関係性を簡易的にまとめたレポート

「早かったな」

 琴平が抑揚のない声で告げた。感想はそれだけらしい。すると、先ほどまでと打って変わって、まるで覇気のなくなった声が聞こえてくる。


「酒が回って…どうしようもなくなる前に決めたかったんだよ」

 声を絞り出した伊野田は、体をヨタヨタと揺らしながら膝をついた。体を引きずって棚に乗っていたバケツに震える手を伸ばし、落とす。乾いた音が響いた。転がったそれを掴んで抱え込み、彼は背中を丸めて吐いた。それを見た琴平は、目を細めて冷ややかにぼやく。


「昨今稀に見る、なかなかの失態だ」

「だから一人で飲みに行くなって言ってたのか」拓が半ば呆れ声をあげる。

「顔には出ないが、際限なく飲む男だからな。いっそ酔拳でも使えるようになれば考えるが」

「あいつ大丈夫?」

 拓が不安げにそちらの方向を見やると、おぼつかない足取りでバケツを抱えながら倉庫の奥へ去っていく伊野田の姿が見えた。


「全部吐くまでそのままにしておけ、自業自得だ」

「ウェティブはどこいった?」拓がきょろきょろしながら部屋を見回した。琴平は淡々と答える。

「本体に戻った」

「つまり?」

「……」

「どこ?」

「笠原工業、本社ビル」

「えっ……」

「君がはるばる痕跡を追ってきたのはご苦労なことだが、灯台下暗しというやつだ。だがこちらも情報を欲しているのは事実。互いに協力するのはどうかね。君は違法の情報を提供する。私たち事務局で買い取り、違法機体を発見し破壊する」


 状況を飲み込めない拓は、目を開いたま小刻みに首を上下させていた。ふと、追い出したかのように訊く。

「…ウェティブはなんであんたらを追ってるんだ」

「彼は身体を探している。おなじDBデザイナーベイビーの伊野田に成り代わるために私たちを追っている」

「おなじDBデザイナーベイビー……?」


「ウェティブは因縁だ」

 状況の飲み込めない拓に答えを提示するように戻って来た伊野田が言った。いつのまにか顔を洗ってきたのか前髪が濡れていた。まだ気持ち悪いのだろうか。しかめっ面を、肩にかけたタオルで押さえてから口を開いた。


「おれの登録名はアトラス、あんたが言ってた消えたDBデザイナーベイビーっておれのことだ、たぶん」

「ええ?」

 拓の素っ頓狂な声を無視して、彼はそのまま続けた。

「事務局の業務も兼ねて、違法機体をかたっぱしから破壊するために移動してる。今みたいに。違法は見つけ次第叩かないと、あいつが転送してきちまうからな」


「俺、あんたがウェティブかと思った。まさかこんな…」

 拓が訝しげに、伊野田のつま先から頭のてっぺんまで眺めていると、彼は少しだけ笑みをこぼした。

「こんな酔っ払いだと思わなかった?」

「うん」

「素直なのは好感が持てるな」

「それはいいんだけどな」

 拓は、場が収まりそうなことを察して、言いにくそうに体を揺らす、まだ括られたままだった。

「トイレ貸して」

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