ヤケクソになった時のレポート(1)
「話すことの見返りは?」拓は訊いた。スーツが答える。
「内容による。使えそうであればそれなりの礼をする。使えなければ偽造IDで通報する」
(見返りゼロじゃねぇか)
拓は訝し気な顔で男を見上げ、長い溜息をついた後に意を決したかのように口を開いた。
「あんたら、もし笠原工業と敵対してるってんなら、それは俺も同じ立場だ」
拓はそう述べてから二人の顔色を窺った。何も言ってこない。話を続けろという意味と捉える。どこまで話すべきか考えながら慎重に言葉を選ぶ。
拓は、”違法オートマタを製造する笠原工業の裏事業について”、”笠原の関係者である自分であれば社内の情報も掴める”、”それは例えば違法機体の製造地割り出しなど”をざっくり手短に話した。本当に事務局の人間であれば、詳細を聞かずとも意味はわかるだろう。
スーツの男が頷いているのを尻目に、戦闘服の男は苦い顔をしていたが、拓は構わず自分の目的について話をした。
「俺がエクスプローラやってる理由はな、違法機体の痕跡を追ってるからだ。笠原最初の違法オートマタの痕跡と、同時期に消えたデザイナーベイビーって呼ばれる素材の行方を捜してるんだ。こんなこと、笠原の人間と当事者以外、誰が知っている? その痕跡が荒地で途絶えたから、気分転換にバーに行ったんだ。満足か? 殴るなよ? タダでここまで話したのは初めてだよ!」
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