第三話 〜僕とは違う彼〜

 確実に目の前のボクは、僕が考えていることに対しての意見を述べていた。


 「キミは僕の考えが分かるのかい?」


 僕は何よりもそれが知りたかった。


 「そうだよ、何か変かい?」


 続けて目の前のボクは言った。


 「君もボクも同じ松井 涼介だろ?」


 「そうだね」


 僕は間をあけて、そう答えた。なんとなく目の前のボクに合わせた方がいいような気がした。


 「けどさ、僕はキミの心の中なんて読めないよ」


 「それは君が変なんだよ。」


 目の前のボクは驚いたように言った。


 「なんでそう思うんだい?」


 僕は目の前のボクに説明を求めるように言った。

 

 「だってさ、鏡に映っている自分の旨趣が分からないなんて可笑しいじゃないか」


 僕は確かにそうかもしれないと思った。僕も、五時七分に起きってしまったあの日以前は、鏡に映る自分の気持ちを分かっていた。

 何故なら…


 「それは、君が鏡に映る自分と同じだと考えていたからだろう?」


 目の前のボクが遮るような形で、僕が考えていたことを口にした。

 僕は頷いた。


 「けど、実際はそうではない?」

 

 僕はまた頷いた。


 「それは妙だよ。だってボクには君の考えていることが分かる。」


 「自分自身が何を考えているか、分からないんじゃ、自分が自分じゃ無いみたいじゃないか。」


 彼は続けて言った


 「キミも今、鏡を見ているのかい?」

 

 僕は尋ねた。

 知らない方がいいような気もしていた。けど、聞かないと話が先に進まないことぐらい分かっていた。


 「当たり前じゃないか」

 

 彼はそう言った。

 もう、目の前のボクは一人称ではなくなってしまった。

 


 僕は長い間、頭の中が働いていなかった。五分くらいだろうか?いや、十分くらいなのかもしれない。

 どちらにせよ、僕は、彼が何かを言ってるのを感じとり、目の前に意識を取り戻した。


 「大丈夫かい?」


 彼にはそれが分かっていたことのように、僕に尋ねた。


 僕は頷いた。声が出せる状況ではなかった。


 「キミは何時に起きるんだい?」


 僕は心を落ち着かせて、声を絞り出すように、彼に尋ねた。なんとなく、聞いた方がいいような気がしたのだ。


 「六時だよ。どうやら、ボクと君は違うみたいだ。」


 彼はそう言った。そして、続けた。


 「今日はもう寝よう、もう夜の一時だよ。」


 僕は長い間、放心状態だったようだ。


 「朝早く起きすぎないようにね」


 僕は最後、彼にそう言った。




 結局、僕はなかなか眠りにつかなかった。

 僕はもう一人のボクのことを考えていた。

 僕に今朝、「夢じゃない。」といったのは、彼だったのだろうか?

 正直、わからなかった。彼は僕に、僕の旨趣が分かるといった。それは、本当に妙なことだった。僕には、彼の考えは分からないのだ。


 「彼には彼の事情がある。」


 それが最終的に僕が編み出した、答えだった。



 その後も僕は、結局眠らずに、どこか遠くに行くことを決めたのであった。

 

 

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