別荘でバトミントン、勇者と魔王に決着を!
未来ちゃんと美人教師がカレーを飲み終えてから少し時間が経った頃。
わたしと陽菜はジャージに着替えて庭に出ていた。
「ぼこぼこにしてやんぜ」
わたしはラケットを振り回しながらコートに立って殺気を放つ。
「ホントにバトミントンやるんだよね!?」
「あっ、火魔法は禁止ね。燃えるとヤバいから」
火事になったら大変だし、山火事とか大問題だ。
「バトミントンは魔法禁止だよ!」
「そんなことはルールブックに書いてないんだけど……」
「そりゃこの世界にはないからね」
魔法を使ってバトミントンをやりたいというわたしの要望を陽菜はあっさりと切り落とした。
ちぇっー……折角なら魔法アリでやってみたかった。
「じゃあいくよー……それ!」
わたしはサーブを打って、陽菜のいるコートにシャトルを飛ばす。その光景を端から見ている未来ちゃんは美人教師と一緒にお喋りをしていた。
その一方で、わたしの横では皇太郎と勇者が割かしガチでバトミントンをしていた。
それもドロップやロブ、ヘアピンといったネット手前で落とす技ばかりをやっている。
「なんでそうなるの……」
普通ならわたしと陽菜が今やっているドライブっていうキャッチボールみたいなヤツになる筈なんだが……まあいいや。
「そろそろウォーミングアップも終わりにしよっか」
「えっ?」
わたしは陽菜にシャトルを返すと、ネット間際でちまちまやっているシスコン共のシャトルを未来ちゃんの方に飛ばした。
「危ないのッ!?」
きちんとキャッチしてくれる辺り、さすがは未来ちゃんだ。
シャトルを遠くに飛ばされたシスコン共も交えてダブルスをすることにした。こういう時じゃないとダブルスはできないから、またいつもと違って楽しいと思う。
「かわいい妹の頼みだし、ここはやってやるか」
「夜ちゃんが構って欲しいなら仕方ないな」
皇太郎と勇者がニヨニヨとした気持ち悪い笑みをこちらに向けながら言ってくる。
まるでわたしが甘えん坊な妹みたいだと言われてしまって少しばかり恥ずかしい。
わたしは後ろにヒトの気配を感じて近くに落ちてきたシャトルをスルーした。
「お姉ちゃん」
「夜にお願いされたら、やるしかないよね。それに、私だけ放置なんて随分じゃない?」
わたしがスルーしたシャトルを後ろからやってきた乃愛が向こう側に打ち返す。
二対三になってしまった。このままでは不公平だし、ここは向こう側にも一人援軍を頼まないと……おっ、あそこで退屈そうな女児っぽいジジイがいるじゃん。
「未来ちゃん、こっちおいでよ!」
「それ二対四になっちゃうよ!? 未来ちゃんはこっち!」
未来ちゃんはめんどくさいと言わんばかりの表情をしていたが、美人教師に行ってきなさいという謎の威圧を受けて渋々とこっちにやって来た。
偶然的だが、勇者チームと魔王軍に上手く別れた。……皇太郎は関係ないだろうけど、前世のわたしと顔が似ているから魔王軍ってことにしておく。
魔法を使いたかったけど、乃愛と皇太郎が居るし、何より美人教師がわたしたちのことを見張っていたため使うことが叶わなかった。
結果は当然、魔王軍の勝利だ。素人の陽菜と未来ちゃんが完全に足を引っ張っていた。
それにしても勇者と皇太郎はなかなか上手だった。何処かでやったことがあるのだろうか?
「これはチームバランスが悪い!」
「お兄ちゃんお姉ちゃん、負け犬の遠吠えが心地良いね」
「ああ、全くだな!」
「ちょっと夜……兄さんまで……」
わたしと皇太郎が負け犬の遠吠えと言って煽っていると勇者兄妹が入れ替えを望んできた。
仕方なく応じてやると、なぜかわたしは未来ちゃんと交換されてわたし、勇者、陽菜チームにされた。
「なんでッ!?」
「だって乃愛さんと夜の組み合わせってズルじゃん」
「うぐっ」
ひ、日頃の成果なんだから別に良いじゃないかッ!
