第二話 〜いつもとは違うボク〜
僕は、今朝不思議な体験をした。それはまるで、初めてゴッホの絵を見たようなイメージを僕に与えた。
今、僕は美術の授業を受けている。授業の内容は自画像を書けというものだった。自画像は自分の特徴的なパーツを的確に描く事が大切らしい。僕は自分自身を、絵はとても上手い方だと自負している。小さい頃から見本を見ながら絵を描くということが趣味の一つでもあった。しかし、僕は自分の特徴的なパーツというものがイメージ出来なかった。
鏡を見て、自分の顔を確認してもよかったのだが、鏡に映る自分の顔は自分のものでないような気がしていた。
このような記事を見たことがある。「多くの人の心を惹きつける絵を描くゴッホも多くの自画像を描いている。その絵の中に他の自画像と比べて、とても暗い色で描かれている自画像がある。その自画像は精神障害を患っていた時に描かれていた自画像であった。」
僕は、調べてその絵を見てみたのだが、悪いものではなかった。その絵にもゴッホらしさが充分に溢れていた。僕も今の僕を描けばいいのかもしれない。そんな風に思った。
しかし、ゴッホのように現在の境遇を描いても、上手くいかない気がした。
結局、自画像は白紙で提出した。だんだん僕という存在が薄くなっていくようで、落ち着かなかったのだ。
もしかしたら、自画像にありのままの自分を色濃く、残しておくべきだったのかもしれない。
今日の学校生活も其れと無く終わった。そうは言っても、地に足がつかないような不安定な状態が続いていたことは間違いのない事実だった。
そんな僕の気持ちとは裏腹に、時計の針は音を立てて、安定したペースで進んでいた。
そんな時計の動きを見ながら、物思いに耽っていた僕であったが、早いうちにこの問題のけりをつけた方がいいような気がしてきた。それは、突然やるべきことを思い出した時のような急なことだった。
僕が鏡の中のボクをみたのは、明日の用意を終わらせた後の、夜八時半過ぎだった。
そこに映るボクは、かつて見たことのないような酷い顔をしていた。
僕は今、どのような顔をしているのか分からなかったから、鏡の中のボクが僕なのかは判断出来なかった。
「今日の僕は酷い顔してるね。」
気が付いたら、そんな事を言っていた。
「それはボクに言っているのかい?……‥それとも自分自身にかい?」
僕はとても驚いた。
声は間違いなく、目の前に鏡の中にいるボクから、発せられていたからだ。
僕は返すべき言葉が、見つからなかった。
動揺しているからだろうか?
––––いや、そうではないだろう。
僕も分からないのだ。
僕は、自分自身に聞いたのだろうか?
「いや、違うよ」
そう聞こえた。
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