出会いについてのレポート(2)
右手にテーブルとボックス席のある、割と広い店だ。奥に向かって縦に伸びるカウンターには、何人かが酒を楽しんでいるようだったが、その奥にひとりで座っている男がいた。
周りのことなど気にもせず、静かに酒だけを楽しんでいる顔だった。男の席すぐ横に二人の女が立っていたが、神妙な顔をしてその場を離れていくところだった。なにかが上手くいかなかったのだろう。彼女らは別の男に声を掛けにいったように見えた。
拓はモニタに放送されたアイスホッケーの試合を気にしつつもフードを外し、マスターに目配せをしドリンクをオーダーする。男が座っている席から一つ間隔を開けて腰かけた。テーブルに置かれたグラスを掴むと氷がカランと音を立てた。一口あおると喉の奥がごくりと鳴る。安い酒だが不味くはない。対戦カードを眺めると、気に入っているチームだった。どこの、いつの試合なのかは、わからなかったが。
「どっちが勝ってる?」拓は意識せずにそう声を掛けた。男は緩い瞳をスルっと左にずらしてから、わずかに体をこちらへ傾け肩をすくめた。観てなかったからわからない、というジェスチャらしい。話しかけられたことを不思議に思っている面持ちを見せたが、すぐに眠たそうな、穏やかな顔つきに戻った。男は正面に向き直り、口を開いた。思いの外、陽気な声色に拓ほ少しだけ意表をつかれた。
「今日は変な日だ。男にナンパされたのは初めてだ」
「どんな気持ちだ?」
「んー、悪くない」男は歯を見せて笑い、そう言った。たれ目がちな目じりが緩りとした動きで穏やかさを表していた。そんな印象だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます