは正面に座っていた乃愛の提案に乗った。この車はその辺に走っている普通の車じゃない。黒くて長いお金持ち感のあるあの車……を半分ぐらいの長さにした車だ。
座席は中央にあるテーブルを囲うようになっていて、テーブルの中央にはトランプができるように少し凹んだ部分がある。
「ワシも混ぜて貰おうかの」
「陽菜ちゃん、先生と一緒にやろうか」
未来ちゃんが参加すると宣言すると、美人教師に言われて陽菜も参加することになった。皇太郎と勇者は見てるだけで良いと言っていた。
勇者に関しては参加したらわたしの手札が全部見えるから、参加すること自体許されないけど。
「ババ抜きでいいよね?」
「うん、いいよ」
乃愛がトランプのデッキをシャッフルして参加者に配り始めた。
それから下町に着くまでわたしたちはトランプで楽しんだ。
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