第一印象のレポート(1)
「見ない顔だな」拓は、いかにも地元の人間を思わせるようにそう告げた。地元民ではないが、滞在が短いわけではないからウソではない。
男のダークブラウンの髪は、ボサボサなのか敢えてそうしているのかわからないが、あちこちの方法に向いてる割に整ってみえた。瞳の色も同じような色でそれは琥珀を思わせた。力なく微笑む男の外見、この見た目でさっきの女二人がなんで席を離れたのか不思議に思った。
男は試合にははじめから興味はなかったようで、少しだけ気だるそうに会話を続けた。そこに嫌味じみたものはひとつも感じられず拓は不思議な印象を受けた。これがデフォルメなのだろう。
「ちょっと立ち寄ったついでにシメの一杯ってとこだよ」
「仕事か? こんな辺鄙なところに?」拓がそう言うと、カウンター越しのマスターが「そんなこと言ってくれるな」と眉根を潜めたのがわかった。
「辺鄙なとこだから、仕事があるってことかな」
男はグラスを揺らしながら簡単に同意する。
「へぇ、当てようか。それならオートマタ関連だろ」
「どうして?」
男はロングTシャツの裾を捲り、ジャケットを腰に巻いているが、ただのジャケットでなく戦闘服だと拓にはすぐにわかった。後ろ腰の膨らみも、ただシャツがゴワついているわけではなく、何かの装備かポーチがあるのだろうと推測できる。だが敢えて詳細を言わずに、拓は言葉を濁した。
「なんとなくだよ、俺はパーツを扱っててね、あんたみたいな奴とよく取引するからな」
男は「へぇ」と言いながらグラスを傾けた。いつの間にか空になっていたことに落胆した顔をして、マスターに同じものを注文する。男は自分の仕事について否定も肯定もしなかった。
その後は、当たり障りのない話をしていた。どこぞの会社の罠は使い勝手が良いとか、大手に務める誰それがニュースに出ていたとか。そんな話だ。つまり、二人には直接関係のない話だった。男が自分のことについて話をしたのは、ここに来ている理由だけで、「禁酒令が出てるけど、一仕事終わらせたからこっそり飲みに来てる。拠点に着替えに戻ると出てこれなくなるからさ」ということだった。脈絡のない話の中で、拓には彼が恐らく
スポーツ中継はとっくに終わっていた。
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