「まさかこんなことで勇者と共闘する日が来ようとは……」
「たしかにな。あのときじゃ考えられなかった」
「それはこっちのセリフ」
勇者と魔王の力でフルボッコにして差し上げた。元々勇者がかなり強かった。先程の試合を見るに、単に陽菜と未来ちゃんが足を引っ張っているだけのようだ。特に未来ちゃんの足の引っ張り具合はかなりエグかった。もはや才能じゃんとか思うレベルで酷かった。
さすがの乃愛も苦笑してたな。
ある程度バトミントンで遊ぶと、凪がもうすぐ夕食の準備ができるからと呼びに来たので、わたしたちは切り上げることにした。
「あ~、お風呂気持ちいい~……」
このまま寝てしまいたいと思わずにはいられないぐらいの心地良さだ。
凪に先にお風呂へ入ってくるように言われたので、わたしは乃愛と陽菜と未来ちゃん、それから美人教師と一緒に入浴中。
「なんで先生も入るんですか」
「先生だけ仲間外れみたいで嫌じゃない。それとも夜ちゃんは先生と一緒に入るのが嫌だった?」
美人教師がわたしに抱きつきながら聞いてくる。これだけ密着されても、ただ邪魔くさいとしか思えなくなってしまった自分がちょっと嫌になった。
元のままだったら少しぐらい照れたりしたかもしれないのに、今は完全に無反応だ……まあ反応するようなブツも、もう持ってないのだが。
「先生、暑苦しい!」
わたしは先生を突き放して乃愛の方に逃げて乃愛の影に隠れる。乃愛は突然わたしが近寄ってきて嬉しかったのか、わたしの頭を撫でていた。
「乃愛様、お嬢様。夕食の準備が整いましたので、リビングでお待ちしてます」
「わかったよ。すぐ行くから」
凪が脱衣場から声を掛けてきた。すると、それに合わせて乃愛が返事を返す。
こういうときはだいたい乃愛が凪に返事を返している。いつからかはわからないけど、気づいたらそうなってた。
わたしたちはお風呂から出て脱衣場に移動する。急いで身体を拭いたら部屋着に着替えてドライヤーで軽く髪を乾かしてリビングに向かった。
「あっ、カレーだ」
昼間のアレで何となく予想はしていたが、やはりカレーだった。未来ちゃんは「またカレーなの?」みたいな顔をしてたが、美人教師は上手く顔を見繕って誤魔化していた。
わたしと陽菜と未来ちゃんは甘口ですぐに食べ終えたのだが、他のみんなは辛口のようだった。
皇太郎と勇者は男らしく平然と食べ、乃愛は「ちょっと辛いかも」と言っていたが、難なく完食した。美人教師は額に汗が出てた。昼間の件もあるし、本人は恐らく辛いのが苦手だったのだろう。
夕食を食べ終えると、わたしたちはトランプで遊んで時間を潰した。
「少し冷えちゃったし、もう一回お風呂入って来ようかな?」
「そうだね」
「じゃあお兄ちゃんたちと一緒に入るか」
もう一度お風呂に入ると言ったわたしと陽菜は、突如として頭のおかしなことを宣った皇太郎とそれに頷いている勇者に目掛けて「何を言ってるんだコイツ」という視線を送った。
「そうと決まれば早速行くか!」
「ちょっ!? 離してよ、このロリコン!」
皇太郎がわたしを、勇者が陽菜を抱きあげて脱衣場へと歩き始めた。
この変態ドスケベシスコン&ロリコン野郎が! 離せよぉ!
「ロリコン? シスコン? ドスケベ変態? 大いに結構!」
「俺たちは愛する妹のためならば、どんなことだってするという覚悟ができているッ! これが本物の『シス魂』というヤツだ!」
気持ち悪い男共が何かほざいている。
わたしと陽菜は、その破格のキモさに顔を真っ青に染めた。
わたし、城に勇者が攻め来んできた時以上に大ピンチなのかもしれない。
「どうしよう……」
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