【改稿版】第7話 十万人記念凸待ち配信(その4)

『では、今度こそユイの登場です! どうぞ』



 色々と乱入があったもののようやく当初の目的通りに三期生へ移ることができた。

 とはいえ、長いこと待たせてしまったのも事実で、時間があると彩芽がどうなるかはわかりきったことでもあった。



『すぅ……、すぅ……』



 画面に羊沢ユイの姿を登場させたまではよかったものの、彩芽は寝息を立てて眠っていた。

 ただ、その声にはなんだか違和感がある。



『……ユイは寝てるみたいなので画面の外へ放り投げて、次はカグラさんに――』

『うみゅー!! そんなのは絶対に許さないの!』

『やっぱり起きてた。なんか寝息が変だと思ったんだよ』



“わかったか?”

“いや、全然分からなかった”

“噓寝だったんだ!?”



『うみゅー、ユキくんがたくさん浮気するからなの! ユイとのことは遊びだったの!?』

『ええぇぇ!? 一体何のこと!?』

『ユキくん? 私もその話、詳しく聞きたいですね』



 なぜかジリジリと二人に詰め寄られる。



『えっと、別にユイとは二人でコラボして遊んだだけだよね? むしろ遊びだったよね?』

『うみゅー、一緒に二人で夜を過ごした仲なのに』



 彩芽は泣き真似をしてくる。



『よ、夜なら私も一夜を共にしたことがあります!!』

『えっと、ユイは耐久配信で僕が寝落ちしてしまった日のことだよね!? あれは僕の性ではなくて、ユイがホラーをやらせるなんて罠を仕掛けたせいだよね!? ココママは……』



 家であった色々なことを思い出して、僕は思わず顔を赤く染める。



『と、とにかくこの話題はおしまい!! ほ、ほらっ、ユイ。自己紹介をして』

『うみゅー、めんどいからなくていいの』

『面倒くさがらないの。あと、それは僕の段ボールだから取ったらダメだからね』



 さり気なく僕の段ボールの中に籠もろうとするユイを引っ張り出す。

 枕片手に眠そうな表情を見せている羊。

 口調ものんびりとしたほんわかとした口調のために眠けを誘ってくる。



『仕方ないからユキくんを抱き枕にするの』

『あっ、それ私も欲しいです』

『……なんで??』



“ユキくん抱き枕、いいな”

“俺もほしい”

“段ボールで送られてきたら熱いな”



 郵送するのに段ボール以外はあまりないと思うけど……。

 とはいえ、そんなもの作られるのは恥ずかしすぎる。



『僕としては断固拒否を……』



 しっかり否定するところは否定しようとしたのだが、次の瞬間にマネちゃんから連絡がくる。



【マネちゃん】 今

 抱き枕、十万人突破記念にグッズとして販売しますので、告知をよろしくお願いします。



 それを見た瞬間に携帯を放り投げそうになる。

 もちろん、高いものなのですんでの所で踏みとどまったが。



『えっと、その、抱き枕は、その……』

『うみゅー!! 販売決定なのー!!』

『十万人記念って既に二十万人越えてるのにね。いっそ、ユキくんの水着抱き枕を……』

『ココママは余計なことを言わないでね。と、とりあえず、マネちゃんから十万年記念グッズとして僕の抱き枕を販売することがきまったらしいよ。もちろん、これからも何とか抗議をして撤回させようとするけど、もし万が一、億が一販売されるようなおかしなことが起こったら、見ない振りをしてくれると嬉しいな』

『うみゅー、十個は買うのー!』

『わ、私も負けませんからね!』

『そこ、張り合わないで! 買うなら一つだけ……、ううん、か、買わなくて良いんだからね!』



“最低でも三つか”

“寝る用と保存用と鑑賞用か”

“個数制限限界まで買わないと!”



 すでに買う気満々のコメント欄もこの際無視をする。



『と、と、とにかく、無理に買わないこと! 僕からのお願いはそれだけだからね! 選択されて窓から干されるなんて僕が見たら耐えられないから!』



 ビシッとお願いとしては強めの口調で言っておく。

 こればかりは僕の心の安寧に繋がるために言わざるを得なかった。

 ただし、みんなの反応は全く正反対のものになっていた。



『うみゅー、ユキくんが遊びに来るときは目立つように干しておくの』

『照れるユキくんは可愛らしいですからね』

『そ、そこ! 本当にやるから絶対にやめてね。もう家に行かないよ!?』

『うにゅー……、残念』

『やらなければ家に来てくれるのですね。言質はいただきましたよ』

『あうっ……』



 興奮して上手く二人にはめられてしまったようだった。



『いつにするの? 今なの!』

『一人で受け答えしないで!? さすがに今日は僕の精神が持たないよ……』

『ふふふっ、今日の予約は私が貰ってますよ』

『誰も上げてません。ココママも嘘をつかないで!』

『うみゅー、仕方ないの。明日で我慢するの』

『私も明日でいいですよ』

『なんでそんなに急ごうとするの? 一月後とか一年後とかにしようよ』

『ユキくんなら永遠に後回しにするからですよ』

『うみゅ、今週のどこかでできるように手回ししておくの。あっ、ユイのは白いもこもこしたやつなの。また後で連絡するの』



 それだけいうとユイはあっさりと去って行く。

 すぐさまマネちゃんから“コラボの日程抑えました”と連絡が来ていたけど、見なかったことにする。

 だって、今は配信中だもんね。



『オフコラボ、明日は私、明後日がユイさんに決まりました! ぱちぱちっ』

『ちょっ!? 僕が見ないように未読無視していたのに』

『ユキくんならそういって見ないまま明日になると思ったんですよ。みなさんも配信しますし楽しみにしていてくださいね』



“ココユキはもう同居してください”

“忘れずに行かないと”

“今から待機しておく”



『でも今日はとにかくこの凸待ちをしっかり終えないと行けませんね。次の人に行きましょうか?』

『次は……えっと、あっ、カグラさんだ』



 同じく三期生としてデビューした神宮寺カグラさん。

 こよりさんや彩芽とは違って、あまり話したことのない人。

 もちろん、オフコラボなんてもってのほかである。

 そもそも同期の中でも僕が男であることを知らない唯一の人でもあった。


 ただ同期として顔合わせもあるだろう。

 だからこそ緊張してしまうのは仕方ないことかもしれない。



『大丈夫だよ、ユキくん。カグラさんも良い人だからね』

『うん、知ってるよ。そ、それじゃあ、どうぞ』



 カグラさんに登場してもらう。



『えっと、自己紹介をお願いします』

『えっ!? も、もう出番!? わわっ……』



 ゴンッ!!



 ものすごい音がして、カグラさんの声にならない声が聞こえてくる。



『だ、大丈夫?』

『え、えぇ、大丈夫よ。わたくしがこの程度で痛がるはずありませんわ』



 すごく痛そうなんだけど。

 ちょっと声も震えてるし……。



『と、とりあえずお名前をどうぞ』

『仕方ないわね。とくと聞くと良いわ。私の名前は神宮司カグにゃ……』



 尊大な態度からの盛大な噛み。

 瞬く間にカグラさんは顔を真っ赤に染めていた。


 その様子をみて僕は“この人も同類なんだ”とむしろ仲間意識に芽生えるのだった――。



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