赤の鏡〜そこに映るのは〜
素面の暇人
第一話 〜僕という存在〜
僕–––松井 涼介は、朝六時に起きる。七時でも八時でもない、六時なのだ。それが僕には一番しっくりくるし、なりより僕の体はもう六時に起きることに慣れてしまっていた。
それからすぐお風呂に入る。ずっと入っている訳にもいかないので、十分以内にお風呂から上がることにしている。
今度は上がったらすぐに鏡の前で歯を磨いて髭を剃る。そして朝飯を食う、あとは前日に用意した学校の鞄を背負って家を出る。(その頃には大体七時くらいになっている。)特に変わった事をしてるわけでもない、尋常一様な生活だと自分でも思う。
稀ではあるかもしれないが、スポーツに力を入れていれば朝のランニング。勉強に力を入れていれば早朝勉強なんてこともする人もいるだろう。到底自慢できることではないが、僕はそのようなことをしたことはない。
学校生活は華やかな生活とは言い難い生活を送っている。友達なんてものは勿論、話すことすら珍しい始末だ。だが、学校生活は耐えられないものではなかった。することが無ければ本を読んでれば良いわけで、授業も其れと無く乗り切っている。勉強も出来ない訳ではない。そこそこの成績はとっている。
しかし、今日は違った。朝五時七分に起きたのだ。このことは、僕にとってとても珍しいことだった。例えるならば、無作為に集められた百人のイギリス人全員がティータイムを奪われてしまったような、(イギリス人に行ったことはなく、断言出来ないが)そんな感覚だった。
今から二度寝することも考えたが、小さい頃に二度寝は健康に良くないというテレビ番組を見たことを思い出したから、やめておいた。
結局六時には家を出れる状態だったので、余った時間を潰す為に、洗面所の鏡の前もう一度顔を洗った。そこに映るボクには何か違和感があった。たが、その違和感が何なのかは、分からなかった。
僕は普段朝読者はしないのだが、今日は時間があったので、村上春樹の本を読むことにした。
読んでいると、『よく言えば一匹狼、悪く言えばはぐれ烏』という表現を見つけた。僕は自分自身を「孤独な人間」だと決めつけていたから、どちらの表現もカッコよく思えた。
しかし、自分自身を彼らと比較する気にはならなかった。「一匹狼」も「はぐれ烏」も本は読まないだろうが、もし「孤独な人間」という表現を見つけたら、自分とは全く別の存在と考えるかもしれない。彼らは生きるのに必死なのだ。私みたいに時間は余らないだろう。
そんなことを考えながら鏡を見ていると違和感の正体に気付いた。鏡の中に映る僕が、いつもの僕とは少し違うのだ。それは「何が違う?」と尋ねられても説明できないようなほんの僅かな違いなのだ。
もしかしたら、いつもより早く起きてしまったせいで、僕あるいは周りの存在が歪んでしまったのかもしれない。
「これは夢なの?」
僕は困惑しながら目の前のボクに、小さい子に話しかけるような優しい声で尋ねた。
目の前のボクが「夢じゃない。」と言ったような気がしたけど、きっと気のせいだろう。
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