燻る樹林

彼らはそこで生きている

転移狂い

 いつも通りの教室の風景、誰も居ない教室、窓枠の向こうに広がるのは木漏れ日指す森。

 その風景を眺める地主じぬし正勇せいゆうにとってその光景は初めて見る物で、非日常的な感覚を与える物だった。

 それ故に、窓枠をカンバスにそこから見える風景がまるで絵画の如き印象を持ってして認識していた。

 だが、次の瞬間に聞こえてきた音で、そこに見えている物が絵では無く、現実にそこに在る物として認識出来た。

 鳥の声が鳴り響く。

 窓を閉め切っている事でやや遠くに聞こえる鳥の声であったが、日本の東京郊外で聞くような鳥の鳴き声では無く、ジャングルの奥地で聞こえる、それこそ極彩色豊かな鳥類が鳴くようなけたたましい音だった。

 そして、彼地主じぬし正勇せいゆうは実感する。自分が異世界へと学校毎転移してきたのだと。


 まじか、まじかまじだまじだ!

 お、落ち着けとりあえずステータスオープン!


ステータス

HP3,400/3,400

MP3,400/3,400

SP3,400/3,400

攻撃力340

魔攻撃力283

防御力226

魔防御力200


レース

アールビーテリウム


スキル

言語理解

インベントリ

アマテラスの英雄


経験値

0/11,249


 目の前に広がる先ほど見たステータスが表示される。

 視線を動かす毎に追従する目の前の文字と数字の羅列。言葉にすればたったそれだけの物を見て正勇は顔をニンマリと歪ませていく。

「ハハっ」

 と始まり、哄笑を響き渡らせる。

 先ほどから聞こえる鳥の鳴き声にも劣らない声量で笑い上げる。


 キターーーー!

 異世界転移!

 しかも与えられたスキルは良くあるスキルにアマテラスの英雄!

 すごくない訳が無い。

 よし、アマテラスの英雄の効果は?


 意識を自身のスキルに向けると、アマテラスの英雄の効果が表示された。


 戦闘系クラスの獲得難易度低下。

 戦闘系クラスの能力向上。

 戦闘系クラスを複数獲得可能。

 戦闘系スキルの獲得難易度低下。

 戦闘系スキルの能力向上。


 ほう、戦闘に特化した補助スキルと言った所か。

 生産チートも良いけど、やっぱり基本は戦闘チートだよな。

 しかも、成長に関するチートだ。

 いいね~。

 ステータスは物理よりだ。他と比較しないと何とも言えないが、最初からHP等の数値が四桁っていうのがいいね。

 スキル欄が寂しい事に一つしか無いけれども、まずはこの身体の事を試してみよう。


 そう考え地主じぬし正勇せいゆうは外へと向かう為に下駄箱へと向かう。

 この高校に入学してからの習慣で何も意識しないままに普段通りに移動をしていく。

 そして、歩きながらアールビーテリウムや言語理解とインベントリの詳細を確認していく。


 アールビーテリウム

 異世界転移を経験した存在が至る種族。

 異界渡りの際、膨大なエネルギーに晒される事により肉体が変質している。


 言語理解

 様々な世界の言語を理解する事が出来る。


 インベントリ

 様々なアイテムを収納する事が出来る。

 生物を収納する事は出来ない。

 収納した物は時間が停止する。

 収納する為には使用者の手の届く範囲内に収納物が存在している必要がある。

 収納可能量

 10m×10m×10m=1,000㎥


 そんな異世界転移でおなじみのスキルや余り見た事無い種族の詳細を確認しながらウキウキ気分で校内を移動していき、玄関口に着くと上履きから体育の授業用のスニーカーに履き替え外に出る。

 左手に教室の校舎、右手に体育館を配した先に広がるのは、今までではあり得なかった深い森が広がる風景。

 鼻腔を擽る森の匂いに、改めて今まで居た場所とは違うと言う事をハッキリと認識する地主じぬし正勇せいゆうだった。

 特に草花の知識が無い彼にとって、目の前に存在する木々が、下草が元いた世界とどう違うのかは解らなかったが、見上げるその木の高さにここは元の世界では無いと確信を得ていた。

