守られる者と守る者

 都立第六商業高等学校とその生徒と教師や関係者を含めこの世界に転移してきて早三日。

 生徒の全てと教師陣の大人達が全員転移し終わっていた。

 今この学校の校舎の屋上は物見櫓宜しく常に何人かの監視者が置かれ、周囲へと警戒の目を光らせ続けていた。

 ここは森の中、それも物語に語られるようなファンタジーな生き物たちが住まう森。

 常に監視の目を光らせ、脅威となる存在が近づいてこないかと警戒を続けている。

 校舎一階各所には戦闘技能を転移時に与えられた者達が控え、何か異常があった場合即座に割り当てられた場所へと急行出来るように控えていた。

 そして二階から上の教室は休息をする為の場所。

 そこには校舎内に備蓄されていた、緊急事態に備えて置かれていた災害時用の備品が集められ寝床として使用されている。

 男女に分けられた寝所は慣れない環境の中でストレスを抱え込んだ戦闘技能を与えられなかった人々で鬱々とした雰囲気を醸し出している。

 体育館は生産職達の縄張りと化している。

 森から取れる豊富な恵みを利用して、生産技能を与えられた人々が生産をし続けていた。

 森というものによって周囲を囲まれ、森の中にポッカリと空いた空間に佇み、物理的な意味に於いても閉ざされてしまっていた。

 そんな中にあって意気揚々としている者もいた。

 その様は特に能力を持たない生徒達からすれば暗鬱とした瞳で眺められる輝かしい存在であった。

 周囲をつぶさに観察出来る眼。

 強力な戦闘能力を兼ね備える戦闘技能者。

 それを支える生産職。

 持つ者と持たざる者の間には、たった三日の間に決して渡る事が出来ない程の溝を生み出してしまっていた。

 守る者と守られる者。

 さらに森に囚われてしまい、精神に負荷を掛ける今の環境。

 役割を自ら見いだした者と、役割を自ら見いだせず守られ与えられた仕事を淡々と熟すだけの存在。

 人という者は社会性のある動物だ。

 だが、その社会性というものは、必ずしも自我を有する様になった動物である人間という存在の精神に、良い影響を与えるばかりでは無い。

 もし、自我を持たず、若しくは自己の利益や精神を優先する在り方で無かったなら、内側から発生する問題は起こりえないか起こりづらかったのだろう。

 だが、彼らの多くは高校生だ。

 十五歳から十八歳程の生徒達。森に囲まれる恐怖。生死が身近に見える状況。

 力のある存在は力を使う。その様は本人に自覚無くとも、力が無い存在からしてみれば、その力を誇示しているように見えてしまう物だ。

 さらに良くない事が起きている。

 この学校の先生は正しく先生としてあった。それ故に生徒を守る為に行動してしまった。

 力が無ければ力を得れば良いとして、戦闘技能を保有している生徒と同伴して森へと分け入ったのだ。

 だが、それは結果として失敗だった。

 先生は死んだ。生徒は生き残った。

 結果は惨憺たるものだった。

 これにより戦闘技能を与えられなかった生徒の心は音が鳴り折れる。

 自分も頑張れば等と思えなくなった。

 これが、守られる側と守る側が明確に分かれた瞬間。

 能力のあるものとそうで無いものの溝は深まっていく。

 当人達でさえ、そうと知らない内にだ。

 守られる事が当たり前、守る事が当たり前。

 御多感なお年頃の彼らは、環境によりその精神性を変化させていった。

 善良であるものはより善良に。そうで無いものは日和見を決め込み。悪辣であるものはより悪辣へとなっていった。

 大人は死に子供が生き残る。教師が何とかしようと奮起した結果はなんとももはやといった所だろうか。

 

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