戦いを目の当たりにした時のレポート(4)

「あいつ、さっき酒飲んでたけど大丈夫か」拓が少しだけ心配そうな声をあげた。

「ろれつが回っていたから大丈夫だろう」琴平は淡々と答える。よくあることらしい。

「あんたは助けに入らないのか」

「不完全な機体に2対1で挑むのはフェアでないし、私の助けが必要なうちは、彼はまだ未熟者ということだ」

「そういうもんなのか」拓は、コンクリートのリングを再び見つめた。


 後退する機体よりも伊野田のスピードのほうが一歩速く、目で追えないほどのスピードで彼のナイフが空を薙いでいった。


 それでも機体の胴体、装甲の表面をひっかいた程度に過ぎず、ナイフの軌道上で右腕を捕まれた伊野田は、そのまま勢い良く引き寄せられ、体を持ち上げられたと思った頃には、コンクリートの床に全身を打ち付けていた。


 呼吸が詰まる以上に、ひどいめまいが彼を襲った。転がった反動で体を起こしはするが、平衡感覚が保てないのか足元をフラつかせながら、両の手根で頭を小突いている。顔もしかめていた。多少呻いてもいたかもしれない。


 だが当然ながらウェティブが待っているわけもなく、迷うことなく機体を突進させてくる。不格好な機体から、肘から下のパーツが破損して崩れ落ちたように見えた。


 所詮はツギハギの機体だと拓は思ったが、取れた腕は手を拳の形にして落下し、大きくバウンドしてから伊野田の方へ飛んで行った。落下した腕に気を取られたのか、虚を突かれた彼もさすがに驚きを隠せず、とっさに両手でナイフを握り直し飛んできた腕を受け止めた。身体を捻って弾け飛ばした腕は反対側の壁にめり込んだ後、すぐにバウンドし、本体へ戻っていった。だが機体はまたすぐに、右腕を掲げる。

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