戦いを目の当たりにした時のレポート(5)

「飛び道具なんて、……、ずいぶん古風だな」

 思っていたより重い一撃にわずかに手に痺れを覚え、伊野田が口を開いた。片手で受けてたら完全に押し負けていただろう。


「古風だけど、便利だろう。古い時代の型みたいでね、制御が効かなくて破棄されていたみたいなんだけど、ぼくなら扱えるからね。これのセンサーを探していたんだ」

「見つかってよかったな」

 伊野田は険悪な顔をしながら、一歩後退した。腕が飛んできてもかわせる距離でありながら、瞬時に間合いに滑り込める位置を探す。しかも飛んでくる腕は速く、重い。機体自体の強度はそれほどでもなさそうだが、腕だけが厄介だった。

 直線状に飛んでは来るが、バウンドした後の方向が読みにくい。しかもアルコールが回っているせいで、判断力が衰えている。その自覚はあった。


 今度は機体のほうから踏み込んでくる。それはわかっていたが、腕が振り下ろされるか、飛んでくるのかの判断が出来ず、伊野田は舌打ちをして後退した。

 次に振り出されるのは機体の足だ。真上に跳ね上げられるそれを、体を右に傾けて避ける。息つく間もなく重みのある回し蹴りが繰り出され、伊野田は左腕で受け止めた後、倒れそうになる身体を右膝に体重を乗せて堪えた。そのまま踏み込み、ナイフを突き刺す。


 機体の左胸の装甲を抉る感触を覚えたのだが、ほぼ同時に感じた悪寒から逃れることはできず、彼は歯を食いしばった。間合いに入ったことで腕を打ち込まれ、本来なら自分の脇下を狙ったそれは、右胸にぶち当たり、勢いそのまま伊野田を打ち倒した。


 再び床を転がり痛みに悶えそうになるが、放たれた機体の腕を抱え込み離さなかった。こちらに飛びかかろうとしている本体が視界に入り、彼は本体に戻ろうとする腕の力を利用して真下に打ち付けた後にナイフを振り下ろす。腕が手のひらを痙攣させているが同時に、すぐに自分の頭上を何かが勢いよく通り過ぎていき、一度すばやく後転した後で機体へ飛びかかった。


 腕を完全に破壊できたのかはわからない。下手すれば背後から追撃される可能性があったが、気にしていられなかった。機体が後退しながら振り落としてきた脚を、跨ぐように飛び上がって避けたあと、機体に飛びのる形で両足で踏みつけた。

 仰向けに倒れた機体の首に膝を打ち付け、パーツが外れ剥き出しになっていた額へナイフを振り下ろした。機体の頭蓋に根元まで突き刺さったナイフに力を込めて、伊野田はそれを見下ろした。機体は笑いながら口を開いた。


「捨て身作戦かい? 酔っ払いのくせにこんなに動けるとは思わなかったよ」

「うるさい。出来損ないの機体に、おれが負けるか。もう、しばらく出てくるな」

不気味に笑いながら 次第に機械の電源が落ちる。転がっている腕は煙を上げて停止していた。

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