ピンチ回避のレポート(4)

 拓が目撃した男のそれは、相手がどう動くのかを理解した上での動きだった。まだこちらに向かって来ていない機体に対しての男の姿勢、踏み込み方、スピード…さすがに勘だけではそんな動きはできないだろう。


 店外に飛び出した拓は暗がりの路地をどちらに逃げようか一瞬考えた。なじみのない土地だと、こういう時の一瞬の迷いが足元をすくうことになるのだ。案の定、どこからともなく表れた太い腕に後ろから羽交い絞めにされ、あっさり腕を極められてしまった。


 何が起きたのかわからず瞳をしばたかせた拓は、じわりと軋む腕に顔をしかめつつ、聞こえてきた足音に恐々とした。前方の暗闇からゆっくり近づいてくるのは、さきほどのバーの男だった。派遣警備オートマタをどうしたのかわからないが、既に目の前にいるということは機能を停止させたということだろう。


 街灯の下に姿を表した男は、意外にも冷めた表情でこちらを、いや拓の頭上を見ていた。すると今度はその頭上から声が聞こえる。どこか呆れたような声色だった。


「まったく……。きみが戻らないから、どうせまた飲み歩いているんだろうと町を歩いてみれば、これだ」

 しかし、拓を追ってきた当の男はそれをあっさり無視して、少しだけ困った顔で拓にナイフの切っ先を向けた。店周辺の路地がざわめきを帯び始めている。


 目の前の男は瞳を左右に動かしてから、「移動しよう」と言って見上げ、慎重にナイフをしまった。そして拓へ向き直り、「話を聞かせてもらおうか」と告げ、瞳を覗き込んだ。拓には男の目が一瞬、緑色に光って見えたのだが、錯覚だったのかすぐに元の色へ戻った。


 拓の方は、体の自由を完全に奪われ動くことができなかったので、とりあえず頷いて見せた。苦笑いになっていたかもしれない。そのあと、視界がゆっくりと暗く、暗く、なっていった。

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