09.設定齟齬をチェック
さて。
フランティス殿下じゃなくてエンジェラ様に宿舎を案内してもらい、メイドさんと小姓さんをつけてもらって翌日。荷物はメイドのゼッタさんがきっちり片付けておいてくれました、さすがメイドさん。
「おはようございます、キャルン様。お目覚めの時間でございます」
「おはようございますー、ゼッタさん」
当の栗色髪おさげメイドことゼッタさんが起こしに来る頃には、私は既に目が覚めていた。ほら、農家って朝からやることいっぱいあるし。時期によっては夜明け前から収穫とかさ、でないと村の市場とか行商人に売りつけるのとかに間に合わなくて。
「呼び捨てで結構でございますよ。良いお目覚めのようで、何よりです」
いや、いくら専属メイドさんでも呼び捨ては無理だわ。ゼッタ・ロール、れっきとしたロール男爵家のご令嬢なんだもの。五女だけど。
「父がどうしても男の子が欲しい、と頑張った結果ですね。私の下にやっと弟が生まれまして」と遠い目をして説明してくれたよ。田舎みたいに、娯楽がほとんどない環境でついつい夜頑張ったのとはちょっと違うのかね……ま、いっか。それぞれ、家庭の事情があるし。
「実家だと畑仕事とかありましたから、朝は早いんです……夜も早いですけど」
「なるほど。こちらとしては助かりますね」
「そうなんですか?」
「個人差はありますが、貴族の方々はそこそこお寝坊さんなことが多いですから。うちは女が多いので、朝の準備が大変で早起きになりましたが」
「ああ……」
薄い色のワンピース……聖女としての制服、というか宿舎にいるときの標準服らしいそれに着替えると、ゼッタさんは寝間着をまとめてかごに入れる。シーツや枕カバーを剥いで、全部洗濯するらしい。
お城すげーな、一流ホテル並みだってそりゃそうだ。基準が前世仕様になってる、いかんいかん。
で、洗濯物持っていくゼッタさんと一緒に部屋を出ると、外でちゃんとエイクが待っていた。「おはようございます、キャルン様」と挨拶だけはきっちりしてくれるんだけど、どうも不満を隠せてないのがまだまだだよねえ。
「本日は読み書きの練習を中心に行うとのことです。朝食後は、教室にご案内いたします」
「よろしくお願いします」
おお、やった。文字の読み書きって、綺麗な見本が欲しいもんな。コトント村にそんな見本、なかったわー。
というわけで私は嬉しいんだけど、エイクはやっぱり不満顔。その二人を見比べて、ゼッタさんが困ったように声をかけてきた。
「……あの、キャルン様」
「大丈夫、気にならないです。平民の出なんですから、気に食わない方も多いでしょうし」
「ですが……」
「小姓としての任務は、きちんと果たしてくださると思いますよ? 万が一私に危害が加わるようなことがあった場合、責任を問われるのは護衛の任務も兼ねている彼ですもの」
おい、このくらいでぐっと怯むなよ、エイク・カリーニ。後、どうせ空気読めない平民とか思われてるんだろうから、このくらいは言わせてもらってもいいでしょうに。
あとね……確かに平民出身だが、今の私は名目上とはいえセデッカ伯爵家令嬢である。子爵家の息子であるエイクより、ちょっぴり上の立場なのだ。階級社会バンザイ。
「ね?」
「……任務は果たします。これでも騎士の端くれですから」
よしよし、自分の立場というものは分かってるようだ……何か、私偉そうだな。『のはける』キャルンは、このエイクの立場に近いところにフランティス殿下や逆ハー連中が来ちゃったせいでもっと、空気も何も読めなくなったのかね。あーやだやだ。
……『のはける』といえば。
「あれ?」
『のはける』では確か、エンジェラ様には護衛騎士が付いてたような記憶がある。キャルンの逆ハー要員だったけど、結局いいように利用されておしまいだったっけなあ。いや、やらんけど。
その護衛騎士が、現世でいうところの小姓に当たるのかな。私に付く以上、当然エンジェラ様にもいるはずなんだけど。
「いかがなさいました?」
「そういえば、エンジェラ様にも小姓はおられると思うのですけれど、昨日は見かけませんでしたわね」
「もちろん、おられますよ。昨日は王太子殿下がご一緒でしたから、遠慮して少し距離をとっておられたかと。ウーラ侯爵家のゲルダ様ですね」
「ああ、やっぱりおられ……んー?」
思わず尋ねてみると、エイクじゃなくてゼッタさんが答えてくれた。まあ、聖女の宿舎に勤めてるメイドさんなんだから、事情とかも色々知ってるだろうってウーラ?
「ウーラって、総隊長さんのごきょうだいってことですか?」
「妹君でいらっしゃいますね。次女だとか」
「女性なんだ……」
ずーれーてーるー。あとガルデスさんの妹って……『のはける』じゃあ確かに身内だった気がするけど、きょうだいじゃなかったと思う。名字違ったし。
いやまあ、そのまんまだとこう、いろいろめんどくさいことになりかねないからいいけどさ。つーか聖騎士部隊、女性もいるんだ。
「聖女の素質が判明する以前より、王太子殿下とのご婚約は成り立っておりましたから。殿下がエンジェラ様のお側に、あまり殿方を近づけたくなかったのだともっぱらの噂です」
「あー……なるほど」
「……俺よりもお強い方ですからね、ゲルダ様は」
なにそれベタぼれやん、ちょいヤンデレ入ってるかも知れないぞフランティス殿下。
あとエイク、君はまだこれからだと思うぞ。頑張れー。
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