ピンチ回避のレポート(3)
拓の一言で、男は席から立ち上がり再び腰に手を回した。隠すつもりはないらしい。獲物を狙うように拓を見据えた。拓はごくりを唾を飲み込み、咄嗟にリスト型端末に触れる。先ほどハッキングしたオートマタの制御時間がわずかに残っていた。
だが、入口に向かっていた機体が勢いよく戻ってくるよりも一手速く、何かに反応した男が素早くそちらに向き直った。実際のところオートマタは、まだ振り返ってもいない。
拓はぎょっとしながらも身を翻し、バーカウンターの内側に飛び込んだ。マスターが酒瓶を割ったようだが気にしていられない。オートマタはぐるりと180度身体を回転させ、こちらに、男の方へ向かって駆けだしてくる。驚いた客が悲鳴を上げるのが聞こえた。拓は驚きを隠せないまま店の奥、狭い裏口へ駆けた。足元に所せましと置かれた酒や食材のケースが邪魔で思うように進めないことがさらに彼を焦らせ、胸中毒づく。
(今のはなんだ?!)
店内からの騒音がこちらに迫る。振り返るがまだ誰も追いかけてきていない。躓きながら裏口のドアノブを捻る。乾いた外気が髪を撫でた。
(人間じゃ気づかない異変を見抜いたって理由でオートマタと仮定しても、あいつには円環がない。つまり違法ってことになるがそれじゃ精巧すぎる。違法オートマタと仮定すると荒地で途絶えた痕跡の主はこいつなんじゃ…?ひょっとしてあれがデザイナーベイビー、ウェティブなのか? あの速度でオートマタの動きに気づくなんて。普通じゃない)
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