 視線を上げ真上を臨むも確度の関係だろうか、木々の天辺が望めない程の高さを誇る木々達がそこには存在していたのだ。

 胸を高らせながらも、落ち着けと自分に言い聞かせるように一呼吸を置き、身体の具合を確かめ始めるのだった。

 剣道を習っていた地主じぬし正勇せいゆうにとって最もなれた攻撃的な動きを再現する。


 あっ、体育館から竹刀を持ってくれば良かったか。

 でも、今から取りに行くのは面倒だな。


 手には何も持たずに青眼の構えを取り振り上げ振り下ろす。

 振り下げるときにすり足で前進、振り上げるときに元の位置に戻る。

 これを幾度か繰り返していると自身のステータスの補正を理解していくと同時に、新たなクラスを獲得する。

 そこに何かしらのアナウンスが行われたと言う事は無いのだが、感覚的な所でそれを理解した地主じぬし正勇せいゆうはステータスを確認する。


ステータス

HP3,400/3,400

MP3,400/3,400

SP3,400/3,400

攻撃力340

魔攻撃力283

防御力226

魔防御力200


レース

アールビーテリウム


クラス

剣道家


スキル

言語理解

インベントリ

五行の構え

介者剣法

アマテラスの英雄


経験値

0/11,249


 何かの感覚を掴み、明らかに動きが変わった地主じぬし正勇せいゆうが動きを止めてステータスを確認してみると、そこには新しいクラスとスキルが表記されていた。

 元々、元居た世界で習っていた事もあるのだろう。

 転移してきたこの世界で軽く素振りをするだけで新しいクラスとそれに付随するであろうスキルを獲得したのだ。

 さらにクラスとスキルの詳細を確認する次のようになる。


 剣道家

 撃剣時攻撃力に1%の補正


 五行の構え

 各構えからの動作に攻撃力と防御力に1%の補正


 介者剣法

 鎧兜を装備時防御力と魔防御力に1%の補正

 鎧兜を装備した対象への攻撃時、攻撃力に1%の補正


 獲得したばかりだからか?

 なんか性能ひっくいな~。

 ん~、とはいえずいぶんと簡単に獲得出来たな。

 元から練習してからだろうけど…。

 こんな事ならもっといろんな武術を習っておけば良かった。


 そんな事を思いながら再び身体を動かし始める。

 ステータスを得る前であれば、肉体が壊れかねない速さで、空想の竹刀を振る様は人間の範疇を超えた素早さを実現していた。

 ステータスには速さに関する項目は一切存在していない。

 だけれども何故速さを上げる事が出来たのか?

 それは防御力に秘密がある。

 つまり、本来であれば今地主じぬし正勇せいゆうが動いている速さで動けば筋肉が壊れてしまうのだが、その自傷行為とも取られる無理な速さでの行動を、ステータスの防御力が押さえ込んでいるのだ。

 もちろん、防御力以上のダメージを得るような動きをすればHPが減少する事になるのだが、地主じぬし正勇せいゆうはそれを感覚的に理解し、どの程度まで無理出来るのかを理解し得ていた。

 また、今回の行動によってSP…スタミナポイントの減少は一切起こっていない。

 これは、スキル使用時のSP消費が一切無かったからである。

 地主じぬし正勇せいゆうは初めて感じるステータスの恩恵を不可思議な感覚として理解しながらも、なぜだか解らぬがそれを理解し身体操作が出来ているこの状況がクラスやスキルによるものと考え、そんなものだろうと結論付けをし身体を動かしている。

 肉体的に無理な行動をステータスによって道理にする事で実現する、そんな素振りを幾分か行い満足したのか、地主じぬし正勇せいゆうは目の前に向かう森へと不用心に歩き出した。

 歩き出した彼の顔は闘争心により歪まされていた。

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