08.生意気ボディガード
「あら」
食堂に向かおうとしたところで、エンジェラ様がなにかに気づいたように声を上げた。というか私にも見えている、ラハルトさんと同じ格好した熊みたいに大きなおじさんのことだろう。薄めの茶髪をざっくり刈り上げてるから、余計に熊っぽい。軽装の男の子連れてるね。
「総隊長」
「おお、これはエンジェラ様……おや」
振り返った顔も熊っぽいと言うか、濃いめの緑のつぶらな瞳がちょっとかわいい。眉太いけど……あ、思い出した。『のはける』で見たことがあるキャラだ。
聖騎士部隊の総隊長さんで、最後まで王国側についてたど真面目な人。確か高位貴族の跡継ぎさんだった。……名前何だっけ?
「そちらの方が新しい聖女様ですね」
「ええ、キャルン様ですわ」
「キャルン・セデッカと申します。はじめまして」
「聖女様をお守りする聖騎士部隊、その総隊長を務めておりますガルデス・ウーラと申します。聖女キャルン様に置かれましてはどうぞ、お見知りおきを」
実際のところは初対面なわけで、ちゃんと挨拶を交わしたところで名前判明。そうだそうだ、今目の前で深々と頭を下げてくれたのはガルデスさんだ。
アニメじゃそんなに出番なかったはずなのにベテランイケボ声優が声当てていて、だからイケボ熊とか勝手に呼んでた記憶がありますごめんなさい。そして、現実でもその声のまんまだ。おお耳の保養。
「ガルデス総隊長は、ウーラ侯爵家のご嫡男でいらっしゃいますのよ」
「わ、わあ、そ、それは失礼いたしました!」
んで、そうでした侯爵家。しかも嫡男、つまり跡継ぎである。それなのにこの謙虚な態度で、地味に人気あったんだよなあ。
「いえ。我ら聖騎士部隊は、聖女様をお守りすることを使命として働いております。ですので、こちらの身分をお気になさることはありません」
この腰の低さとど真面目さと、そこそこ整った顔立ちと、あとめっちゃ強いのよね。ドラゴン殺しだか何だかいうのと同じくらいでっかい大剣ぶん回して、巨大魔物とタイマンできるし。さすがにここじゃ、大剣は持ってないけどさ。
と、ガルデスさんが一緒にいる男の子を振り返った。
「……ちょうどよいか。エイク」
「はっ」
男の子、と言っても今の私とそんなに変わらない年齢、に見える。田舎の食事とこの子が食べてた食事の栄養のレベルがどれだけ違うのか、と考えると多分、私よりちょっと年下かも知れない。
真っ赤な髪を、ガルデスさんよりちょっと長めに切りそろえているお坊ちゃん風の彼。……『のはける』で見た記憶はないなーと考えている私の前で、エイクと呼ばれたその子にガルデスさんは命令を与えた。
「先日内示していたが、本日より聖女キャルン・セデッカ様付き小姓として正式に任命する。務めに励むように」
「拝命いたします。キャルン・セデッカ様、本日より専属小姓として着任いたします」
ありゃ。
そう言えば、メイドさんと小姓が一人ずつついてくれるんだっけ。このエイクが私についてくれるってことか……『のはける』にはいなかったぞ、本気で。エイクの名前にも聞き覚えないし、もしいたのならショタ枠で覚えてるはずだ。
「エイク・カリーニであります。書類などの雑務及び護衛などの任を請け負いますので、何なりとお申し出ください……ちっ」
「キャルン・セデッカです。お世話になります」
敬礼するエイクに、私は頭を下げる。そっか、男の人つけてくれるのって専属護衛の意味合いもあるんだ。そうだよなあ、私とか強くないし。それならありがたく、お世話になることにする。
ところで、舌打ち聞こえたぞ。はいはいどーせ平民だからとか思ってやがんだろ、一瞬顔ひきつったけど、聞かないことにしといてあげるよ。これでも聖女様だからね、ふんだ。
「エイクは聖騎士見習いでしてね。未成年ではありますが、任務を必ず果たしてくれるはずですよ」
「ありがとうございます。良い方をつけていただいたようで何よりです」
「武功で名高いカリーニ子爵家の三男様、でしたわね」
ほうほう、そうなのか。子爵家で三男坊だと、家を継げないから自力でなんとか頑張ろう、って子なのかもしれない。
何でこの子、『のはける』には出なかったんだろ? ま、いいか。私は作者じゃなくて、ただの一ファンだったんだから。
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